051 南西の山賊討伐
スルーブルグから南西に伸びる街道を使えば、五日で次の城塞都市に到着する。王国の重要な流通経路の割りに直線が少なく、曲がりくねった箇所は山賊に取って最適な襲撃ポイントになっている。街道の安全を確保出来なくなって、城塞都市同士が戦争する場合の防衛機構がそっくりそのまま山賊の手に落ちた。
「直線距離は120キロか」
スルーブルグで足止めを食らっている間にダイアクロウを飛ばして南西のウェィンブルクへの距離を測っておいた。ダイアクロウの飛行速度が常に一定であると仮定して計算しているので誤差数キロ前後と見ている。
「真っすぐ突っ切る~!?」
僕がお姫様抱っこしているソフィが笑いながら言う。
「道なりに進んだ方が早いです。それに今回は道中の山賊が狙いですから」
山賊の拠点は複数ある。それをスルーブルグから一つ一つ潰していく。二人でやるのは自殺行為だけど、僕がクリーチャーを召喚すれば数的不利は覆せる。それにこんな所で山賊をやっている人間は加護を持っていない。加護を高確率で持っている山賊の頭だけは気を付けないといけない。
「そろそろ~?」
森の中へ入って少ししてソフィが苛立ちの籠った声で言う。
「そうですね。そろそろ良いでしょう。顕現せよ、ゴブリン!!」
僕はソフィを降ろし、ゴブリンを五体召喚する。ニック、サック、シック、ゴック、ロックと名付け、山賊討伐を本格化させる。
「ゴックはソフィを背負って。ロックは荷物を背負って」
背中に担いでいた二週間分の食料を降ろせてホッとする。最初からエクターを荷物持ちとして連れて来たら良かった。でもクリーチャー召喚は見せたくはない。魔法放出と道具創造は一般に露見しても大丈夫だけど、クリーチャーの召喚と使役は不味い。エクターが喜々としてこの力を誰かにバラすとは思わない。でもふとした切欠でヒントを漏らす危険はある。アディとダニールと一定の付き合いがあるから猶更気を付けないといけない。
「このまま進みます。盗賊ギルドから貰った情報をダイアクロウで確認した限り、この先に十人規模の山賊団が居ます」
ダニール経由でスルーブルグに近い三つの山賊の拠点情報を購入した。ダイアクロウを使った事前調査も終わっている。後は攻め滅ぼすだけだ。気を付けて歩を進めると丸太の壁が見えた。壁の一か所だけ左右に開くゲートになっている。
「ソフィはゲートを攻撃! ゴブリンは突撃!!」
「いっくよ~!」
ソフィのファイアアローがゲートを盛大に吹っ飛ばす。中の山賊が騒ぎ出すけど、構う事は無い。五体のゴブリンが奇声を発して殴り込む。
「行きます?」
「きゃは、当然!」
残るは雑魚だけど、ソフィは雑魚狩りが好きだからちょうど良い。拠点に入ると山賊の屍が転がっている。奥の方で賞金首になっている山賊頭がゴックの頭を斬り落とす。白の前衛職までは分かるけど、何かまでは分からない。たぶんファイターだ。それとゴブリンは残り二体。
「ソフィ!」
僕が言う前にソフィのファイアアローがサックを巻き込んで山賊頭の体に風穴を開ける。僕のゴブリンごと(・・)敵を倒す悪癖は治りそうにない。
「弱~い!!」
「戦闘終了。僕は首を落としてくる。ニックはソフィの護衛」
残心の欠片も無いソフィの護衛にニックを置いて、僕は死んでいる山賊十二人の首とゴブリン四体の魔石を回収する。数は盗賊ギルドの情報通りだ。
「次の拠点はいつ~?」
「三日後です」
「ええ~!?」
ソフィから不満の声が上がる。しかしこれにはちゃんとした理由がある。
「魔石が欲しいです」
僕は頭を下げる。この辺りは山賊団のおかげでモンスターが跋扈している。それと同時に冒険者がほとんど近寄らない。これほど狩りに適した場所は無い。
「アイクは私がいないと駄目ね~」
ソフィはソフィで魔法を全力でぶっ放せるので気分を良くする。
「顕現せよ、ゴブリンスカウト、ゴブリンの罠師!」
ゴブリンスカウトは特殊能力を持たないゴブリンの先導者だ。斥候能力が高く、モンスターを探すのに適している。ダイアウルフと同時に運用すれば良い結果に繋がる。ゴブリンの罠師はトラップ解除が出来る。この拠点にある備蓄が安全だと思うのは危険だ。罠師には一日掛けてしっかり調査して貰う。
「結構消費しました」
「もっと買えば良かったんじゃない~?」
「買い過ぎると怪しまれます。思ったより注目されています」
アディをパシらせてもっと白の魔石を買いたかった。金銭的にちょっとピンチだったので追加購入は見送った。それにここで稼げば良い。
山賊とゴブリンの死体処理をクリーチャーに任せて僕とソフィは早めに休む。それから二日掛けてモンスターを狩りまくった。違う山賊の拠点に近すぎない様に行動しなければもっと狩れたのに残念だ。
「大量~! 大量~!」
今の戦力で被害を減らす立ち回りをしては一日十五個が限界か。黄のクリーチャーを召喚すればもっと稼げる。でもやはり制御に不安が残る。今しばらくは白のクリーチャー中心に回そう。
「ソフィには見て欲しいものがあります」
「な~に!?」
「僕の力の秘密です」
「くすくす、あ~あの隠している何か?」
「僕なりにソフィのために覚悟を決めたって事で」
「……」
何故かいつもの煽りが返って来ない。
「では早速、顕現せよカードキューブ!」
幾何学模様に彩られたアーティファクトが眼前に召喚される。僕は魔石を九個取り出してカードキューブへ投入する。
「白の魔石を九つまで入れて、この取っ手を回すと……」
白のカードが九枚出てくる。ゴブリン、スケルトンアーチャー、牛、魔法ダメージアップ(一回)、ブーツ、アイスアロウ、落とし穴、オーバーレイ・ローグ、そして白の魔石だ。特に当たりと言えるカードは無い。白では仕方がないけど、山賊を倒すだけなら使い潰せば良いので問題は無い。
「物理変換? でもそこからクリーチャーを召喚するにはコストが足りない。不足分は追加の魔石から??」
ソフィがカードキューブとカードを見比べながら呟く。どうやら図書館通いで色々調べていたらしい。僕すら知らない魔法知識を惜しげも無く披露してマウントを取ってくる。
「空になるまで一気に回します」
七個を五回、六個を一回回してカードを大量に吐き出させる。七回で止めたのは純粋に使えるカードが七枚目で終わり、八枚目以降はオーバーレイと特殊カードが多くなるからだ。そしてカードキューブは灰となりメダリオンが残った。
「きゃはは、アイクが隠したい理由が分かった~! カードキューブ一枚あれば何処からでも逆転出来るって考えている~」
ソフィには当てられてしまったか。全てを失ってもカードキューブがあれば再起出来る。
「だからカードキューブの事はクリーチャー召喚より隠しべきです。そして五十枚を出すと灰になってこんな紋様が刻まれたメダリオンを残します」
ソフィにメダリオンを見せる。
「なんか知識面で初めてアイクに勝った気~!」
「ソフィにはこれが何か分かるんですか!?」
「ん~、教えようかな~、どうしようかな~?」
どうすれば良いんだ? 頭を下げると調子に乗りそうだし、下げないと機嫌が悪くなりそうだ。
「教えてくれると嬉しいかな?」
「もうアイクは駄目ね~! メダリオン一つ頂戴!」
「良いですよ」
「やった~!」
それほど喜ぶものなのか?
「それでこれは何なんです?」
「う~ん神代の祭器~かな~? この紋様は神代文字だし~」
神代文字! そんなものがあったなんて。
「で、それにはなんと?」
メダリオンの紋様が文字なら、何か意味があるはず。
「くーちゃん!」
ソフィがダイアクロウを呼びつける。
「くすくす、あげる~!」
そして僕の見ている前でダイアクロウの魔石にメダリオンを押し付けたらダイアクロウが光り出した! まばゆい光が収まると、そこにはダイアクロウが居た。
「変化がありません?」
「本当~にそう思う~?」
「え?」
僕はダイアクロウをよく見る。見た目の変化はない。内面が変わったのかと思いグリモワールを取り出す。そしてダイアクロウのページを確認すると、そこには「ダイアクロウ」の代わりに「くーちゃん【ユニーク】」の文字が!!
「特殊個体になっている!!?」
「あは、よろしくね、くーちゃん~!」
ダイアクロウ改めくーちゃんに抱き着くソフィ。
「カァ!」
駄目だ、理解が追い付かない。
応援よろしくお願いします。




