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少し遅れました!
「へまったのか!?」
正面に座る男が立ち上がりながら叫ぶ。僕を殴った男だ。筋肉質な髭面で明らかにこの三人のリーダー格だ。
「ちっ、大人しく檻へ帰れば半殺しで済ませてやる!」
男の右に座っている男が怒鳴る。砂袋で僕を気絶した男だ。一言で言えば腰巾着だ。彼には勝てる。最後に慌てて立ち上がる男も腰巾着だろう。
相手が動き出すのを見て僕は右へ飛ぶ。そして飛びのくのと同時に髭面の男を狙ったソフィのファイアアローが部屋に飛び込む。僕が部屋に入ってソフィの魔法発動を盗賊から見え辛くする作戦だ。僕が魔法の発動タイミングを完璧に把握していないと無防備なソフィを敵の攻撃にさらす。僕はそのタイミングが分からない。けど背中が熱くなったらそろそろだと分かる。
「くっ!」
髭面は咄嗟に腰巾着の一人を盾にしてファイアアローの直撃を避ける。僕はまた開かれた扉の前に立って地下で死んでいる男から奪った短剣を構える。これで相手はソフィが何時どんな魔法を使うか見えない。僕を倒しせたらソフィを狙えるけど、この程度の敵に瞬殺されるほど僕は弱くない。
「うぎゃあああ!!」
火だるまになって燃える男。髭面の男が遠くへ押した結果、火だるまの男は数回痙攣して動かなくなった。髭面の男も火が左手に燃え移って無事ではない。
「話が違う!」
砂袋の男が恐怖で叫ぶ。話が違う(・・・・)か。嫌だね。僕とソフィの事を知らずに誘拐したのが理想だった。そもそも小作農の男と家を継げない農家の娘に如何程の価値があるか? はっきり言って無価値だ。目的があって僕とソフィを攫ったのなら、その目的は何か。レイだ。となると依頼をしたのは村長の四男が濃厚だ。どうでも良いか。レイに心配を掛けるのなら殺す。この三人を倒して脱出を優先するルートは無しだ。この組織のトップごと潰す。それで盗賊ギルドが出張ってきたら、ソフィと一緒に前のめりで死のう。
「黙ってろ! 俺たちのバックは盗賊ギルドだ! 分かってんだろうな、ガキ!!」
「火の不始末は大変だね」
「はぁ? 何を……」
そこで僕の後ろからモクモクと流れてきている煙に気付く。
「まさか、付け火!!」
「君の同僚の松明だから、そっちの不始末だ」
「そんな言い分が通るか!!」
「ケツ持ちしている盗賊ギルドが信じてくれると良いね!」
誘拐した子供の返り討ちに会い小屋を放火されたと証言して聞いてくれる盗賊ギルドが存在するか? 存在しないね。衛兵に証言しようにも誘拐の件がネックになる。彼らが助かる方法は一つ。僕達を殺して何とか手遅れになっている火事を鎮火させる。
「邪魔だ、ガキ!!」
突っ込んでくる砂袋の男に合わせて前へ駆ける。そして奪った短剣を横に構え一気に脇腹を貫通させる。剣の才能が無くても体の中央を狙った突きなら確実に刺さる。
「がはっ……」
小作農が人を殺せるとは思っていない油断が致命傷だ。僕が何人山賊を殺したと思う? クワックヴィルも含めればそろそろ百の大台になる。
「慣れているんだ」
短剣を一回捩じってから引き抜く。絶命すると思うけど後で首を狩っ切っておこう。
「貴さ……うぎゃ!!」
髭面が開いた扉から目を離したその一瞬をソフィは見逃さない。貫通力重視に変えたファイアアローが髭面の頭を吹き飛ばす。それを確認して虫の息の腰巾着二人に止めを刺す。
「バカね~アイクを怒らせちゃった~!」
ソフィが死体を見て居切り散らす。イリナは顔面蒼白で震えている。しまったな。ここまで無遠慮に人を殺すとは思っていなかったのかもしれない。でも殺さなければ僕達に明日は無い。
「イリナ、家具と死体を漁って。僕達の私物があるか調べる!」
箱が三つとトイレに使っている花瓶がある。そこにあれば良いけど、無いのなら燃える建物の中を調べる羽目になる。
腰巾着二人からは銅貨、髭面の男からは銀貨が数枚。僕より貧乏じゃないか。
「金目の物は無いわ。奪い返さないと~!」
ソフィは嬉しそうだ。幸いカードと魔石、そして他の私物は箱に入っていた。価値が無いと判断されたのだろう。白の魔石は小遣いくらいにはなるが換金の手間を考えれば下っ端に渡した方が楽だ。
「顕現せよ、ゴブリン!」
一気に三体のゴブリンを召喚する。
「モ、モンスター!?」
驚くイリナ。
「イリナも同罪なのよ~! 放火に殺人にスタンピード!」
ソフィがイリナの頭を再度鷲摑みして笑う。
「ひぃぃぃ!」
子供をそこまで追い込むなと言いたい。しかし初めてイリナの名前を呼んだ。ソフィなりに仲間に数えている。
「さて、行こうか? ここからは時間との勝負だ」
ゴブリンを先に進ませて僕達は後を追う。
「ゴブリン!?」
「カチコミかぁ!」
騒ぐ盗賊をボロ雑巾の様に殺すゴブリン。加護が無い者に取ってゴブリンは脅威だ。そしてこんな下っ端人攫い組織に加護持ちなんていない。ゴブリン一体で無双出来る。敢えて三体も呼び出したのは誰も逃がさないためだ。一体を入り口に貼り付け、奥を目指す。
コンコン。二回ノックして入る。
「なんだガキ!」
そこそこ頑丈そうなテーブルに座っている脂ぎったボスが不快そうに言う。
「貴方を殺しに来ました。その前に金目の物を何処に隠しているか教えてもらえませんか?」
家探しするのが面倒だ。
「ふざけるな!」
一瞬目が右下に動いた。そこか。
「ソフィ」
僕が射線を開けるのとボスの首が飛ぶのはほぼ同時だった。
「ちょっと危なかったよ!」
「あはは、あの程度躱せるでしょ~!」
攻撃が僕を巻き込みかねないのはソフィのストレスが限界に達している証拠だ。手仕舞いにして逃げよう。
「ゴブリン、机を漁って見つけた物を上に置け」
「ギャ!」
ゴブリンの一体が手を押さえる。やはりトラップがあったか。加護持ちのトラップで無い限りゴブリンには対してダメージが入らない。僕なら手一本を失っていたかもしれない。
「金貨三十枚くらい?」
ソフィがざっと計算する。
「メダリオンが無い」
カードキューブが崩れると出てくるメダリオンが無い。どこかに隠しているのか、さっさと上納してしまったのか。
「どうする?」
ソフィが珍しく殊勝に聞く。
「トレジャーサーチ! そこか」
どうするもカードのマジックを使うだけだ。ソフィが倒れている間に引きまくった甲斐があった。ゴブリンに壁をぶち抜かせて、隠されている小さな箱を持ってこさせる。地下からの煙で視界が少し悪くなっている。これはもう早期鎮火は無理だ。
「大金貨四枚、宝石類複数、メダリオン二枚、何かのエンブレム、そして紙束。良し、エンブレム以外は全部持っていこう!」
エンブレムは所属している組織絡みだろう。下手に持ち出すと狙われる可能性がある。
「ゴブリンは松明を持ってこの小屋の前で騒げ!」
殺人と放火はさせない。さんざん注意を引いて事態を大きくしてくれ。
「野次馬多そう~! 一発やっちゃう!」
「顕現せよ、シャドークローク。召還時に白の魔石を三つ使用して『対象にならない』効果を発動!」
シャドークロークに身を包んだ僕はソフィをお姫様抱っこし、イリナには背中に捕まる様に言う。
「攻撃しなければ一定期間存在が認識されないはずだ」
テキスト効果を読む限り間違いはない。使用効果は召還時にしか発動できないので、これが終わったらこれはただのクロークになってしまう。僕は外の喧騒を確認してからこの正面玄関とは別方向にある窓から飛び出す。
「イリナの家は何処?」
まずはイリナの家を目指す。兄が居るらしいので彼も巻き込む。兄妹には悪いけど選択肢を与える気はない。
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