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 頭が痛い。ここは何処だ? しばらく固まったままで考える。思い出した。攫われた理由は分からない。今の状況は? 辺りは暗くて何も見えない。手足は拘束されている。耳を澄まして息遣いを聞く。二人。一人はソフィ。もう一人は知らない。良かった、レイじゃない。


「そこに居る奴。ここは何処?」


 なのでまずは話しかけてみる。


「あぅ……」


 話せるみたいだけど、話したくないみたいだ。声色からして女の子か?


「困ったな」


 しばらく沈黙が続く。その時間を使って僕はリストバンドに仕込んであったやすりで腕の拘束を外す。目に見える武器と魔石と硬貨が入った小物袋は没収されているけど、暗器を仕込んだ服と靴は無事だ。子供だから油断しているのか、ボディチェックが杜撰なのか分からない。白昼堂々誘拐する奴らだ。後者の方が有り得そうだ。


「あの、ここは盗賊ギルドが関係している……」


「しっ! 黙って」


 折角口を開いてくれたのに、僕は彼女の話を遮った。こっちに迫っている鈍重な足音が聞こえる。そして鍵をガチャガチャする音がして脂ぎったデブが入って来た。右手には松明を持っている。僕は気を失った振りをしておく。少女も「ひぃぃぃ」とうめき声をあげている。


「ひひひ。本当はてめぇを可愛がりたいけど、まだ駄目らしい」


 少女に下卑た視線を見せながらソフィの方へ歩く。あの少女には何か価値があるのか? 汚れた服からスラムの少女にしか見えない。栄養状態の悪さは昔のソフィくらいか。


「顔は化物でも穴は穴だと言うのに、ボスらはえり好みが激しいぜ」


 松明を後ろの地面に置き、ソフィのスカートを持ち上げる。そして足の拘束が邪魔と思ったのか、それをナイフで切り出した。僕はその音をカモフラージュに足の拘束も取る。いつ助けたら良いんだろう? だってソフィはもう起きているし、その気になればいつでもあの男を殺せる。下手に邪魔をするとソフィの怒りが僕に来そう。


「ぐへへ、さてお楽し……」


 ソフィの両足を無理やり広げる。そして気付く。ソフィの右手が自由だと言う事に。火魔法で焼き切ったのか、左腕の温度が高いくて炭化してしまったのか。


「へぇ~、アイクよりは大きいじゃない?」


 ソフィが邪笑する。え? いつ見たの!?


「どうや……」


 男が何か言える前にソフィの爪が男の股間に食い込む。そして一気に燃やす。両腕がソフィの両足を押さえているため、男のリアクションが遅れた。ソフィを引き離そうと足を自由にする。


 ドスッ、ザシュ!


 でも致命的に遅い。僕は蹴りで靴のつま先に仕込んである鉄塊を男の首筋に撃ち込む。頸動脈を切り、そのまま首の皮を切り裂く。


「あ……」


 多少騒ごうとするも、ほどなくして絶命した。


「ソフィ、起きているのなら話を進めておいてよ」


「面倒~」


「まったく。さて改めて、君は誰? 僕はアイク。こっちはソフィ」


 僕は人死にを間近で見て震えあがっている少女に問う。


「イリナ……です。スラムで兄と二人で住んでいます」


「貴方の事なんてどうでも良いのよ~」


 ソフィが睨みながら煽る。


「ひぃぃぃ、ごめんなさい!!」


「ここは何処? 盗賊ギルドとか言っていた様な?」


「はい。盗賊ギルドの下っ端だと思います。お兄ちゃんを人攫いに勧誘するために私を無理やり……」


 仲間を増やすために家族を人質に取るか。組織に入ったら裏切られない自信があるのだろう。


「で、どうしたい?」


「え?」


「僕達と行く? 後戻り出来ないよ?」


 恐怖でこわばる少女を無視して、彼女の拘束を取る。


「焼いちゃえば~?」


 ソフィが軽く言うけど、実は僕も同じ考えだ。ここを出るには僕の力を見せる必要がある。そして他人に見られたまま放置出来る余裕は無い。


「つ、連れて行ってください! お兄ちゃんと二人、天涯孤独です!!」


「分かった。盗賊ギルドなのに火の不用心とは飽きられる」


 それだけ言って、男が床に置いた松明を壁際に投げる。埃と生地の屑が盛大に引火して、木造の壁に火が移る。


「ひぃぃぃ!? 何を……」


「約束通りイリナを連れて行くだけさ」


「で、でも火! 逃げるなら騒ぎになったら??」


「逃げる?」


「逃げる~?」


 僕とソフィがハモる。


「え?」


「ここから攻める!」


 これが上から目線で無理難題を言う村長や嫌味を言う隣人なら我慢して事を荒げない様にしていた。クワックヴィルの山賊みたいに政治的な忖度が必要な相手なら考えて手を出している。でも相手はただの人攫いだ。手加減する必要はない。盗賊ギルドもメンツに掛けて子供二人に負けたとは言えない。報復はあるかもしれないけど、そうなったら僕とソフィが腹をくくるだけだ。


「きゃは、皆殺し~!」


「建物の中の人間で我慢してくれ。盗賊ギルドを潰すのは時間的に厳しい」


 それと盗賊ギルドは領主と繋がっているはずだ。組織ごと潰すとスルーブルグの統治へ悪影響が出る。犯罪組織の力を借りないと統治が成り立たないのはどうかと思う。でも領主がしっかりコントロール出来ていればスルーブルグは安定する。田舎から上がって来た子供を誘拐される様なヘマをしている時点で領主の統治者としての実力は黄信号だ。領主が気付いていない内に盗賊ギルドの力が表を圧迫しているかもしれない。そうでないと信じるしかない。


「えぇ~!」


 ソフィの抗議を無視してドアを開ける。右側は行き止まり。左側は上行きの階段。


「地下?」


「地下だと思います……ひぃぃ、燃やさないで!!」


 そう答えたイリナの頭をガシッとソフィの左手が掴む。


「杖見~け~!」


「ソフィは左半身が上手く動かない。ここを出るまで支えてくれ」


 僕が説明する。ソフィの杖はあの日に燃えたままだ。スルーブルグで新調するしかない。


「はい……。それでこの階段の先ですが……」


 ここを出ると監視用の部屋がある。そしてその部屋から通路に出る。そこから外に出られる。奥には何か他の部屋があるけど、イリナは詳しく知らない。建物は一階建てで、周りに二階建ての建物は無い。逃げるだけなら監視用の部屋に居る人間を殺して脱出するのが最善だ。でもそれだと諦めないだろう。僕とソフィはモールスヴィルへ逃げかえる事が出来るけど、イリナは無理だ。イリナの知らないエリアに居るはずのボスをこの手で始末するしかない。


「これ」


 ソフィがペンダントを差し出す。


「助かる」


 僕の合わせてコモンの魔石は二つ。何を召喚するか。急ぎ靴から魔法使いのロッドのカードを取り出して、顕現させる。


「うぁ!?」


 驚くイリナを無視してソフィに手渡す。何もない所から110センチはあるロッドが出て来たらびっくりするのも分かる。


「足裏の匂いはしないでしょうね?」


「たぶん?」


「ありがと~」


「魔法制御が少し上がって、いざとなったら支えに使えると思って」


 右手でロッドを持って杖代わりに使える。そうすれば右足と二点で体を支える事が出来る。イリナほどの安定感は無いが、イリナの動きが常に最適解を出せると思う気はない。


 僕は一人で階段を上る。ドアに耳を当てる。話し声からして三人だ。可能な行動を頭の中で反芻する。イリスに支えられて上がって来たソフィに「作戦通り」と伝える。僕が何か言わない限り、原則的に全員殺す作戦だ。イリスは自分が一緒に行かなければ本当に殺されていたとやっと自覚して震えあがっている。


 僕は勢いよく扉を開ける。賭け事をしていた三人は僕を見て驚く。


「始めまして。死んでください!」

応援よろしくお願いします。

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