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046

レイの女バレせずに湿度の高い会話を作るのに手古摺りました!

「アイク!」


 部屋に入ると同時にレイが抱き着いてきた。良いものを食べているだけあって少し柔らかくなった感じだ。四月からの小作農生活で体が硬くなるからこの感触は期間限定だ。


「レイ!? どうしたんだ? まさか領主様に虐められたのか!」


「ち、違う! 帰ってきたらいの一番に俺に知らせないアイクが悪い!」


「明日くらいには……」


 目を逸らす。もう十日ほど黙っていようと思っていたとは言えない。


「後ろがつかえているんだから、とっとと入る!」


 ソフィの声で僕達は全員部屋に入る。


「この二人は?」


 レイが初見の二人に厳しい目を向ける。


「紹介するよ! ファイターの加護ブレイブを持つエクターさんと彼の妹のイリナだ。僕が成人するまで部下として雇ったんだ」


 エクター兄妹が頭を軽く下げる。もう少しフレンドリーな態度を取れば良いのに、初対面だから委縮しているのかな?


「それで彼がレイ。僕達と同じ村に住んでいるんだ。今は領主の屋敷で働いている」


 完璧な説明だ。


「俺はもう要らないのか!」


 突然レイが怒鳴る。その怒気をまともに食らってエクター兄妹が震えあがる。レイの視線を遮る様にソフィが二人の前に立たなければ床が汚れていた。


「え? いや、どうしてそんな話に?」


 レイは何を言っているんだ?


「前衛の俺が領主の屋敷に居て一緒に冒険者出来ないからって新しい前衛を入れるなんて!!」


「ご、誤解だ! 誤解……ソフィもなんか言ってくれ」


 こんな事で怒っていたの? 全然そんな気は無いからレイを説得するプランが白紙だ。


「きゃはは! 修羅場よ~!」


 ソフィは腹を抱えて笑っている。僕とレイにはそんな趣味は無いって!


「「……」」


 エクター兄妹は固まってオロオロするだけだ。


「やはり俺が大事な時に居なかったから……」


 レイが急に沈み込んだ。


「村では大変だったけど……」


「違う! 大火事の時に俺は屋敷から抜け出せず……」


 レイが珍しく涙を流す。


「あ……」


 なんて言えば良いんだ? レイは盗賊ギルドに誘拐された事を知っているのか? そこまで知っていればもう少しそれに言及しているはずだ。僕とソフィが何らかの危険に陥った事までは知って、直近の危険が大火事だからそれと結びつけたと仮定すべきか?


「二人の湿っぽい喧嘩は長引くのよ~。先に夕飯を食べてくるから~」


 泣いているレイとオロオロする僕なんかお構い無しでソフィが言う。エクター兄妹もソフィに全力で同意して、三人で急ぎ退出する。僕を一人にしないで!!


「僕達も夕……」


「きっ!」


 駄目ですね、分かります。


「レイ、聞いてほしい。僕達三人の前衛はレイだけだ!」


「じゃあなんで……」


「お金のためだ!」


 理由を幾ら並べてもレイは納得しない。ならレイも認める理由一つに全賭けするしかない!


「え?」


「エクターさんは成人している。ギルドでモンスター素材を換金できる!」


「あ!」


 レイは騎士団なり執事長を間に挟めば換金出来るけど僕達は無理だ。


「大人に頼めば大半を持っていかれる。でも部下ならピンハネし辛い」


 僕を見限って換金額を懐に入れる事は出来るし、僕が雇えそうな大人の大半はそうする。でもエクター兄妹にはそれが出来ない事情がある。それを話せないから勢いで押し通す!


「それだけ?」


「エクターさんに関してはそれだけだよ!」


「ふ~ん」


 レイの機嫌が更に悪くなる。僕は何処で間違った?


「レイは何が気に入らないんだ!」


「アイクはイリナみたいな子が好きなのか!」


 恋バナ? レイがイリナに一目ぼれしたのか?


「全然。レイこそ気に入ったのなら口説いてみたら?」


「俺の趣味じゃねぇ! 俺を置いてアイクが……大人になったのか心配だっただけだ!!」


 顔を真っ赤にして言う。


「僕は余りもてない男だよ?」


「そのままでいろ!」


「酷ぇ!」


「ふん!」


「良し、なら僕は誓おう! 生まれは別でも大人になる日は一緒だと!!」


「ふぇ!?!?」


 レイが変な声を出してソワソワし出す。


「だから成人したら騎士団長のコネでとびっきりの高級娼婦を抱けるように手配を……」


「アイクのバカァァァ!」


 ドカッとレイの強烈なストレートが頬に当たる。


「だって村の子は余り……」


「……分かった。とっておきの子を用意してやる! だからそれまでそういうのは無しだ! 誓えるか!」


 一転して真剣な表情でレイが言う。


「誓う! 誓う!!」


 そして僕とレイは「一緒に大人になる」と言う秘密の誓いを立てた。


「仕方がない。俺が居ないとアイクは駄目過ぎる」


「これからも僕達を引っ張ってくれ!」


「ふっ、任せろ!」


 良かった。レイの機嫌が元に戻った。


「それで何があった?」


「……」


「村長の四男が屋敷の周りをウロウロしていた。それから屋敷がソワソワしたと思ったら、あの大火事だ」


 レイは追及を止めない気だ。


「分かったよ。だけど色々面倒な事だから内緒で頼む」


「だからソフィも部外者を連れ出したんだろう?」


 ソフィにそんな意図があったのだろうか? レイなら僕がこれから紡ぐ物語の嘘をエクター兄弟の反応から察するかもしれない。そう考えればソフィの行動が説明出来る。


「糞! 俺が斬り殺して首を村長に……」


「落ち着け」


 僕とソフィが誘拐された事。そこでイリナと出会った事。檻のゴブリンが暴れて火事になった事。エクターを回収した事。出来る限り嘘を言わずに話せた。一晩あったのである程度組み立てる余裕があったのは助かる。


「む~」


「僕達は関わっていない、とするのが一番だ」


「分かるが、気に入らない!」


「それなら間接的に盗賊ギルドへ打撃を与える復讐に手を貸して」


 レイに何もしないと言う選択は無い。なら最悪な方に飛び火しない様に動くしかない!


「詳しく聞かせて!」


「イリナに領主様の保護を与えて」


 イリナを守るにはこれが最善だ。盗賊ギルドに拷問されて真実をゲロったら困る。


「アイク、やはり……」


 レイの気分が何故かどん底に落ちる。


「違う! 誓って違う!!」


「なら何故だ?」


 僕達の誓いはそんなに脆くないぞ!


「半殺しの目に会ったエクターをヒーリングで治療したのはイリナなんだ!」


「でもイリナはまだ子供……」


「レイとソフィだって同じ頃に加護ブレイブを授けられたじゃないか!」


 実体験で説明出来るのは便利だ。


「そう言えばそうだ」


「ヒーラーの数が足りないって言ったのはレイだよ。一人増えたら色々助かると思うよ?」


「アイクに手を出したから盗賊ギルドは値千金のヒーラーを失うのか。かと言って直接的な攻撃じゃないから反撃もままならない。うん、面白そうだ!」


 穴だらけな気がしないでもないけど、レイは受け入れてくれた。「引き離せるなら」とか呟いていたが、どういう意味だ?


「誤解は解けた?」


「保留」


「ええ!?」


「ふっ、当分はスルーブルグだろう? なら俺と一緒に冒険者をやったら信じてやる」


「了解」


 早く稼ぎに行きたいけど、エクターの実績作りとソフィの杖と背負い子制作で一週間くらいは動けない。問題は無い。


「なら、夕飯に行こう! 俺は昼前から待っているんだぞ! 腹が減って仕方がない!!」


 やっといつものレイが戻って来た。少なくとも僕はそう信じてしまった。


 宿屋の一階でソフィ達と合流する。自己紹介のやり直しを経て、和気あいあいな夕飯となった。レイはこのまま泊っていくつもりだったが、夜になると領主の屋敷から執事長が迎えに来た。レイの抵抗空しく連れ帰される事になった。


「アイク、明日朝一番に馬車が二人を迎えに来るから」


 レイが小声で言う。


「了解、説明しておく。それとこれを読んで、価値があると思ったら執事長に渡して」


 僕はモールスヴィルの現状を纏めた羊皮紙をレイに渡す。非公式な依頼じゃない依頼なので執事長に直接渡すと勘ぐられる。価値があると認められたら図書館への入館を是非とも認めて貰いたいものだ! レイが去った後にエクター兄妹に明日の仕事を伝えた際に一悶着あったけど、イリナを盗賊ギルドから守るためだと言って説得に成功した。

応援よろしくお願いします。

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