038
「あちっ、酷い熱だ」
クワックヴィル山賊の補給部隊との戦いで倒れたソフィを数日前に焼いた山賊の拠点に寝かす。補給部隊と戦った場所からかなり離れているので安全だと思う。それにゴブリンウォリアーが警戒している。彼を突破出来る戦力が敵なら僕にはもう戦える手段が残されていない。
あの戦いには多くの反省点がある。しかし反省は後だ。今はがむしゃらにやるべきことをやる。
「顕現せよ、カードキューブ!」
白の魔石を五つずつ投入する。最初に入れた魔石はこの戦いで倒れたクリーチャーの魔石だ。ダイアクロウの魔石からはダイアクロウのカードが出てきた。ここは法則が安定しているから分かりやすい。例えクリーチャーを失ってもそのクリーチャーの魔石さえ回収出来たら同じカードを引ける。ゴブリン4体とダイアクロウ1体を召喚する。
「ゴブリンウォリアーはここら一体のモンスターを狩って魔石を翌朝までに持って帰って来い! ゴブリンはついていけ!」
僕のゴブリンウォリアーへの命令が終わる前にゴブリンウォリアーは駆け出す。黄のクリーチャーからは人格みたいなものを感じる。ゴブリンウォリアーは幾ら僕の制御下でも守る事は好まない。護衛をしている間ずっと「早く終われ」と言う雰囲気を出していた。更に強い赤のクリーチャーばどうなるかと今から心配だ。中には僕より知能が高く、僕を上手く利用する様なクリーチャーが居ても不思議じゃない。
僕はソフィの横に腰を下ろして彼女の看病をする。看病と言っても出来る事は少ない。それでも側に居るのは無駄にならないと信じたい。いっそモールスヴィルかスルーブルグまでソフィを担いで走ろうかと考えたけど、そっちへ行ってどうかなる問題じゃない。僕のヒーリングでソフィの怪我は完璧に治っている。今回倒れたのは加護の暴走による自傷が原因だ。そんな現象は聞いたことが無い。ソフィの命そのものを燃料にして燃えていたかの様なあの炎は一体なんだ? 小作農は知識を得る機会が限られているからもどかしい。文字を読めても一生文字を読む機会が無いのなら誰も文字を習わない理由が良く分かる。
夜が明ける頃にゴブリンウォリアーが帰って来た。やはり黄のクリーチャーとなればかなり高度な命令を与えても遂行出来る。彼が連れていたゴブリンは全滅したようだ。それでも30近くの魔石を僕の前に置いた。
「死ぬまで大暴れしてくれるか?」
褒めながら彼に問う。
「ガァァァァ!」
ゴブリンウォリアーがドンと右胸を叩く。戦いの果てに死ぬ事に問題が無いのなら使い道が思ったより多い。
「良し! クワックヴィルを強襲する」
僕は黄のゴブリンメイジを召喚する。そして二体に詳細な作戦を伝える。ゴブリンウォリアーの行動から、黄のクリーチャーならこの程度は理解できると当たりを付けた上での指示だ。白のクリーチャーは目の届く範囲で細かく動かすのが最善で、遠い所に送るのならごく簡単な命令しか出せないのは経験で分かっている。
「ゴブリンウォリアーは強い奴と戦え。ゴブリンメイジは建物を焼け」
これが基本だ。ここまでならギリギリ白のクリーチャーでも分かるかもしれない。
「燃やすのは井戸に近い大きい建物だ。しかし教会は狙わなくて良い」
僕はクワックヴィルを訪ねた事がない。でも農村ならどんな建物が何処に建っているか分かる。最優先で狙うのは食料の備蓄だ。備蓄が入っている建物は意外と分かりやすい。まずは大きい。そして万が一火事が発生した時のために井戸の近くにある事が多い。火を扱う鍛冶屋とパン屋から遠い事が多いけど、そこまで細かく指定したら逆に混乱しそうだ。それでも他の建物と比べて特異な形をしている教会くらいは指定出来るはずだ。山賊団の子供を積極的に殺すのなら教会を焼けば良い。僕はそこまで出来ない。ソフィが起きていれば「甘い」と容赦なく叱責してくる姿が見える。
備蓄を焼けば冬を越せない山賊は大幅に弱体化する。僕がマジックとトラップで今回の強襲に参加すればクワックヴィルを落とせる。でもそれだと不味い。領主が弱った山賊を倒すと言う形に持っていくのが最善だ。昨日前の僕なら「そうなったら良いな」とおざなりに行動していた。でも今日は領主が自発的に動けるだけの地ならしをする方向に切り替えた。山賊団に戦いを吹っかけたのに他人任せにするのは間違っている。政治的事情は忖度しても、山賊団を生かす気は無い。春までにケリを付ける。
「良し、行け!」
カードキューブが灰になった後、残った魔石で可能な限りクリーチャーを召喚してゴブリンウォリアーにつけた。これで襲撃時の混乱が酷くなる。僕は吉報を信じてソフィを背負う。一晩経って熱もかなり下がっている。明日か明後日には目を覚ますだろう。その前にスルーブルグへ目指すとする。幸い再召喚したダイアクロウとしぶとく生き残ったダイアウルフが居る。この二体が先導してくれたら森の中を真っすぐスルーブルグへ向かえる。
深夜になる頃にはスルーブルグの城門が見えた。この時間は閉まっているのでダイアウルフを護衛に野営する事にした。そして北東の空を見る。最初は何も無かったが、しばらくすると明るくなった。スルーブルグの方でも見えるから、城門の上に居る兵士が慌ただしく動くのが見える。
「ん……」
「ソフィ! 気が付いたか?」
濡れたタオルで唇を拭く。本当は何か食べさせたいけど、まだ意識が朦朧としているみたいだ。
「山賊」
最初に聞くことがそれ? 僕の安否とかは?
「大丈夫、クワックヴィルは焼いた」
「良し!」
それだけ聞いて彼女はまた眠りについた。僕は密かに胸をなでおろす。クワックヴィルを焼いていなければどうなっていたか。ソフィは容赦が無いから、何処まで燃やされていたか分からない。燃える空をずっと見ていたい気もあったけど、寝不足は良くないと思い必死に眠ろうとした。実際は三時間も眠れたか分からないけど、城門が開く音で目が覚める。相変わらず倒れたままのソフィを担いで城門へ向かう。
「その子はどうした!?」
「モールスヴィルから来る途中で熱を出しまして」
「冬に移動するのならもっと注意せよ」
「はい。彼女には良く言い聞かせておきます」
衛兵に呼び止められて少し話をする。すぐに解放されたけど、場合によっては少し拘束されたかもしれない。そうなったらレイの名前を出そう。レイに迷惑を掛けたくないけど、衛兵に捕まっている状態の方がレイには迷惑だ。
朝早いこともあり、道を行く人は疎らだ。少し遠い商業地区からは喧騒が聞こえるから、スルーブルグ全体が寝ているわけではない。前方から男の二人組が来る。見た目と足取りからして堅気とは思えない。娼館か酒場からの朝帰りか。絡まれる事は無いだろうけど、ぶつからない様に道を開ける。と同時に男の裏拳が顔に迫る。ソフィを担いでいるから回避が間に合わない。
「痛!」
顔面に良いのを食らい吹っ飛ばされるも、何とかソフィを壁にぶつけない形で片膝を付く。耳に当たった影響か、平衡感覚がおかしい。「市中で襲撃!?」と驚く間も無くもう一人の男が砂袋で僕の頭を強打する。人攫い? それも相当手慣れている。
「く……」
逃げないと駄目だと思うけど、だんだん目の前が真っ暗になる。そこで僕は意識を手放した。
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