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小作農生活をもう一回描写しても代り映えしないので

アイク達の年齢を1つ上げました。


 翌早朝、領主家の馬車がエクター兄妹を迎えに来た。レイならきっと上手くやってくれる。僕はエクターが冒険者を始めるに必要な道具類と僕とソフィが遠征で消費する品々を購入するために宿屋を出た。ソフィはベッドで寝ている。ここまでずっと強がっていたけど、ソフィの精神と体力はとっくに尽きていた。ここ数日はエクター兄妹の前で弱みを絶対に見せたくない鋼の意志で動いていた。その兄妹が夕方まで帰って来ないのだから、今日は絶好の寝溜め日和だ。


 まずは食糧の買い込みだ。まだ寒い冬だけに全体的に値段が高い。もう少ししたら春先に傷むのを恐れて値段が下がってくる。今月分だけ買って、来月分はエクターに任せようか? 安全マージンをギリギリまで削った行動は辞めておく。ここで高値で買っても、その分多くの山賊とモンスターを狩れば帳尻が合う。なので日持ちのする物を中心に買い込む。どうやっても大口の買い物になるので売り子の口も軽くなる。


「景気はどうです?」


「良くはないねぇ」


「何か理由があるのですか?」


「王都へ繋がる道に山賊が多く出没する様になってねぇ」


 南西の方角か。クワックヴィルの山賊とは逆方向だ。彼らに追い出された山賊がそこに再集結したのか? それとも騎士団の目が北へ向いているのを察知して南方を荒らす事にしたのか? どっちでも僕とソフィが向かう候補が一つ増えた。でも南西となると出没するモンスターと地形の確認は必須だ。


 購入した食料を『柏木の新芽』に届けて貰う様に頼んで次の店へ行く。四人分の古着を数着購入して、これも宿屋へ送る。ソフィが「ださ~い!」と嘲る声が頭の中で聞こえる。僕とソフィは今の一張羅で良いけど、エクター兄妹は衣服を新調しないと通りを歩くだけで白い目で見られる。領主の屋敷へ行く前にソフィのクリアランスで最低限身だしなみを整えたけど、そのせいで穴だらけの衣服がより目立つ結果になった。出発前に衣服を何とかしたかったけど、時間的に空いている店が無かった。エクターには僕のシャドークロークを貸したので、ギリギリ及第点のはずだ。


 このまま流れ作業で防具屋でエクター用の革防具一式を購入して宿屋へ送る。年齢は僕より一つ上だけど、身長は僕より頭一つ半分は下だ。なので店員には僕とエクター両方が装備する前提で調整して貰った。金属鎧だとフィッティングに本人が出向いて調整に時間が掛かるけど、革鎧ならベルトで締めて調整する。冒険者が革を好む理由の一つだ。ただし田舎の農村だと革の手入れを欠かすと一気にカビる。スルーブルグみたいに手入れを頼める店が無いから結構面倒だ。去年の秋口、ブラノックの嫁二人が久しぶりに取り出した革鎧を見て悲鳴を上げた事は記憶に新しい。


 次は武器屋だ。亡き父と今の村鍛冶が修行した店なので入るのにちょっと勇気がいる。ここで幼少から修行するって未来があり得たと思うと不思議な気持ちだ。オーダーメイドじゃなくて数打ちの剣を見る。僕より少し幼い徒弟が近づく。


「何が必要?」


「片手剣を数本」


 武器は消耗品だ。連戦となれば数本は使い潰す。良い剣なら手入れをすれば良いらしいけど、普通の冒険者が買える値段でそんな物は売っていない。カードから顕現した武器はこの店で売っているそんな高級品に相当する。エクターにそれを渡せばここでコストカット出来るけど、それを手入れに出せば一悶着だ。


「だとこれとこれ」


 徒弟が手早く数本選ぶ。僕はそれを持って軽く振ってみる。レイに渡した形見の剣と比べたら月と鼈だけど新人冒険者用としては悪くない。徒弟が選んだ四本の内、三本を購入する。一本は明らかに「ハズレ」だった。僕が最低限の目利きを出来るか試されたみたいだ。


「他には投げナイフを半ダースと……あの樽は?」


「徒弟の失敗作。新人冒険者なら鉄の塊でも立派な武器になる」


「ふ~ん」


 僕は軽く手に取ってみる。徒弟に渡された失敗作より更に出来が悪い。「これに金を取るの?」と言うレベルだ。そのまま通り過ぎようとしたら一本だけが僕の興味を引く。かなり古い鉄の剣だ。剣身が歪んで、これでは到底何も斬れない。間違いない、父の剣だ。


「それは流石に辞めて」


 売れたら嬉しいはずの徒弟ですら「買うな」と言う。


「これを作った人は?」


 つまらない好奇心だ。聞くべきではないと頭の中では分かっている。でも僕のルーツに繋がる一本だから気になる。この剣と形見の剣。どう考えても同じ人が作ったとは思えない。もしそうなら、絶対に「何か」があった。


「え~、ちょっと待って!」


 徒弟は裏に走る。マスターの誰かを呼びに言ったんだろう。結構待たされる。斧を一通り見てランスに移った頃に初老の男が出てくる。


「モーエンの剣が気になったのはてめぇか?」


「そうです」


 父の名を聞くのは何年振りだろう。


「ん? てめぇアイクか!?」


「そうですけど初対面では?」


 なんで僕の名前を知っているんだ?


「目元がエミリーそっくりだ。それにモールスヴィルへ送ったバカ弟子からエミリーの息子は生きているって聞いた」


「ああ、そうですか」


 合点が行く。


「あいつらがゴブリンにやられるとはな! 今は小作農なんだって? てめぇが望むのなら徒弟として取るぞ?」


「有難い申し出ですが、僕は冒険者一本でやっていきます」


「……そうか。その歳だとそれしかねぇか」


「はい。それであの・・・について」


「分からん。突然あれを持ってマスター認定を受けた。気を悪くしないで欲しいが、モーエンはあれを作れる実力はねぇ」


「でしょうね。村ではこれと同品質の剣しか作れませんでした」


「お、おう。それは……鍛冶ギルドの沽券に関わるから内緒で頼むぜ」


 僕が怒らなかった事で気が抜けたみたいだ。


「となると剣の出所は不明ですか。何か分かりませんか?」


「人が作れたとは思えねぇ。それに装飾品一つ取っても儂が人生で扱った物より高品位だ。遺跡で発掘したと言われた方がまだ信じられるぜぇ」


 父よ良くそれでマスター認定を受けようと思ったものだ。


「整備は可能ですか?」


「おう、出来るぜ! と言うか今やっている最中だ!」


 レイが持ち込んだか? それとも領主か?


「ああ、確かに。ここだけでしょうね」


 実力以上に信用ではここに勝る鍛冶屋は無い。


「分かっているじゃねぇか!」


 バンバンと僕の背中を叩く。その後は父母の爆笑エピソードを聞かせて貰って店を辞す。値引きは無かった!


 昼は過ぎ、そろそろ夕方になりそうだ。いつもならもう二軒ほど尋ねる余裕があるけど、今日は帰るか。エクター兄妹が帰ってくるかもしれないし、荷物の受け取りを全部ソフィに押し付けたら絶対に怒鳴られる。本当は魔石屋へ行きたい。でも僕の身分では門前払いだ。エクターが冒険者としてランクアップすればコモンの魔石を買えるようになるのでそれに期待だ。最悪の場合はエクターに代理購入依頼を出させる事が出来るけど、不自然過ぎて目立つ。


 雑踏の中で足を止める。付けているのは二人か。僕に合わせて足を止めたのは見事だけど、それで気配を消そうとすれば違和感に気付く。歩くの再開する。普段ならスリと思って無視するけど、盗賊ギルドの手勢かもしれない。それにしては実力が足りない。念のために監視しているだけか? 試してみるか。僕は小走りで横道へ入る。


「逃がすな!」


「待……これって」


「僕に何か用ですか?」


「な!」


「あちゃ~」


 喧嘩っ早そうな赤毛の女の方は鼻の左横から顎まで大きな傷がある。女の子にしては筋肉質だ。腕相撲だと負けそう。他種族とのハーフか先祖返りかもしれない。セミロングの青髪の男の方はひたすらチャラい印象を受ける。嫌な事に僕と同タイプだ。赤毛と同タイプが数人居ても抜け出す自信があるけど、青髪を殺さないで抜け出す方法は思いつかない。僕が赤毛を嵌めて青髪が僕と赤毛を嵌めたか。


「くっ! こうなれば叩きのめして!!」


「駄目だよ、姉貴」


「だがよぉ!」


「襲わなければただのスリと言い張れると考えていますね?」


「やだなぁ、浮気調査って言いますよ」


「嫌な言い訳ですね」


「意外と効くんです」


 軽口を叩きながらお互い一切油断しない。


「それで用件は?」


「放火魔の監視です」


「やだなぁ、無能な盗賊ギルドの責任を小作農に押し付けないでください」


「てめぇ! 盗賊ギルドの恐ろしさを分かってねぇなら体に!!」


「吠えるだけの飼い犬は邪魔です」


 僕の興味は赤毛から完全に失せた。割と本気で盗賊ギルドを潰す覚悟を決めた僕に盗賊ギルドに尻尾を振った女には何の価値も見いだせない。


「な!? うがああああ!!」


 激高して僕に突っ込む赤毛は仕掛けたワイヤートラップに引っかかって盛大に転ぶ。ダメージはほとんどない。そこで鉄板入りに靴で思いっきり頭を踏みつける。ミシミシと頭蓋骨が軋む。赤毛が手で足を退けようとするので更に踏み込む。


「殺しは不味いです」


「盗賊ギルドが素人に返り討ちにあった方が不味い」


 正当防衛なんて言っても盗賊ギルドには通用しない。僕の発言を聞いて赤毛が固まる。思った通り心が折れた飼い犬には効果抜群だ。逆に青髪の方はチャラさが抜けたポーカーフェイスだ。僕が一線を越えたら命懸けで殺しに来る。


「降参! 降参って事で許してください」


「こいつは?」


「姉貴も。今なら仕事の段取りで説明出来ます」


「ちくしょおおおお……。負けだ!」


 二人が降参したのでやっと話が出来そうだ。降参したとは言え、油断したら確実に仕掛けてくる。ソフィに手を出さなかった事だけが救いだ。

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