027
「ええい、こうなったらディーターの借りは俺っちが返すぜ! そこのスケを倒してな!」
三下冒険者がソフィに勝負を挑んできた。レイはまだ戦闘エリアに居る。レイが帰ってくる前に無理やり戦いを成立するのが狙いだ。
「待った! ソフィと戦うのならまずは僕を倒せ!」
僕が三下とソフィの間に割り込む。
「ああ!? そのブスはてめぇのコレかぁ?」
やめるんだ! ソフィの地雷ワードを連発するな! 死ぬぞ!!
「ソフィは大事な女性だ」
後ろで小声で「バカ」と聞こえた。こういう時は褒めて欲しいな?
「けぇ、気に入らねぇ! ガキの癖にいっちょ前に恋愛ごっこだぁ!? 俺っちが教育してやるよ、ひっひっ!」
「アイク、こんな糞雑魚に手古摺ったら燃やすわよ?」
「先輩の胸を借りる気で頑張るよ!」
「私より弱い癖に」
「そうだけどさ、ソフィが戦ったらギルドが全部燃えるから」
「そんな事しないわよ。その男が消し炭すら残らない程度に加減するわ」
三下の顔がみるみるうちに白くなる。ソフィが邪悪な笑みを浮かべながら周りの温度を上昇させる。
「始めましょうか?」
チラッとギャラリーを見たら、気付いている人は二割程度だ。多いと見るべきか少ないと見るべきか。気付いた上でソフィが切れたら止められるのはランセンくらいだ。この三下はとんでもない事をしてくれた。とにかく僕と三下が離れてレイ辺りが上手くソフィを落ち着かせると期待するしかない。
「お、おぅ。俺っちの華麗な技を見せてやるぜぇ! 泣いて許しを乞うても遅いんだぜぇ!!」
ビビッていても、言い出しっぺだから退けない悲嘆を感じる。僕は退いてくれた方がありがたい。
「大丈夫?」
戦闘エリアでレイとすれ違う。僕が戦う事に驚きを禁じ得ない。
「ソフィを頼む。切れたら、ね?」
「任せろ!」
それだけで完璧に意思の疎通が出来る。これなら戦いに集中できる。
「両者、用意は良いか? なら、始め!」
審判がランセンから違う人に変わっている。ランセンはレイと話している。実際はその体でソフィの近くに立っているのだろう。
「よそ見かぁぁぁ!」
三下が木剣で斬りつけてくる。右足を半歩下げて回避する。
「中々鋭い振りですね」
「てめぇ!!」
三下の攻撃を見る。手首の動きから二連撃の斬撃が来る。必要最小限の動きで躱す。ビシッ! 左肩のアーマーに掠った! 読み違えたか。
「ええい、当たりやがれぇ!!」
更に攻撃が激しさを増す。回避はまだ余裕だ。だから違和感を感じる。僕が回避する前提の攻撃に感じる。狙いはなんだ?
壁際に追い込むつもりか? 僕は先ほどから後ろに下がって回避しているから、このまま回避だけしていれば追い詰められる。
なら動きを変えるべき時は?
「貰ったぜぇ!!」
仕掛けるべき時を知らせてくれるとは、なんて親切な三下だ!
「今!」
僕は前転で彼の横を通り過ぎる。彼の大振りはむなしく空を斬る。距離を開けるためにもう一回前転する。
「ちょこまかとぉ!」
振り向いた三下の攻撃が迫る。こちらはまだ膝立ちだ。だから逆袈裟斬りでその剣と打ち合う! 三下はそこそこ筋肉があるみたいだけど、朝から晩まで農作業をして鍛えている僕の方が力は強い!
「ぐわっ!」
「やる!」
あの一撃で決めるつもりだった。でも三下は剣を落とさず数歩後ろに下がる事で衝撃を逃がした。冒険者をそこそこやって死んでいないだけはある。
「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ、てめぇ……」
「休憩時間を取ります?」
「不要だぁぁぁ!!」
激高して大振りが増える。回避に専念するしかない。僕の攻撃はカウンター主体だと思っているみたいだ。その通りだよ、こん畜生!
でもそろそろだ。相手は肩で息をしている。僕は汗すら出ていない。小作農生活の合間にランニングをしているからスタミナだけならレイ以上だ。僕がレイに勝つには持久戦に持ち込むしかないから必死にもなる。生憎とそれに持ち込める前に一本取られるのが日課だ。
「ふぅぅ……ついに俺っちを本気にしたなぁ! 見せてやるぜぇ、ゴブリン3体殺しの必殺技をぉぉぉ!」
ゴブリン三体を斬ったら必殺技になるのか?
「良いですね! これで終わりにしましょう!」
見せて貰うとしよう!
「おぉぉぉ!!」
三下が全力の袈裟斬りを放つ。こんな大振りゴブリンでも回避……これは見せ札か! 僕は彼の目と腕を見る。そして気付く。三下はこの体制から無理やり逆袈裟斬りを放つのだと!
「遅えぇぇぇ!!」
「くっ!」
見に徹し過ぎた! 三下の刃が僕に迫り、盛大に空を斬る。
「あれぇ!?」
忍法ミスディレクション! 三下の攻撃を回避しながら三下の感じている距離感を弄っておいた。ここまでしないと発動しないのだからもっと修行しないと実戦ではとても使えない。
「はぁぁぁ!」
僕はバランスを崩した三下の左ひざを木剣で叩く。そのまま倒れる三下の首筋に剣を当てる。
「続けます?」
「ぐぅぅぅ……けっ! てめぇのまぐれ勝ちだ! まぐれぇ!!」
三下は木剣を投げ出して去っていく。彼の言う通りだ。実力で勝ったなんてとても言えない。正々堂々と勝ったなんて一生言えない。それでも、今日は僕の勝ちだ!
三下の散らかした装備を回収して用具入れへ返す。そうしてレイとソフィの待っている席へ帰る。
「アイク、凄いじゃないか!」
「レイの相手の方が強かったし、それほどでも」
「私に焼かれたい奴はいないの?」
一人だけ戦えなかったソフィが不満顔だ。
「しかしやんちゃなレイが正剣で礼儀正しいアイクが邪剣とは面白い。以前見たレイの剣とは違う。何処で習った?」
僕たちの会話にランセンが入ってくる。
「師匠のブラノックだ!」
「ブラノック!? 確かに剣の腕と女を孕ませる事だけは確かな男だ! 元気にやっているか?」
「ああ、モールスヴィルで自警団を組織して村の防衛をやっているぜ」
「あいつがな! 俺も子供が出来てギルドナイトへ就任して落ち着いたが、あいつも同じか。子供が出来る前は結構な暴れ者でな!」
「師匠にそんな過去が!」
「おう! 今度機会があったら話してやるぞ」
「楽しみだ。なあ、アイク?」
「そうだね」
相槌を打っておく。これって時間稼ぎだよね? 少し前から良い服を着た中年がこっちを睨んでいるし。レイは気付いていないのか?
「うむ、俺は仕事があるのでここで失礼する。三人の活躍を期待しているぞ!」
「おう!」
「はい!」
「まあほどほどにね」
三人三様だ。
「遅れたけど宿に行こうぜ」
レイがさっさと宿に向かおうと言う。
「その前にあれはレイの客じゃないか?」
流石に無視は不味いって。レイも実は気付いていただろう?
「でも!」
「行くよレイ!」
「はいはい、とっとと終わらせてよね?」
僕がレイを引っ張っていく。
「レイ君、お久しぶりです。私は領主様の執事長をしているニールと申します」
何気にVIPが出て来たぞ? レイが領主の甥って話は本当かもしれない。
「う、うん」
「そちらは?」
「ああ! 紹介するって! 親友のアイクだ。そしてこっちが世話になったおばさんの娘のソフィだ」
「アイクです」
「ソフィ」
「そうですか。レイ君とは良いお友達でいてくれると助かります」
何故か僕が睨まれる。不思議だ?
「これから宿屋に行くんだが?」
「いえいえ、レイ君は是非とも領主の館に滞在して貰わなくては」
「まだ二か月あるじゃないか!」
二人が言い争いを始める。ソフィのイライラゲージが上がる。
「なぁレイ。せっかくだから領主様の所で泊まったら? 宿代だって無料ってわけじゃない」
「宿代のために売られる!?」
「人聞きの悪い! それに朝に来られるのなら問題無いだろう?」
一年前に抜け駆けしたレイは別にして、僕とソフィはさして金にならない重労働から始める事になる。それにレイを付き合わせる必要はない。
「うぐ……」
レイがニールを見る。
「領主の館で働くのは冬の間だけ。一月ほど余裕があります」
「ええい、それで我慢してやる!」
「良い判断です」
判断については分からないけど、ニールの一人勝ちだ。
「あの、出来れば宿を紹介して貰いたいのですが」
小作農が執事長に頼むのは気が退ける。でもレイ絡みとなれば何とかしてくれる自信がある。僕とソフィがとんでもない盗賊宿に泊まって尋ねに来たレイに何かあれば大変だ。
「ふぅん、それでしたら『柏木の新芽』と言う宿屋が良いかと。レイ君も騎士団とゴブリン討伐の打ち上げをそこでやりました。場所はギルドを出て……」
「それなら一緒に行こうぜ!」
「は、はぁ」
ニールは嫌そうな顔をするも、レイの頼みとあって了承する。この二人の力関係がいまいち掴めない。これがベテラン執事長の力か!?
9万文字あたりでやっとアイクが結構強いと判明しました!
応援よろしくお願いします。




