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043 変わる関係

「は! 寝すぎた!?」


 僕は部屋の中の喧騒を聞いて目を覚ます。


「起きるのが遅~い!」


 ソフィは昨日の事を余り引き摺っていないみたいだ。


「すまん、これに倒れ込んだら朝までぐっすりだった」


 エクターが申し訳なさそうに言う。


「良いさ。僕とソフィも最初の頃は寝坊したものです。それより昨日の夕飯は食べました?」


「はい!」


 イリナが代表して答える。彼らが食べた時には作られてから半日ほど経過しているけど、品質に特に問題は無かったみたいだ。腐っていたりカビが生えているわけじゃないし、食べるには問題が無いと言えば問題が無い。


「僕の分は……当然無い」


「まあね~」


「外の屋台で買い食いするから良い。全員動けます?」


 ぐ~と鳴る腹を無視して話を進める。昨日の火事でスラムは混乱しているはずだ。だけど盗賊ギルドは立ち直れば威信に掛けて原因を探る。調査の結果、エクターとイリナは確実に発見される。エクターは完全な別件だけど、彼らは「スラムの脱走者」を見逃さない。スラムで失った権勢を取り戻すには血の粛清が必要だ。コネと後ろ盾がないエクターは後腐れがない丁度良い生贄だ。イリナは生き証人だ。拷問してでも真実を聞き出す。それまで僕とソフィに手を出すかは半々だ。でも出す前提で動いた方が安全だ。


「おう! 何をすれば良いんだ?」


「ソフィが城壁の外でモンスターを狩ります」


「あ?」


「詳しい話はそこでします。この宿屋だって何処に耳があるか分かりません」


「あ、ああ!」


 エクターはやっと合点が行く。頭の回転は小作農以下で農奴以上と思っておく。僕とソフィがスルーブルグに滞在している期間でどれだけ常識を詰め込めるか次第で使い道が変わりそうだ。


「それとまずは今月の給料である金貨八枚です」


「わぁ、これだけの金貨を見た事ないよ!」


 イリナが驚いている。


「良いのか?」


「本当は月末払いです。ですがお二人は無一文でしょう?」


「ああ」


 スラムの生活が長いのか、無一文である事に無頓着だ。スラムの外だと金が無いは首が無いと同義だけど、そう言う感覚的なものは実体験で覚えてもらうしかない。


「安全のために四人一緒で動きます。僕はソフィの靴と松葉杖を買ってくるので、一階で待っていてください」


「待った~! クリアランス! そんなダサい姿だとお店は入れてくれないよ~!」


「ありがとう。行ってきます」


 僕は宿屋の近くで必要な物を急ぎ買う。金を払うついでに火事の事を聞く。どうも情報が出回っていない。今日の夜か明日辺りを待つ事になりそうだ。となると今はまだ安全だ。下手にエクター兄妹を隠そうとするより、大手を振って城門を潜る事を優先しよう。まだ温かい昼飯を抱えながら宿屋へ走る。


 宿屋に帰るとソフィ質が待っていた。レイは来ていない。火事の後だし、まだ着いたと知らせていないから仕方がない。宿屋の主人に夕方には戻るので四人分の夕飯を頼んでおく。一人か二人、いつもと違う雰囲気の客がいる。気のせいか? ここで仕掛けないのなら気にしないでおこう。


「専用のロフストランドクラッチは帰ったら注文するよ」


 朝食を食べ歩きながらソフィに伝える。攫われた時に壊された背負い子も新調しないといけない。金銭的なロスより時間的なロスの方が痛い。


「今日明日はこれで我慢してあげる! 感謝しなさいよ~」


「なあ? 武器とかは要らないのか?」


 エクターが聞く。


「今日はソフィ頼り。明日以降はエクターに武器を持ってもらう」


 加護ブレイブを持っていないエクターが幾ら武器を振り回してもゴブリン一体すら倒せない。


 ソフィが歩いていることも手伝ってか、城門で止められる事は無かった。通ってからエクター兄妹の服装をもうちょっと何とかした方が良かった事に気付く。スラムの人間しか着ない様なボロだと入る時に見咎められそうだ。無事にスルーブルグを出る事にばかり注視して、帰還時の事がすっぽり抜けていた。シャドークロークはあるから、エクターがそれを羽織ればちょっとはマシに見えるはずだ。僕とソフィは貧乏農家らしい予備を持っていのでそれに着替えている。殺した山賊から衣服も略奪すべきだったか?


「アイク~、また失敗したと思っている~! 大丈夫~! 大抵の問題は燃やせば何とかなる!」


「服は燃やしたら駄目な問題だ!」


「え~、どっち道ボロと裸の違いなんてな無い無い!」


「ある! はぁ……ソフィの裸を他人に見せる気は無いから」


「……」


「どうした?」


「なんでもない!」


「そうか、ならそろそろ狩りに集中しよう」


 ガサッと前方から音がする。そうすると僕を丸呑み出来そうなダイアウルフが姿を現す。口から血が滴っているのでつい最近何かを殺したのは明白だ。


「モ、モンスターなのか!? だがこんな奴がいるなんて噂でも……」


 エクターがイリナを背中に回して震えながら言う。


「ウーちゃん、元気~! 私なんて散々よ!」


「ガウ!」


 ソフィがダイアウルフの毛皮に頬釣りしながら話す。ダイアウルフは迷惑そうな声色を上げる。


「な、な、な!?」


 エクターが壊れた。


「紹介しますね。のダイアウルフです。ソフィが勝手にウーちゃんと呼んでいるだけです」


「噛まない?」


 イリナが恐る恐る聞く。


「無理に近づかなければ安全です。それと先ほどから上を飛んでいるのがのダイアクロウです。ソフィが勝手にクーちゃんと呼んでいます」


「俺たちいらなくないか?」


 エクターがやっと気づく。


「戦力としては不要です。ですが僕のクリーチャーでは冒険者ギルドで獲物の換金が出来ません」


 人型のクリーチャーを召喚すれば状況は変わる。しかし未だそんなカードはドロー出来ない。恐らく加護ブレイブを持たない人間に加護ブレイブを付与するオーバーレイが人型モンスターの代用品なのだろう。希少性レアリティが上がれば人型ユニークが出るかもしれないけど、今はアンコモンのクリーチャーを召喚するのすら断腸の思いだ。


「お兄ちゃん、役目はあるみたい!」


「おう!?」


 イリナの方が柔軟に状況に対応している。


「ウーちゃん、敵を見つけて~!」


「ガウ!」


 何故ソフィの言う事を聞く? ダイアウルフに先導されて森の奥地へ入る。ソフィは僕が背負っている。背負い子の偉大さを痛感する。歩く事十分くらいで、ゴブリン一体に遭遇した。


「「ゴ、ゴブリン!」」


 エクター兄妹がハモる。


「エクターさん、これが雇用契約を破棄するラストチャンスです。このまま進めば後戻りは僕が認めません」


「腹は決まっている! やるぜ!!」


「わ、私も!」


「分かりました。ならばグリモワールオープン!」


 久方ぶりの全力稼働だ。雑魚相手なら普通に戦った方が被害が少ない。この力は同格と戦う際に力を発揮するみたいだ。格上相手には上手く決まらない気がするけど、二回しか試していないから確証が持てない。僕の思考速度が高速化し世界が止まっている様に見える。やるべき事をやろう!


「ファイターのカードをエクターにオーバーレイ! ソフィでゴブリンをアタック! ターンエンド!」


 ソフィのファイアアローがゴブリンを潰すのとエクターの上に魔法陣が現れるのは同時だった。バトルが終了したからオーバーレイは不成立になるのではと心配したけど、どうやら僕が発した命令が全部処理された後でないとグリモワールクローズは発動しないみたいだ。


「お、おう? 光が!?」


 困惑するエクター。


「エクターさん、これで貴方はコモン加護ブレイブ持ちのファイターです」


「え? いや、だが……」


「自分で試しなさいよ~!」


 ソフィが何か言っている。


「試すって?」


 僕が聞く。


「ゴブリンなんて一撃~!」


「そうだね。そこに錆び付いた剣があるし行けますね」


「お、おう?」


「大丈夫です。エクターさんのサポートは万全です。それにポーションで回復が可能です」


 そして僕はエクターをなし崩し的に人生初の実戦に引っ張り出す。

応援よろしくお願いします。

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