024
モールスヴィルは原則的に税を物納している。領主が回収を委託した商人が九月頃に来る。僕たちはその商人のスルーブルグ帰還に便乗する形で村を離れた。徒歩なら数日で辿り着ける距離でも足の遅い荷馬車があるから実質五日の旅になると目されている。天候が崩れたらもう数日掛かると聞いている。スルーブルグとモールスヴィルの間に中継拠点が一つか二つあっても良いはずだけど、モンスターと山賊被害が酷くて維持できなくなった過去がある。モンスターと山賊は人間の多い場所に吸い寄せられる。中継拠点が無ければそれだけモンスターと山賊は寄り付かない。この理論が正しいのかは分からないけど、この考えは王国全土で常識となっている。
「大丈夫?」
「まあ、何とか」
初日は歩きっぱなしで疲れた。二回目のレイは慣れたのか、護衛の冒険者と談笑する余裕がある。ソフィは無理やり荷物の上に乗せた。ソフィは歩くと言っていたけど、あの足では全体の進行を遅らせるとして商人に却下された。口で「道中は安全」と嘯こうとも一刻も早く安全な城塞の中に入りたい気持ちは隠せない。行きは良いけど、帰りは税金が山ほど積まれている荷馬車が数台ある。山賊が狙わないわけがない。
「情けないと煽れないじゃない!」
焚火に火をつけ終えたソフィが帰って来た。魔法で火を付けられるソフィはかなり重宝されている。日が沈めば真っ暗だ。僕達が産まれる前だと月と星空の明かりがもう少し強くて夜でも多少は見えたらしい。でも今は黄昏の影響か、夜になると焚火の光の外は真っ暗で何も見えない。そんな真っ暗な状況で火を付けるのは本当に大変だ。「ファイア」の一言で着火出来るソフィは実に便利な子だ。
「ご苦労さん。前回は真っ暗で俺でもビビったけどソフィが居たら心配ないぜ!」
「ソフィはこれだけでも食べていけそうだね」
一芸があるのは強い。僕は何も無いから頑張らないといけない。
「はいはい。男はすぐにお世辞を言うから嫌いよ」
ソフィは満更でも無い笑顔を浮かべて称賛を回避する。村ではとにかく怖がられている事に比べたら感謝されるこの環境は居心地が良いはずだ。
「あ、ちょっと料理の手伝いをしてくるよ」
「そうか? 俺はちょっと剣を見てもらうつもりだ」
レイが動きそうなのを見て、僕は料理登板の方へ行くと伝える。レイに誘われてボコられる趣味は無い。ブラノックの自警団練習に参加した時に分かったけど、レイが活躍すればするほど僕への圧が強くなる。レイに勝てないから勝てる僕に当たろうって雰囲気だ。村だとその後に生活が続くから度を超す事は無いけど、一期一会の冒険者がそこまで手加減出来るとは思わない。出来るかもしれないけど、それを知れるのはこの短い旅が終わった後だ。
料理登板の太った冒険者に手伝うと告げて、頼まれた野菜を切り出す。少し離れた所でレイが摸擬戦をやっている。そして先輩冒険者の剣を軽く吹き飛ばす。レイはどんどん強くなっている。村ではブラノック以外ではレイに勝てないほどだ。前世に比べて早熟が多いとはいえ、13歳でこの強さは異常だ。やはり加護の影響があると考えるのが普通だ。白では補正が無くとも、黄では補正があると考える方が正しいのか? 黄以上の加護持ちが少なすぎてデータが集まっていないのだろう。その上で未成年となれば、赤よりも希少だ。
この隊商に雇われた冒険者は十二人だ。料理番の話では六人組、四人組、そして二人組に分かれているらしい。料理番が所属している六人組は隊商の護衛特化で分業制が進んでいる。四人組は中堅どころだけど金遣いが荒い。今回の依頼も金欲しさに受けたので最低限の仕事以上はしない。最後の二人組は五人組のパーティーだったのが方針の違いから大喧嘩して分かれたらしい。方針と言っても紅一点の冒険者を男二人で取り合って修羅場っただけみたいだ。その三人から一時距離を取るための遠出だ。そんな精神状態では実力を発揮できるか疑問だ。
冒険者は全員白の加護を授かっている。物理前衛型8人、物理後衛型3人、物理万能型1人だ。加護は隠すどころか積極的に喧伝するから簡単に分かる。隠すとすれば加護の持つ効果の方だ。と言っても命を預ける相手同士にそこまで隠し事をする人間は根本的に信用されない。僕もいずれレイとソフィにカードキューブの事を伝えないといけない。でもカードキューブが本体で僕なんておまけと思われたらどうしよう? その恐怖がどうしても僕の脳裏から離れない。
全員が物理型と言ったように、魔法を使える冒険者は一人もいない。そこまで希少なのか?
「魔法使いって珍しいんですか?」
「珍しいっちゃ珍しいが、あ~、なんというか、外に出ないって感じ?」
料理番が味見と称してまた料理を一掴み口へ入れる。
「城塞都市で守りを固めている?」
「仕事しないでも食えるからなぁ。ほら、あの子は魔法を使えるだろう? スルーブルグなら火付けするだけで暮らせると思うし」
料理番がソフィを指して言う。
「ふ~ん」
少なくとも大規模な破壊魔法をバンバン打ち合う様な世界では無いと言う事か。魔法は選ばれた少数が使えるかなり便利な力止まりみたいだ。でも僕の見た世界はごく小さい。王都、そして他の国では魔法の扱いが違うかもしれない。それでも魔法の話はスルーブルグでは絶対に聞けないからありがたい。ブラノック達は魔法には詳しく無いし、教会は口が堅い。料理番みたいなのが意外と面白い話を知っているものだ。
「となると、冒険者は物理が得意な人間で固まるんですか?」
「だなぁ。魔法使いは欲しいが、外に出たくない魔法使いは願い下げって感じ。あ、でもヒモにしてくれるなら飛びつくよ!」
「あはは、僕もソフィにそんな事を言ったら危うく燃やされました」
「がはは、そうだろう、そうだろう!!」
料理番がまた一掴み。これだけつまみ食いすれば太る。
「冒険者なんてのは食うためにやるもんだ。で魔法使いがいないとモンスターと戦う際に物理盾と回避盾が必要になる」
突然料理番が語りだす。
「俺は物理盾だから重くないと駄目なんだよ!」
「つまみ食いをそれで正当化しているんですね!」
「がはは、その通り! 趣味と実利が合うとこんな生活だって楽しい感じだ。冒険者になるならこれくらいは目指さないと辛いぞ」
「あ、はい。ありがとうございます」
どうやら励まして貰ったみたいだ。料理番は良く見ている。レイは剣で大人相手に無双できる。ソフィは魔法で大抵のモンスターを倒せる。僕にあるのは人に明かせないピーキーな力だけ。スルーブルグで僕自身の戦い方を見つめ直す時が来たのかもしれない。
応援よろしくお願いします。




