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モールスヴィルはスルーブルグから南東160キロ辺りにある。道が曲がりくねっているので実際は200キロ近く歩かないといけない。クワックヴィルはスルーブルグから東80キロ辺りにある。その二つを繋げる道は凡そ真っすぐなので歩くなら距離は90キロと少しだ。クワックヴィルの方がモールスヴィルより遥かにスルーブルグに近い。クワックヴィルは本来スルーブルグの東側にある村々の物資集積所としての役割を期待されていた。しかしクワックヴィルの数代前の村長が良質な麦を悪質な麦と入れ替えているのが発覚した。領主家お抱えの大商人と官僚数十人も関わっていた大規模な事件で、かなりの数の首が落ちた。クワックヴィルの物資集積所としての役割は強制的に終わった。領主は他に小規模な物資集積所を作って対応した。素人目から見て、これは現在進行中で失敗している。
そして何をどう間違えば山賊に占領されたままになるのか。たぶん領主には僕みたいな小作農には理解できない深謀遠慮があるんだろう。でも領主が守ってくれないのならこっちが自衛するしかない。自衛した結果として僕が罰せられる可能性がある。なのでクワックヴィルを攻撃するのならそれ相応に気を付けないといけない。
「面倒!」
僕の説明をもうちょっと聞いてよ!
「ならダイアウルフの鼻を使って殺した山賊の通った道を逆走するで良い?」
「そうよ!」
ソフィが自信満々に言う。
ダイアウルフは狼系のクリーチャーのためか、鼻が非常に良い。匂いで道が分かるなんて召喚して良かった! 実際ここからクワックヴィルへ北上するとしたら100キロくらいある。道があれば簡単だけど、最低でも数100年は人の手が入っていない原生林だ。山賊が使う獣道が分からなければ死ぬまで迷子になる可能性がある。無論、そうなりそうならソフィが炎で辺り一面を焼き滅ぼすので迷子より焼死の可能性を心配しないといけない。
「たぶん山賊の拠点が2、3ある」
狩人小屋みたいなのを建てて、そこで防衛網を作っているはずだ。まさかクワックヴィルまで監視の一人もいないと言う事は無いだろう。
「燃やすわ!」
「家探しした後で」
狩人小屋に大事な物を置かないと思う。でも小銭は回収出来るはずだ。それに南側のだけ焼くとモールスヴィルから来たとバレる。欲を言えばどこから攻めて来たか分からない様にしたい。そしてそれはダイアウルフとダイアクロウの働きに掛かっている。
「モンスターは?」
「殺そう」
モンスターが残っている方が山賊の南下を押さえられる。でも僕の戦力を強化した方が安全だ。ソフィにはカードキューブの事を言えないので、白の魔石が50溜まったら一夜で召喚しきろう。
カラカラカラ!
「あ、トラップ!」
ヨックが侵入者を知らせる鳴り子トラップに足を引っかけた。ゴブリンを先行させてトラップを解除させるのはやはり正しかった。僕とソフィは急いで隠れる。
「侵入者か!?」
「また兎だろう?」
「いいから、確認しだ!」
山賊がわらわらと何処かから出てくる。恐らく茂みの裏に拠点があるのだろう。
「ゴ!」
「ゴブリンだ!!」
「くそ! 旦那が留守の時に!!」
「や、やるしかない!!」
どうやら加護持ちは不在か。
「ゴブリン、突撃!」
俺の命令を聞いて隠れていたゴブリンが山賊目掛けて走り出す。
「うげ! 何体居るんだ!?」
「落ち着け! 距離を開けて……ぎゃあああ!!」
別の場所に隠れていたダイアウルフが男の足に嚙みついて、そのまま振り回す。山賊が二人ほど巻き込まれ大地に倒れ伏す。
「化け物がぁぁぁ!」
僕が気付かなかった弓使いが後ろから矢をつがえる。しかし彼が一射する前にダイアクロウの爪が彼の首の肉をえぐり取る。
「ゲホォォ……」
息が出来ずに倒れる弓使いに止めを刺すゴブリン達。
「私のは!」
戦いが終わってソフィが怒鳴る。
「こんな雑魚はゴブリンに任せて。それより旦那は加護持ちだ。彼こそソフィの獲物だ!」
「ふん! 分かっているじゃない!」
前衛系だろうから任せるのが凄く心配なんだけど、こうでも言わないとソフィが納得しない。
「ヨックはこの拠点に入って中を確認しろ!」
「ゴ!」
ヨックが入って少しすると中から悲鳴が聞こえる!
「く、来るなぁぁぁ!」
「ゴ!」
何かを叩き潰す音がして静かになった。ヨックが子供の死体を引き摺って出てきた。
「若いな」
「ティムと同じ歳くらいね」
「殺したくなかったか?」
「まさか! 敵は殺すに決まっているでしょう! 村人とか山賊なんて見ているものが小さいのよ!」
良かった。ソフィが「子供は殺せない」と言えばクワックヴィルへの攻撃は僕一人でやる羽目になった。僕は今のクワックヴィルがむさい山賊しかいない村だとは思っていない。恐らく山賊業とは関係の無い女子供が生活している。僕は生き残るために彼らを殺して手を汚す。もうレイの手を握れないかもしれないけど、レイに害が及ぶ前に終わらせる。
「周辺警戒! 僕とヨックで拠点の中を改める。出たら焼いて」
「早くしなさいよ!」
山賊の拠点は茂みの後ろに隠されていた。思ったより本格的だ。ダイアウルフの嗅覚だけでなく、拠点がありそうなところにはゴブリンを送り込もう。それで進むスピードが遅くなっても安全には変えられない。ここまで隠す必要があるのだろうかと不思議に思うも、ゴブリン対策だとするのなら分かる。僕の率いているゴブリンが入り口に気付けるか考える。たぶん無理だ。皮肉にも鳴り子が無ければ僕達はここを素通りしていた。最悪後ろから襲われたかもしれない。
「ラッキーはいつまでも続かない。自力を鍛える時間は無い。戦力の拡充と装備の強化を急がないと」
半地下の拠点で一人呟く。僕は軽く拠点の調査をする。多少の銀貨があった他には一週間分の食料と三日分の酒しかない。酒は飲み過ぎたとして、次の補給が来るのは五日後くらいか? 次の拠点まで進んで補給部隊を待ち構えるのが良さそうだ。余りクワックヴィルへ近付くと本体に気付かれる。ヨックには力任せにそこらを掘って貰ったが、何も埋まっていなかった。ちょっと残念だ。僕は拠点を出てソフィの気が済むまま焼くのを見届けた。
「次へ行こう」
「もちろん!」
「そこで一端止まる」
「ええ!?」
「補給部隊を叩く。クワックヴィルがそれに気づく前にクワックヴィルへ奇襲を掛ける」
補給部隊が出て未帰還を怪しむ前の数日がもっとも攻めやすい時期だ。何せ補給部隊が南へ出たのなら南から何かが攻めあがってくるなんて考えないからだ。
「皆殺しね! アイクに出来るの~?」
「討ち漏らして報告されたら最悪だ。魔石を集めよう」
「しょうがないな~! 私の魔法でモンスターを丸焼きにしてあげる!」
それから三日掛けて僕とソフィは付近のモンスターを狩りまくった。途中で発見した山賊の小拠点を五つ焼いた。小拠点と言っても山賊が一人か二人風雨を凌げる程度のものだ。残念ながら小拠点は全部無人だった。クワックヴィルの山賊とは関係ない山賊が使っていた名残かもしれない。
「白の魔石が20個か。悪くない」
「どうする‘~?」
ニヤケた顔で問うソフィ。モンスター狩りに飽きて来たと言っている。
「次の拠点の位置は把握している。夜明けと共に攻める!」
ダイアクロウとダイアウルフを使った偵察で情報アドバンテージはこちらにある。後は最初の拠点の旦那とやらが出てこなければ勝てる。
応援よろしくお願いします。




