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 赤毛が立ち上がってまた二対一の構図になる。また仕掛けるほど短絡的では無いと信じたい。何せ殺さずに制圧出来るトラップは使い切った。


「盗賊ギルドの下っ端ダニールです」


 青髪の男が自己紹介をする。彼に促されて赤毛も名前を言う。


「アディ」


「姉貴は不愛想な方で」


「知っていると思うけど、アイクです。ただのしがない小作農をやっています」


「けっ!」


 アディが悪態をつく。


「謙遜し過ぎです」


 ダニールは絶対に胃痛枠だ。


「でも僕は村の同年代では下から数えた方が早いよ?」


 嘘ではない。同年代がレイとソフィしかいないから、僕が最弱だ。


「どんな魔境だ!」


 アディが喚く。


「至って普通の農村です」


 村長が領主と敵対して遂に一線を超えたかもしれないくらいの普通の村だ。


「まあ良いや、大事じゃないし」


 ダニール渾身のスルー!


「そうですね。僕は僕で忙しい」


「あの場所に三人は居ない事になっています。でも盗賊ギルドは居たのを知っています」


「それで? 蒸し返す必要があります?」


「何があったのかは把握したいのが上の意向です」


「バカが商品に手を出そうとして返り討ちに会いました。彼の吹っ飛ばされた先からゴブリンが出てきました」


「ああ、そういう……」


 ダニールは察したみたいだ。加護ブレイブ持ちに丸腰で挑めばそうなる。僕もなんで二人が僕を選んだか分かった気がする。加護ブレイブ)を持っていない僕の方が倒しやすい。


「それだけ?」


「ゴブリンが暴れて放火したまでは良いですよ。でもゴブリンが盗賊ギルドの資金まで盗むでしょうか?」


「ゴミ掃除をした正当な報酬です」


 ダニールの狙いはこれか。僕は少し話しすぎたな。古今東西、滅ぼした山賊の私財は討伐者の報酬だ。盗賊の扱いもそう大差ない。


「あの組織のはそうかもしれません。しかし上納金を奪われてはこちらも引き下がれません」


 言っている事は無茶だが、それを通せるだけの力があるのだろう。僕には通じないけど、何処かで損切りしないと盗賊ギルドを滅ぼすまで止まらなくなる。


「無理筋ですね」


「……」


 本来ならアディはここで仕掛ける手筈なんだろう。動きたそうで動けない。


「アディ。暇そうですね。魔石屋でコモンの魔石を50個買ってきてください」


 僕は奪った金貨が入っている袋をアディへ投げる。魔石を買うには明らかに重すぎる袋だ。


「なんであたいが!!」


「上納金分は手間賃で貰います」


 ダニールは察してくれた。


「手間賃の金額と用途は僕の知る事ではありません」


「姉貴、ダッシュで買ってきてください」


「覚えていろよ!!」


 アディは急いで走り出す。


「これで終わりですか?」


 アディがいない内に話を進めておく。


「当分監視は続くと思いますよ? 手を出さないでくださいね」


「まぁ良いけど。それなら役に立つ気はあります?」


 一方的に監視されてはこちらにメリットが無い。出来る限り有効活用しよう。


「役に?」


「情報が欲しいです」


「値段次第では都合出来ます」


「なら南西の山賊団で殺して良いのは……。ああ、質問を変えましょう。南西の山賊団で手を出してほしくないのは?」


「手を出すつもりですか!?」


「エクターさんに頑張って換金して貰う予定です」


「外の奴らはこちらの守っている商人にまで手を出すので、原則的に殺して大丈夫です」


 加護ブレイブ持ちが少ない盗賊ギルドの縄張りはやはりスルーブルグの城壁までだ。外は領主すら制御できない山賊の領分だ。僕とソフィが暴れても問題は無い。


「エクターさんは三月上旬に先行する僕とソフィと合流します。邪魔は無しでお願いします」


 エクターを始末する気なら頷けないはずだ。頷いてエクターが来なければ僕とソフィは覚悟を決める。


「邪魔はしない様に上に伝えておきます」


 ダニールではそれ以上は言えないだろう。


「はぁはぁ、買って来たぞ!」


 そんな腹の探り合いをしていたらアディが帰って来た。魔石の入った袋と明らかに取られ過ぎた金貨袋を貰う。アディの右目付近に青あざがある。一連のやり取りの失態を咎められたか。僕でも気付かない手練れが近くに隠れている? カードで勝つためにこの魔石は早速使い切ろう。


「姉貴、大丈夫ですか?」


「うるせぇ! これくらい唾を付けとけば治る!!」


「二人はこれからも僕達の監視ですか?」


「それは……」


「そうだってジャッカルが言っていたぜ」


 言い淀むダニールがアディの言った「ジャッカル」の名前を聞いて頭を抱える。上役のコードネームをばらすのは不味いのだろう。


「なら明日イリナが居る時に来てください」


 アディの青あざは見せしめ半分、イリナの加護ブレイブの確認半分だろう。逃した大魚は大きい。エクターを始末するかもイリナが本物かどうかが大きく関わってくる。それ以上は特に話すことが無いのでダニールとは別れる。付かず離れずの距離に居るのは感じられる。これならもう数日泳がせておいた方が良かった? でも余りにも無能を演じると「殺れる」と誤解される。ベストには程遠いけどベターな結果になったと思っておく。


 宿屋に帰ると、宿屋の主人が大量の荷物が届いた事に文句を言う。その件は正直に誤っておく。まさか盗賊ギルドの人間に囲まれて帰還が遅れたとはとても言えない。彼なら知ってそうだけど、お互い無能のふりを続ける。それに部屋に入ってからのソフィのヒスっぽいお小言に比べたら全然許容範囲だ。一時間ほど時間を潰して夕飯を待つ。エクター兄妹の帰還が遅いと心配した矢先、領主家の馬車が宿屋の外に泊まる。


 最初に降りて来たエクターは朝と同じだった。気のせいか多少やつれたかもしれない。次に降りて来たのは知らない子だ。


「イリナ?」


「はい!」


「変わった……ね?」


 スラムのボロ着を着ていた子はどこにもいない。貴族の子女が着る様なドレスを纏っている。アクセラリー類は少ないが、イリナの生まれを思えば当然の措置か。髪の毛はしっかり散髪されかなりの時間を掛けてセットされたように見える。そして極めつけは彼女が首に巻いている領主の家紋が付いている黒いチョーカーだ。これがイリナの身分を保証する。盗賊ギルドは怖くて手なんか絶対に出せない。しかし領主は思ったより大きく動いた。加護ブレイブにはそれだけの価値があるのか? でもエクターに変化は見えないからイリナの加護ブレイブが特別と見るべきか。


「散々だった。とにかく飯」


 燃え尽きそうなエクターが辛うじて呟く。


「夕飯を食べなたら話を聞かせてください」


 結局内容が内容なので夕食を急いで掻っ込んで部屋で話す事になった。


「イリナを領主直轄の魔法隊に、ですか」


 加護ブレイブ持ちだけどまだ成人まで数年ある。見習いみたいな形で囲い込むそうだ。


「良いんだよな?」


 エクターが懇願する様に問う。レイから彼らの存在は聞いている。ソフィを推薦するかどうかで揉めて、ソフィが断った経緯がある。部隊としてはエリート中のエリートで生活は裕福だ。ただスラム上がりのイリナを受け入れられるか。どうも「魔法は高貴な血を持つ者がなる」と言う一種の選民思想が蔓延しているらしい。それが少数精鋭の士気を高めるから領主は黙認してきた。


「虐められないか心配です」


「虐め!」


「レイの方が詳しいですけど、貴族より貴族している連中です」


「だが、今更……」


「断れば強硬策に出るでしょう」


 エクターを事故死・・・させたり、イリナを誘拐したり。逆にイリナが従うのなら、エクターの安全もある程度確保される。


「……」


「私はお兄ちゃんのために頑張るから!」


 イリナがエクターの肩を揺すりながら言う。


「虐めがあったらレイ経由で対処して貰いましょう。それより具体的な仕事内容は?」


 たらればの事を心配し過ぎては駄目だ。


「え~と、シジュクに週三日行くみたい? それと領主様のお屋敷に週二日だって」


 私塾、か。パッと見て五勤二休で回すみたいだ。


「それなら最初の内は安全です。読み書きと立ち振る舞いの勉強から始めるのでしょう」


「明日から倒れるまで魔法を使うんじゃないのか!!」


 エクターが驚く。


「貴重な加護ブレイブは使い潰しません。成人するまでしっかり基礎を固めるつもりです」


 エクターには言えないが、最後の仕上げでレイと同じ様に「どこかの隠し子」として領主が発見する。または領主の部下で子供がいない家庭の養女になるか。そこは経歴ロンダリングをするここ数年でイリナがどれだけ頭角を現せるかに掛かっている。


「良かったぜ」


 エクターは見るからに肩から力が抜けて椅子に沈み込む。朝からずっと緊張しっぱなしなので分かる。


「私頑張るよ! でもアイクさんのお仕事は?」


「僕が雇用しているのはエクターさんです。イリナは自由です。でも、明日の朝に訪ねてくれる人を癒してくれると助かります」


「聞いていない~!」


 ここでソフィが金切り声を上げる。自分に関係がない事にはとことん無関心だが、人が来るとなると昼過ぎまで寝られないので口を出してきた。


「盗賊ギルドの下っ端です」


「大丈夫なのか!」


 エクターがまた臨戦態勢に入る。


「駄目ならエクターさんの出番です」


「お、おう」


「あっちの上役とある程度の手打ちが成りました。恐らく領主様の意向があっての事です」


 レイとイリナの関係者が盗賊ギルドと揉めて、領主にまで問題が波及するのを恐れた。イリナの話を聞いていればもっと強気で交渉できた。だから相手は今日のチャンスを最大限利用して吹っ掛けて来たか。スルーブルグに目と耳が無いのが響いている。エクターにその役目を担って貰う予定だけど、本職には到底及ばない。


「イリナ、すまねぇ。俺のついていけない世界だ」


 エクターがうなだれる。彼の頭をよしよしするイリナ。これだけ見るとどっちが年上か分からない。


「きゃはは! 私に恐れをなしたのね~! 気分が最高よ!!」


 湿っぽい雰囲気が一瞬で吹き飛ぶ。ソフィは無自覚だと思うけど、たぶん八割正しい。


「お、おう」


「ソフィさん……。あっ、お兄ちゃん! え~と執事長さんが何か渡してって」


「そういやそうだったな? これだこれ」


 そういう物は最初に渡してほしい。羊皮紙二枚を確認する。手紙への返事では無く、図書館への紹介状が二枚だった。


「ソフィ、明日から図書館に籠れます!」


「燃やせば燃やすほど風向きが向く~!」


 やめて!


 調子に乗り過ぎているソフィを宥めてその日は終わった。

応援よろしくお願いします。

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