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10万文字突破しました!

 僕とソフィは二日働いて一日休む生活に入った。レイは律義に三日に一回は来る。ただレイが一緒に冒険する日は実入りが少ないのでソフィが微妙な顔をしている。ただレイが一緒だと信用みたいなものがアップする。そういう意味では労力に比べて実入りの良い依頼を紹介して貰いやすい。僕の予想より少し遅く、二週間が経った辺りで商人の手伝いクエストが並んだ。


「これを受けるには文字の読み書きテストを有料で受ける必要があります」


「受けます。二人分だよな?」


 レイに確認する。何も言わずに進めると最近は拗ねる。一緒にスルーブルグで冒険者をやると言っていたのに領主家暮らしが長いから不満がたまっている。成人したらスルーブルグを拠点に活躍する計画を変更した方が良いかもしれない。この町はレイの心情に良く無い影を落としているのかもしれない。


「ああ、俺はもう合格した」


 受付嬢の話を聞いて必要な金額を払う。これまでの稼ぎなら少し貯金していたら十分払える。もしかしてそれを計算していたのか? あり得る。冒険者が何回仕事をしたら幾ら堪るか経験則で覚えていれば、払えそうな時が分かる。となるとこのテストに合格して商人の所で結果を残せば、数学のテストが出てくると考えて良さそうだ。


「行くわよ!」


 ソフィが受付嬢の後を追って行く。今日はもう依頼を受けないだろうからレイには待たずに帰る様に言う。一人で残して何かあったら領主家が煩そうだ。


「遅い!」


 ソフィの怒号が聞こえる。僕はレイに別れを言って試験部屋へ向かう。試験は問題無く合格した。完璧すぎたら怪しまれるので何処を間違うか迷ったほどだ。成人した後なら目立っても良いけど、未成年で下手に目立つと大人の嫉妬を買うだけだ。と思っていたけど、二問不正解は未成年受験者では十年ぶりの快挙だったらしい。ちなみにレイとソフィは四問不正解だった。普段は使わない二重否定の文章があったので、それに躓いたそうだ。


 それと僕の懸念は当たっていた。僕とソフィが試験を終えて部屋から出ると冒険者ギルドの裏側が騒がしかった。


「まさか」


「だろうね」


 ソフィが嫌そうな顔をして僕は肩を竦めた。レイが大人相手に摸擬戦をして賭け事が盛り上がっている音だ。


「おお、貴様らか。その顔だと試験はなんとかなった様だな。すまないがレイを連れ帰ってくれ」


 僕達を見つけたギルドナイトのランセンが話しかけてきた。


「分かりました。今日は大人しく帰ります。明後日に二人で来ます」


 最近はすっかり「レイ係」になっている。それだけ信用を得ているとポジティブに思っておこう。


 それから僕とソフィは商人の書類仕事の手伝いを中心に受けた。水路掃除の半分の時間で四倍ほど稼げるのならやらない手はない。ただし何故かレイは書類仕事の依頼を受けてくれないのでその日は鯖しい稼ぎとなる。それでまたソフィのイライラが募る悪循環が発生する。幸い僕のアドバイスでレイが執事長から魔法の本を借りてくれたので決定的な決裂だけは避けられた。なんで13歳から二つの地雷原を跨いで反復横跳びしているのだろう?


 それからソフィは自由時間の日は集中して本を読んでいる。ソフィは「活字は嫌い」と言って憚らないけどそれ以上に魔法が好きだ。僕は御者ギルドで馬車の操縦を習った。習おうとした。ギルドの教官曰く「致命的にセンスが無い」そうだ。それでも基本的な動作をすれば馬車は普通に動くはずだ。でも動かない。教官と話し合った結果、馬が怯えているのが理由らしい。一体何故? 実は僕の中に凄い血が眠っていて、敏感な動物がそれに反応しているとか!?


 残念ながらそんな展開は無かった。肉食動物とモンスターの匂いに塗れていると馬が本能的に恐れるらしい。僕が去年数か月森の中で狩猟生活をしたと伝えたら、教官は「それに違いない」と宣言した。ほとんど一年経っているのに理不尽だ。そう言えば馬車を使っている冒険者は見ていない。彼らも僕と同じ問題を抱えているのか。そして運搬の仕事があれば御者ギルドから御者と場所を借りる。自作自演じみているけど、御者ギルドの行いを糾弾出来る証拠は無い。


 そして遂にレイが領主の館で働く日が始まった。その前にいつモールスヴィルへ物資を送るかの相談を受けた。領主は二週間後を考えているらしい。僕達に決定権があるわけじゃないけど、命令する前に事前確認してくれた。場合によってはレイの独断かもしれない。ただそうなるとレイは領主家の方針に口を出せるだけの立場になる。ただの出稼ぎの手伝いなんだよな? レイが否定している領主の甥だって噂を本当に信じるぞ?


「僕はその日程で構わない」


「帰りは確約出来ないから」


「一緒に帰って来ないのか?」


「スルーブルグへは帰ってくるけど、少し時間を開けるかもしれない」


 ソフィが余計な事を言う前に僕が引き継ぐ。


「あの村長か!」


「物資の配分で絶対にもめる。そして当事者である僕達はその配分が終わるまで村に残った方が良い」


 村長が全部懐に入れた、なんて事に成ればレイを通じて領主に報告できる。それをするには僕とソフィが村に滞在するのが最善だ。本来は助祭のクレセクの仕事なんだけど、クレセクは下々と触れ合うのを嫌っている。そのためにナイマーヴィルから来た移民の掌握がちょっと上手く行っていない。村長を一気に追い落とせるチャンスだったのに、助祭と移民の相互不理解で足並みが揃わなかった。老獪な村長はその隙を付いて守りを固めた。数の上で劣勢になっている元から居るモールスヴィルの住人が村長の下に団結する形で村長派は勢いを盛り返した。


「酷い話だ!」


「でもこの程度の動きなら読めるから助かる」


 本当にヤバいのは領主みたいにモールスヴィルに悟らせず移民を送り込む指し手だ。レイだって僕達の知らない所で未来が決まっているかもしれない。それでもレイが逃げたいと言うのなら僕は彼の手を取って一緒に逃げる。それをするにはしっかり資金を溜めてそれ相応の実力を付けないと駄目だ。


「と言う事で嫌だけどモールスヴィルでしばらく時間を潰すから。帰ってきたら次の本を用意しなさいよ?」


 ソフィが七割ほど読み終わった本を振り回す。ソフィなら冬の間にもう一冊は読めるだろう。


「分かったぜ。と言ってもニールの奴はそれ一冊らしいから次はいよいよ領主様か」


「いや、待った!」


「どうしたアイク?」


「今回の一件を僕達が引き受けるんだから、領主様に図書館へのアクセスを頼めるかもしれないと思った」


 非公式の依頼だし、依頼ですらないと言えばそれまでだ。でも村の状況を知り、なおかつ巻き込まれると知って僕達の帰還に合わせるのだから領主側は何か皮算用をしているはずだ。一定身分以上の市民限定とはいえ、公共の施設となっている図書館への紹介状くらいはせしめる事が出来るかもしれない。


「俺が頼めば一発だって言っているのに!」


「流石に理由も無く貰うのは怖い。それにあっちだって何か渡した方が安心する」


 領主からしたら僕とソフィは路傍の小石だけど、レイの親友と言う一点で見過ごせないはずだ。それにソフィはその魔法の才能から側室候補に勝手になっていても不思議じゃない。


「ちょっと、不愉快な事を考えていない!?」


「いや、全然?」


 何かソフィの第六感が発動したみたいだ。何故だ?


「アイクが変な事を考えるのはいつもの事だぜ? 領主様には俺から伝えておく」


 それでこの話は終わった。


 出発までの二週間では何も大きな動きは無かった。僕達三人が冒険者ギルドが出した数学の試験に合格したくらいだ。レイは一年前に冒険者になっていたのに今まで取っていなかった。レイの名誉のために言っておくけど、数学の試験を受験する冒険者はスルーブルグ全体で一割弱だ。合格者はその半数程度だ。この試験に合格してレイは文武両道の年少冒険者として名前が広まる。勧誘合戦が激しくなり過ぎて、領主家の人間が常に後ろから見守っている事態に発展している。それもあってか、僕とソフィが不在の時は冒険者ギルド禁止令が言い渡されたらしい。レイが珍しく不満を爆発させていた。


 本来は同じ評価を受けて良いはずの僕とソフィは鳴かず飛ばずだった。目立たないから良いけど、世界がレイを遠い所に連れて行っているみたいでちょっとモヤッとする。

応援よろしくお願いします。

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