026 冒険者生活の始まり
スルーブルグへ入って最初に向かったのは冒険者ギルドだ。輸送の護衛をしていた冒険者がギルドへ行くと言うので一緒に行くことになった。余りにも人が多くてソフィは完全にお上りさんになっている。僕も前世の記憶が断片的に無かったら人込みに飲まれていた。肝心の冒険者ギルドは城門から少し離れた所にあった。モンスターの襲撃があった場合に備えてこの位置にあるのだろう。城門の側には兵士の詰め所があるので、近すぎると人の出入りが激し過ぎて現場が混乱するのを警戒している。冒険者ギルドは他の大通りの建物同様に三階建てだ。スルーブルグで二階建ての建物は燃えてしまった教会くらいだから、かなりの圧迫感がある。
冒険者ギルドへ踏み込む。良い年をした大人が昼間から酒を飲んで管を巻いている。入って来た僕達を値踏みしている事を隠そうともしない。うだつの上がらない冒険者は質が悪いとブラノックから聞いていたけど、僕の中で冒険者ギルドそのものの評価を下方修正する。職安が半グレのたまり場だったら評価が下がるのは職安の方だ。人目に付かない後方に回すとかしたら良いのにと思う。
「年少冒険者の登録はこっちだ」
レイに案内されてカウンターへ向かう。汚い。掃除が行き届いていない。
「冒険者登録したいです!」
出来る限り営業スマイルで受け付けのおばさんに声を掛ける。
「はぁ、この書類にサインして。名前とか書けないなら代筆するから」
代筆出来る程度の実力はあるのか。モールスヴィルで文字を書けるのは十人ほどだ。その内三人がここに居る。
「規約は無いんですか?」
「は? 規約……音読なんてしないから」
「大丈夫です! 読めます」
僕はタバコの脂、零れた酒、そしてたぶんモンスターの血で汚れた書類の束を預かる。ソフィが自分の分を記入している間に素早く読む。この時点で冒険者に持っていた憧れが木っ端みじんになる。この場合もっとも大事なのは脱退方法だ。脱退を認めないとか、莫大な資金が必要とあれば登録を考え直さないといけない。登録は簡単でも解約が難解なものに多く引っかかったと前世が警鐘を鳴らしている。
冒険者は黒、白、黄、赤、そして青でランク分けされる。これはモンスターの白、黄、赤、そして青に対応している。冒険者は同ランクのモンスターまでは勝て、一ランク上のモンスターにも勝てる可能性がある。二ランク上のモンスターは絶望的だ。モンスターのランクは冒険者ギルドが必死に集めたデータにより割り出されている。僕の力みたいに確定で分かるわけでは無いので間違っている可能性があると言う事だ。
冒険者のランクは加護の一つ上まで上げられる。もちろん仕事実績がそれを満たす基準で無いと駄目だ。加護の無い冒険者は存在するけど、規約には言及がない。モンスターを倒す組織だから加護を持っているのが常識なんだろう。レイとソフィは簡単に赤ランクまで上がれるのか。赤ランクは冒険者ギルドの特記戦力として様々な恩恵を受け取れる。詳細は赤ランクなってから専属の受付に聞くシステムだ。
退会方法は新人扱いの黒なら登録した一週間以内なら自由に退会出来る。お試しとか悪戯で登録する人がいるのだろう。それ以降の黒と白は冒険者ギルドの審議を経て退会が決まる。黄の大会について何も書いていない。主力だから退会禁止なのかもしれない。気を付けないといけない。赤は貴族かそれに準じる人が大会に同意する必要がある。上に行けば行くほど足抜け出来ない。白辺りで退会した方が良いかもしれない。
え~と他に税金は源泉徴収なのとギルドは黄以上の冒険者には強制依頼を年一回まで出せるとある。スルーブルグが襲われた際の防衛義務もある。ここだけ「モンスター」と書いていない。「人間」が攻めてきても戦力として駆り出されるのを覚悟しないといけない。最後に冒険者同士の争いには関与しない代わりに、冒険者じゃない人間への手出しは厳禁となっている。何処まで守られるのか分からないけど、これは覚えておこう。
総合すると赤クラスにならないと冒険者生活に旨味が無い。そして冒険者の九割は白クラスで一生を終える。黄クラスに上がれる実力があっても赤クラスになれない人は昇級を拒否する。戦力的には主力であるはずの黄クラスが一番の地雷ってギルドはやる気があるのだろうか? 冒険者ギルドは構造的な問題を抱えていると思うしかない。僕がどうこう出来る問題では無いから、巻き込まれない様に注意だけしよう。
僕は規約を帰して素早く書類を埋める。
「はい、これで黒クラスの年少冒険者よ。成人するまでモンスター退治は禁止だから。モンスターを退治しても換金は拒否するし、素材は没収よ」
なんかとんでもない事をさらっと言われた! 規約には書いてないよ?
「ゲヘヘ! ガキども、いっちょ揉んでやるぜ!」
酔っ払いのおっさんが近づいてきた。登録が終わるまで待てるだけ頭が切れるのか、いつもやっているから頭を使わなくても良いのか。後者かな?
「やめろ、ディーター!」
護衛で一緒だった冒険者が異を唱える。
「冒険者同士の戦いに口を挟むんじゃねぇ! それにてめぇが腑抜けだからこんなガキが冒険者やるんだろうが?」
「き、貴様!」
武器を抜こうとする冒険者を彼の仲間が必死に抑える。武器を抜くのは駄目なのか。暗器を用意しよう。
「なら俺が相手だ!」
レイが僕とソフィを守る様に前に立つ。
「いいぜぇ! 裏の訓練場でひん剥いて可愛がってやるぜぇ!」
そんな事をしそうなら容赦なくゴブリンを召喚してぶっ殺す!
「そんな真似は許さん!」
突然良く通る男の声がする。
「「ギルドナイト!?」」
「この摸擬戦はこの赤加護のランセンが審判を務める。双方良いな!」
「ちくしょうめ!」
「俺はそれで構わない」
ディーターはレイを嬲るのが目的だったため苦渋の表情を浮かべる。
ギャラリーを引きつれて訓練場へ向かう。レイとディーターが木製の武器と借り物のプロテクターを付ける。既に賭けが盛況だ。僕はレイが勝つ方に有り金を賭ける。
「木製でもこの大剣で顔を叩けば、伊達な姿になるぜぇ!」
ディーターは175センチで80キロくらいのパワーファイターに見える。腹が少し出ているのは酒の飲み過ぎか。筋肉質に見えるけど、実際は脂肪の可能性もある。弱い者を嬲るのが趣味なのは分かるけど、クレバーな戦いが出来るのかは分からない。情報が無い分だけ油断できない。レイは163センチだ。ここ一年で20センチは伸びたけど、まだ周りの大人に比べて華奢だ。レイは「筋肉があまりつかない体質」と言っているけど、もっと良いものを食わせて体を作らないと駄目だ。
「御託は良い、時間の無駄だ」
レイは見世物にされる事を好まない性質がある。これで戦いを早く終わらせようと変に焦らないと良いけど。
「始め!」
「うおおおおお!!」
ディーターが大上段に振り上げた大剣を全力で振り下す。発生する風圧は相当なものだが、レイはそれすらも計算してギリギリ耐えられる距離まで動く。そして振り下ろされる剣に合わせてディーターの右ひざを全力で叩く。
「うぎゃあ!」
ディーターが痛みで片膝を付く。そこにレイが上段から全力でディーターの頭に攻撃する。
「うご!?」
クリーンヒットを食らったディーターは気を失って崩れ落ちる。
「勝負あり、勝者レイ!」
ランセンがレイの勝利を宣言する。余りにも鮮やかな早業でギャラリーがポカンとしている。13歳の子供が30歳未満のベテランを圧倒的な強さで瞬殺したんだ。当然の結果だ。僕はしっかり価値分を徴収しよう。
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