052
三日目の早朝になると外から人間の気配がした。
「来ましたか」
昨日の夜から来ているのは知っていたけど、知らないフリをしていた。僕の側にはソフィ以外はダイアウルフしかいない。ゴブリン達は昨日の内に次の襲撃予定地点の近くまで動かした。拠点にあった目ぼしい物と賞金首は彼らに預けた。
「本当に空なのか……」
入って来た男が呟く。彼の他にはゲート修理のための人員が世話しなく動いている。
「では、後は任せます」
僕はお姫様抱っこしたソフィを連れて拠点を出る。仕掛けてくるかと思ったけど、まだその時ではないらしい。
「誰?」
「知らない人です。アディの同僚でしょう」
スルーブルグを出る際にダニールから空になった山賊の拠点を盗賊ギルドが接収する計画があると聞いていた。なので僕の方からダニールに訪ねてくる日を指定しておいた。三日、六日、九日目にそれぞれの拠点に人が来る事になった。
「ただで渡すなんて~! 燃やす~!?」
「手広くやりすぎたら首を絞めるのは盗賊ギルドです。一度手に入った拠点を捨てられるでしょうか?」
盗賊ギルドはスルーブルグ内では最強の地下組織だ。しかし北東の自称山賊王と南西の山賊多発地帯によって先細りが激しい。起死回生をしてより大きなシノギを稼ぐには外へ打って出る他ない。そして盗賊ギルドにそんなノウハウは無い。山賊になるのなら別だが、盗賊ギルドの収入の多くは商人からのみかじめ料だ。守れるか怪しいけど守ると言った商人を盗賊ギルドが襲えば信用がガタ落ちだ。存在を黙認している領主も討伐に動くしか無い。
「きゃはは、アイクって悪~!」
ソフィが盗賊ギルドと戦った場合の勝率を上げようとしただけなのに。
「しっかり捕まっていてください。一気に行きます」
あえてソフィに言われるままにして進む。クリーチャー部隊とは問題無く合流出来た。
現在のクリーチャー部隊はゴブリン六体、スケルトンアーチャー二体だ。魔石屋で買った白の魔石を使ったからか、以前とは違うクリーチャーが多く出た。スケルトンが出たのはアンデッド系のモンスターの魔石が混じっていたためだろう。スケルトンは食べ物がいらない代わりに、周りの生命力を吸収する。そのため、僕達の近くに置くと干からびる。この様な短期遠征で消費する前提なら活躍できるが、くーちゃんみたいに長期使役には向かない。店がモンスター別に魔石を陳列しているとは思えないから、何が出てくるかは本当に運次第だ。それとこの六体には山賊から奪った服とフードを着せている。遠目から見たら大人二人と子供八人、そしてペット一匹の集団だ。正体が分かるほど近付いた人間は生かして帰さない。
前回の丸太の壁は円形だったが、こっちは四角だ。物見櫓が一つ見える。スルーブルグからある程度遠ざかってもう少し本格的な拠点が必要だったか。それとも最初に攻略した拠点は最近山賊主導で建てた物だったか。この程度の拠点では僕を止められない。
「ソフィ、まずは櫓をやって。そしてゲートを頼みます」
「はいは~い!」
詠唱を開始するソフィに山賊が気付いたのか、櫓から矢が放たれる。
「しっ! ソフィには届かせません! アーチャーは応戦!」
飛来する矢を剣で叩き落とす。雨の様に降ってきたら無理だけど、数本までなら対応出来る。僕の命令を聞いてスケルトンアーチャーがカタカタ骨を鳴らしながら矢を番える。ここで山賊が打って出たらゴブリンを対応に動かす事になり、全体指揮が困難になる。幸い、山賊は守り事を選んでくれた。そうこうしている内にソフィのファイアアローが櫓に命中して盛大な黒煙を上げる。
「良し!」
堪らず声を出す。
「次も行くよ~!」
盛大にゲートが吹っ飛び、後はいつもの流れになった。ただし、今回は突っ込むゴブリンをスケルトンアーチャーが援護する形にしたため、倒されたゴブリンは二体で済んだ。せこいと言われようと魔石の温存は死活問題だ。生き残る様に立ち回らせたゴブリンの罠師に拠点の調査を命じて、僕は山賊の首を斬り落とす。残念ながらここのトップは安い賞金首だ。拠点の防衛に力を入れていたのか、襲撃の記録は余りない。それを裏付けるようにこの拠点には目ぼしい物が無い。一番目ぼしい物が山賊頭が使っていた数打ちの剣と言う体たらくだ。
「モンスターが多い事に期待しましょう」
この拠点に籠って三日目の朝まで積極的に狩りをする。スケルトンアーチャーを入れた事で効率が少し改善した。しかしそれでも二日で四十個止まりだ。一か所で狩る限りどうしても上限が二十個前後になる。複数の個所で狩るのは非現実的だ。毎日確実に二十個狩れるのなら一月で六百個だ。この確実が曲者だ。休日と乱獲による個体数減少で三百個くらいになると推測する。白のクリーチャーをスパムするのなら悪くない数だ。でも黄のクリーチャー次第で白のクリーチャースパムは一瞬で瓦解する。
「引かないの~?」
ソフィが背中にもたれ掛かって言う。
「次にしましょう。召還に余裕を持たせたいです」
「つまんな~い!」
「賞金首で潤えば魔石を買えますから」
「ん~、魔石になるのかな~?」
鋭い。
「優先順位は低いです。でも大事なのはレイとソフィです。僕達が生き残れる事を優先します」
村に貢ぐのは僕とソフィの身の安全のため。自衛力を削ってまでそれをやったら本末転倒になる。
「ならもっと燃やさないと~! どんどん行こうよ~!!」
「もちろんです」
賞金を払えなくなるほど賞金首を集めよう。三日目の早朝に盗賊ギルドの人間が来たので、軽い挨拶だけして次に進む。
「傑作だったね~!」
「子供二人が拠点を二つ落とすのは想定外なのでしょう」
最初の男は驚愕だけだったが、二人目は明らかに恐怖していた。スルーブルグの外の仕事を任せられる男なら僕達が盗賊ギルドの敵になっていた可能性を当然知っている。彼らがどう動くか実に楽しみだ。
クリーチャー部隊と合流して三連攻略の最後の拠点を見下ろす。正確には八割程度を見下ろしている。小高い丘の上にある部分は僕達より少し高い位置にある。これが本丸だ。その本丸と丸太の壁の間にかなり大きな空間が開いている。ここに二十人ほどの山賊が居る。
「焼き放題~!」
「数が多いです」
「きゃはは、臆した~? 私が居るから大丈夫だよ~」
「相手がただの山賊なら突っ込むだけです。でも一つの拠点に三十人弱は少し変です」
本丸に十人くらい居る前提で話す。実際はもぬけの殻って可能性もある。山賊団は構成人数が増えれば増えるほど維持出来なくなる。なので大抵は十人弱だ。商人が雇う護衛が五~六人なのは山賊と一対一で対応できると言う考えからだ。そして基本的に臆病な山賊は戦力の圧倒的優位が無い限り仕掛けない。我先に襲う様ならスルーブルグとウェィンブルクの流通は完全に断絶される。こうなると二人の領主は上げたくない重い腰を上げて本格的な討伐に乗り出すしかない。
考えられる可能性は、独立した巨大な山賊団、盗賊ギルドのリーク、そして背後に大物が居るの三つか。巨大な山賊団の線は薄い。ギルドのリークは半々だけど、ここでリークするのはギルドに余り益が無い。次の拠点ならやりかねないと懸念しているけど、ここは盗賊ギルドが絶対に押さえたい拠点だ。となるとクワックヴィルの山賊王みたいなカリスマが何処かに居ると仮定すべきか。盗賊ギルドは「把握していない」と言っていたけど、彼らはスルーブルグの外では無力だ。スルーブルグに山賊ギルドがあっても気付いていない可能性すら懸念する。
僕はソフィを見る。ソフィは攻撃開始の号令を待っている。ソフィは僕の勝利を信じている。ならここで退く選択は出来ない。
「貯めた魔石を使います。顕現せよ、スライム、ダイアスパイダー、そして小さな炎の精霊!!」
これでクリーチャーは全部で十一体だ。まさか手持ちのクリーチャーを全部使い切るとは思っていなかった。勝つためなら手持ちのマジックとトラップを全部投入する覚悟だ。
「ソフィはゲートを吹き飛ばして!」
本当は山賊二十人を狙った方が良いと思う。でも下手に戦い方を変えるよりはこれまで効果的だった戦法を使う。
「あはは、アイクの敵は全部燃やしちゃうから!」
ファイアアローがゲートを吹き飛ばす。
「攻めてきます!?」
拠点の利を捨てて二十人の山賊がこちらに目掛けて走って来た。本丸からも十人ほどが急いで出てきてこちらに向かってくる。攻撃を受けた際の対応が決まっていたのならリークか大物で確定だ。
「炎の小精霊はゲート跡を攻撃!」
「ぐわぁぁぁ! 話と違……」
山賊の悲鳴が聞こえる。ゲート破壊から次のファイアアローまで時間が掛かると知っていたか。なら混乱させてやろう。
「マジック発動、ファイアアロー!!」
僕がマジックカードを消費してファイアアローを山賊の密集地帯へ打ち込む。ソフィには劣るけど、確実に山賊の一人を仕留めた。スケルトンアーチャーの矢が的確に敵の数を減らす中、前衛同士がぶつかる。
応援よろしくお願いします。




