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025

 モールスヴィルを出て二泊した。冒険者がはぐれゴブリンを討伐した以外は平和な旅路だ。予定通りに進めば、今夜は中間点を越えた場所で野宿だ。そこまでスルーブルグへ近づけば巡回する騎兵に遭遇しやすくなり、安全が格段に上がるそうだ。何事も無いと良いと思いながら歩を進める。


「カァ!」


 前方からダイアクロウの鳴き声が聞こえる。冒険者が慌てて臨戦態勢を取る。ダイアクロウの膂力なら荷馬車を引いている馬を持ち上げて飛び立てる。荷馬車が重りとなって馬は連れ去られないけど、荷馬車が横転する可能性は高い。ダイアクロウは悠々自適に僕たちの上空を飛んで消える。


「クーちゃん」


 馬車に乗っているソフィが呟く。そして静かに魔法の詠唱を開始する。


「鳴き声は一回。右から来る」


 クーちゃんには待ち伏せが右であれば一回、左であれば二回鳴く様に命じていた。去年の冬に遭遇したクワックヴィルの偵察隊の事を考えればほぼ確実に襲撃してくるのは分かっていた。ブラノックがいる村の方を襲って欲しかったけど、増員の事を知っていればそっちを回避するのは当然だ。その分襲いやすく確実な実入りがある隊商を狙って来た。


 レイは深く聞かずに信じてくれた。大人に伝えるわけにはいかないので、山賊の奇襲次第で乱戦になる。レイがしっかりしていれば僕達がやられる事は無い。それから30分。


「右から矢!」


 レイが叫ぶ。一瞬遅れて矢が十数本右から飛来する。冒険者の一人か二人に当たったみたいだ。


「ギエエエエエエ!!」


 雄たけびと共に両手で斧を振り上げた山賊が右側から飛び出す。


「ファイアアロー!」


 僕は卑しくソフィの背後に隠れてファイアアローのカードを発動する。ソフィは火魔法を使うから、このファイアアローはソフィが放ったものと誤解されるはずだ。加護ブレイブが無いのに魔法を使えるのが露見すると色々まずい。


「アガッ!?」


 山賊の頭が魔法の直撃で爆ぜる。首無し死体が仰向けに倒れ、敵味方双方が一瞬硬直する。僕の貫通したファイアアローは当たった木を燃やしだす。ちょっとまずいかもしれない。


「ブラックフレイム!」


 ソフィの右手からこの世の物とは思えない黒い炎が這いずり出す。それは蛇の様にうねりながら近くの山賊と木々を飲み込み一瞬で灰へ変える。僕のせいで炎上していた木も一瞬で灰になった。その余りの光景に双方が震え出す。気の弱い者はその光景を見て盛大に吐く。隊商の非戦闘員に多い感じだ。


「俺に続け! 敵は勢いを失っている!!」


 レイが飛び出す。「冒険者に任せて」と叫ぼうとするも声が出ない。そうだよ、これがレイだ。常に皆の前に立ち、皆を導く僕の最高の友だ。僕が彼の歩みを止めては駄目だ。


「うおおお!!」


 レイが形見の剣を横に振る。山賊はそれを受けようと剣を構える。そして山賊は剣ごと真っ二つになる。ドサッと上半身が落ちる。この予想外な展開にレイが硬直する。あの剣は本当にパパが作ったのか? あんな凄い剣を作れるのなら絶対にモールスヴィルでへぼ鍛冶なんてやっていない。


「突撃ぃぃぃ!!」


「レイ良くやった! 後は俺たちに任せやがれ!!」


 態勢を整えた冒険者がレイを押しのけて山賊へ突撃する。そして奇襲効果を失った山賊はろくな抵抗も出来ずに倒される。その光景をレイは黙って見ていた。レイの側に行きたかったけど、僕が出ても足手まといになる。戦闘が終わるまでユフィの護衛に専念する。そして逃げた山賊は追わず、殺した山賊は放置して先を急ぐ。


「ゲホゲホ」


 そんな中で盛大に吐いているレイの背中をさする。


「水でも飲むか」


「だ、大丈夫だ。アイクは大丈夫なのか?」


「僕は殺していない」


「最初の魔法はソフィじゃない」


「あちゃ~、見てた?」


 位置取りは良かったと思ったのに、やはりレイから隠し事は出来ないか。


「アイクの事を見逃すわけないだろう?」


「はは、慣れているから」


「……」


 レイが睨む。僕がいつ人を殺したのか分からず困惑している。


「昨冬、モールスヴィルを窺っていた偵察隊を始末した。大人たちは知らないから」


「言っていれば……」


「どうやって信じてもらう? あの村長だよ?」


 僕が山賊を’殺して報告したら、どうやって殺したか聞かれる。僕が山賊を殺さずに報告したら、一味だと断定される。どう転んでも僕の不利になる。


「グルとして吊るされたか」


「ほぼ確実に」


 僕とレイはあの村長を一切信用していない。ブラノックかクレセクが当時に居たら相談していた。あの二人が居たら森へ入る事が出来なかったので実際は気付かれずに村が奇襲されたかもしれない。


「か弱い私の心配をしたら?」


 一番ケロッとしているソフィが言っても同情する者はいない。


「ソフィは凄みがあるから」


「はぁ!?」


 僕の必死の誉め言葉を聞いてソフィの肩眉が上がる。


「お~い、レイにソフィ! 旦那が呼んでいる!! 来られそうか?」


「はい、行けるぜ!」


 どうやってソフィの怒りを鎮めようかと焦っていたら、商人の部下が声を掛けてきた。レイの姿を見て心配するけど、レイはすぐに相好を正した。


「二人で行って。僕は呼ばれていないし」


「だが!」


「二人の内緒だろ?」


 僕がレイに近づいて言う。


「!? それならまぁ」


 少し顔の色が戻ったレイが走っていく。


「……」


「ソフィも早く行ったら?」


「まあ良いけど」


 ソフィはそれだけ言って先頭へ向かう。


 しばらくすると二人は商人にお礼と褒美を貰って帰って来た。この短期間で「二人は凄いのに三人目は……」なんて陰口が広まっている。僕の力は公に出来ないけど、これはちょっと堪える。


「しょげない! 私のをちょっと分けてあげるから! 伏して有難がりなさい!」


「ははぁ、ソフィ様!」


「本当にやる奴があるか!」


「ははは! 二人はいつもそんな感じだな。……ちょっと羨ましいぞ」


 レイは最後の方になんて言ったのか聞き取れなかった。


 残りの道中は平和だった。夜のキャンプではレイとソフィの扱いが露骨に良くなったのは嬉しい。ソフィは去冬一緒に過ごして以来初めて笑顔の時間が怒っている時間より長い。色々無理を言ってモールスヴィルを出たのは正解だった。しかしそうなってくると今度はレイが心配だ。二組の冒険者パーティーから誘われているが、何故か断っている。両パーティーともに実力はありそうなのに不思議だ。僕の処遇を巡って断っているわけじゃないみたいだし、何が問題なんだ?


「そっちはレイを誘わないの?」


 なので一番親しい料理番のおっさんに聞く。太っているけど、前回の襲撃では大盾を振り回して矢を弾いたり、シールドバッシュで山賊の頭を陥没させて殺したりと大活躍していた。体重が必要と言う彼の言は本当と思って良い。


「知らないのか?」


「領主様絡み」


 カマをかける。何か知っているとしたら商人とこの冒険者パーティーだけだ。レイを誘っている二組は臨時だから危ない橋を渡っていると知る術がない。


「でかい声で言うなよ。領主様には若くて死んだ妹様が居たんだ」


「ふ~ん」


「あれの母親って噂だ」


 顎でレイを指す。名前を言うのは危険と判断したみたいだ。


「まじぃ? 貴族のご落胤とか噂はあったけど」


 ブラノックとクレセクがレイに接する態度を見たら村中では自然とそれが公然の秘密となっていた。その疑惑が下級貴族の子から領主の甥にワープ進化かよ! 知られたらレイが納屋に無理やり連れ込まれる未来しか見えない。同年代が不自然にいないのってこれ絡みか!?


「表向きはな。だがリーダーが言うには、領主様の館に飾られている妹様の肖像画と似ているらしい。俺たちは安全を取って深入りしない」


 料理番が一際大きい肉を丸かじりする。


「ありがとうございます。何があっても僕はレイの友達であり続けるよ」


 それだけ言って場を離れる。彼もこれ以上話したくはないみたいだ。


 この情報が本当ならスルーブルグ滞在のスケジュールが変わりそうな気がする。僕と一緒の安部屋にレイが泊まる事を見逃さないはずだ。三人とも面倒を見てもらえれば嬉しいけど、現実的にはレイだけ特別待遇じゃないかな? スルーブルグへ向かう道中だけでどれだけトラブルが発生するんだ!!


 次の日、僕たちはスルーブルグの城門を潜った。

応援よろしくお願いします。

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