036
山賊のリーダーが倒しやすそうなゴックに狙い定める。
「させない!」
ガキィィィン! 僕が無理やり二人の間に入り、リーダーの剛剣に吹き飛ばされる。僕の使っていた安物の剣は一撃を受けただけで砕けた。でもそれで良い。
「ガキが!」
悪態をつくリーダー。だけど僕は気付いている。子供だから一瞬手を緩めた事に。
「山賊は一人残らず殺す! 召喚、インプ!」
「「キキ」」
ゴブリンよりも更に一回り小さい赤色の悪魔が二体顕現する。尻尾の先には小さな火が燃えている。王国では付け火の常習犯として嫌われている。
「おい、悪魔だ! 悪魔が出てきやがった!」
「教会に持っていけば懸賞金、いや無罪を得られるかも!」
山賊たちは口々に言う。自分たちの行いを罰するために地獄から悪魔が来たと思わないのかな?
「相手が悪魔なら、正義は我らに有り!」
リーダーが好き勝手叫ぶ。やはり僕はこの敵が嫌いだ。
そこからは一進一退だ。リーダーが僕の四体のクリーチャーを先に殺すか、ソフィが八人の山賊を燃やし尽くせるか。
「ふっ! やってくれたな! だが貴様らは既に後が無い!!」
リーダーを含めた山賊二人。片やこっちは僕とソフィだけ。頼りのダイアクロウはリーダーを狙ったときに返り討ちを食らって屍を晒している。ゴブリンとインプも頑張ったが既に全部地にひれ伏している。最後の伏せクリーチャーであるダイアウルフは残っている。使うのなら弱い山賊相手か? それともリーダーの足を噛んで機動力を削ぐか? やはり黄(’アンコモン)の加護持ちとなるとその強さはそれ未満とは隔絶している。
「そうだとしても、山賊に屈する膝は無い!」
僕は今すぐ逃げたい。僕だけなら逃げている。でもソフィは足が遅い。置いて逃げるわけにはいかない。それに僕の中では「まだ勝てる」と言う油断があった。クワックヴィルへの攻撃が赤字になっても負けは回避できると思っていた。
「旦那! 殺してくれ! こいつらは南から来た! てことは……」
「!? まさか、貴様ら!!」
「山賊は殺すって言ったよ? 子供だろうとね」
僕はさも当然の様に言う。やはりあの子供はこの男の息子か。
「外道が! 貴様に人の心は無いのか!」
「山賊がそれを言う?」
どんな名言を吐こうともただの山賊の言葉では僕には届かない。誰にも届かない。
「やはり! この領地は浄化しなくてはならない!!」
リーダーが剣を振って僕を狙う。僕は回避に専念する。リーダーの腕なら回避に専念すれば少しは持つ。冒険者ギルドの冒険者相手ならカウンターを決められるけど、彼はそう言った冒険者より一ランクは強い。モールスヴィルでブラノックにのされていなければとてもこの攻撃を躱しきれなかっただろう。
「俺は無実の罪で貶められ、幼い息子のために山賊に身を落とした! そんな俺を認めないと言うのなら貴様から死ね!」
リーダーは戦いでハイになっているのか、これからやる行為を事故正当化するためか、ベラベラ語りだす。僕にとっては回避がしやくなるのでもっと話して貰っても構わない。しかしカウンターを入れられるほどの隙は出来ない。
なんとかカードを召喚する隙を作らないといけない。もっと前に召喚しろと自分を叱責したいけど、小作農生活が長い分だけ最後の保険を使うのには臆病になってしまう。
「ぎゃあああ!!」
僕とリーダーがそんな戦いをやっている横でソフィが最後の山賊を焼き切る。
「二対一!」
「それがどうした! 貴様が居る限り魔法は放てまい!」
彼の激しい斬り込みが遂に僕を捕える。僕の動きに慣れてきたか。それに体力面では彼に一日の長があるみたいだ。でも僕を盾にして魔法を食らわない位置取りを取るからまだ対応できる。彼の戦い方の巧みさは認めるしかない。何かがこの均衡を崩すまで後少し。
僕は彼の攻撃を大きく躱して致命的な隙を晒す。彼は勝ちを確信するも、腕一本を議選にしながらもギリギリで魔法を回避する。
「ぐぅぅぅ!」
「終わりだ!」
「うおおおおお、まだだ! 皆の仇を討つまでは倒れん!」
雄たけびを上げて突進しそうなリーダーの体がソフィの魔法でまた吹き飛ぶ。流石は黄の加護持ちだ。吹っ飛びながらもギリギリ死ぬのを耐えた。
「そんな力があるのなら領主をぶっ殺しなさいよ!」
珍しくソフィが他人に怒鳴る。ソフィは本当に嫌いな人には笑みを浮かべて燃やす。言葉を掛けると言う事はソフィに取ってこのリーダーは何か気になる事があると言う事だ。
「ははは、そんな力は無い」
「なるほど~、だから弱い農民で憂さ晴らし~」
一瞬の静寂。
「覚悟が足りん!!」
一瞬ソフィが爆発したかの様な衝撃が僕を襲う。四つん這いになって必死に耐える。リーダーは気に打ち付けられて瀕死だ。
「敵は殺す~。その覚悟が足りないのはだ~れ?」
ソフィの火傷で黒ずんでいた左半身が燃えている。
「ば、ばけもの……」
リーダーが辛うじて口走る。
いけない。ソフィがこのまま力を使ったら取り返しのつかない事になる! それだけは分かる。でも僕は蛇に睨まれた蛙の如く体が動かなかった。
ソフィの怒りの矛先は僕だ。リーダーなんて既に眼中にない。ソフィにあれだけ力強い事を言いながら、結局は覚悟が足りずにジリ貧な戦いに巻き込んでしまった。言い訳は幾らでも出来るけど、本質的に僕とリーダーは全く同じなんだ。「領主が怖かった」の一点に尽きる。僕は山賊を攻撃して憂さ晴らし。彼は農民を攻撃して憂さ晴らし。ソフィの目には双方とも覚悟が足りない軟弱者に見えている。
気に入らなければ領地どころか世界すらも焼き滅ぼすと言うソフィほどぶっ飛ぶのはどうかと思う。でもそうだな。僕も詰まらない遠慮は無しだ。
「アイクの名において命じる。顕現せよ、ゴブリンウォリアー!」
「グオオオオオ!!」
森中に響く雄たけびを上げながら黄のクリーチャーが召喚される。ここら一体の農村なら一体で全部滅ぼせる、まさしく化物だ。
「ゴブリンウォリアー、あの男を攻撃しろ!」
「この世界は……化物だらけか!!」
それがリーダーの最後の言葉となった。
「ソフィ、終わった。終わったんだ」
まだ左半身が燃えたまま立っているソフィに駆け寄る。
「正気に戻れ!」
頬をペチペチ叩いても反応がない。一種のトランス状態か? 加護でこんな状態に陥るなんて聞いたことが無い。これも図書館で調べないと!
「顕現せよ、水樽! ゴブリンウォリアー、ソフィに水をぶっかけろ!」
「ゴォォォ!」
水のおかげで燃えている部分はあらかた鎮火出来た。しかし火傷がさらにひどくなっている。ここ一年半で結構良くなったのに。
「頼む、効いてくれ! ヒーリング!!」
優しい光がソフィの火傷を癒す。広がった火傷跡は治せないが、体の中の怪我はある程度治ったはずだ。
「ア……」
ソフィが何か言いそうになり、そのまま倒れ込んだ。ギリギリキャッチ出来たけど、ソフィの体はとんでもない高熱を持っていた。
「これは不味いな」
とにかくソフィを休めないといけない。そして目覚めた時にはクワックヴィルを襲撃したと伝えられる様にしたい。
応援よろしくお願いします。




