表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/81

022 村の日常と迫る暗雲

「断る!」


 レイと新しく小作農を取りまとめる事になったナイマー村の元村長が揉めている。どちらかが間違っていれば簡単だったけど、そう単純な話じゃない。事は今のモールスヴィルの状況と密接に関係している。


 モールスヴィルはゴブリンの襲撃と冬越えで人口が148人から102人まで減った。ゴブリンに殺されたのは34人。襲撃時のケガが悪化して死んだのが6人。冬に食料が無くて餓死したのが5人。村長が鞭打ちの刑に処した結果死んだのが1人。最後の7人は全員反村長派に分類される。ゴブリンの襲撃で村で発言権のある土地持ち農家の家長は28家から13家に減った。村長が農地継承を認めた4家、そして村長が強権で強奪した農地を親族に与えて作った6家の追加で25家まで回復した。襲撃後の時点で16家が村長派だ。刑死した家長の農地を村長が強奪して村長派は17家になった。この時点で過半数を優に超えた村長は村内で独裁政治を始められた。


 しかし領主は口頭で黙認を約束するも、行動で反対を示した。領主は半壊した他の村の人間を送り込むと同時に教会、粉ひき、酒場、鍛冶師、屯田冒険者などの村運営の要人を全部領主の息のかかった人間で固めた。その結果、モールスヴィルの人口は258人にまで膨れ上がった。120人ほどは小作農か農奴なので村の政治への口出しは厳しい。それでも数は脅威だ。それに小作農の中にはナイマー村の元村長みたいな実力者が平気で紛れている。それでも政治参加出来る家長が6家増えた結果総数が31家になり、教会派の家長が15家になってしまった。


 教会派は表向き村長を立てているが、今年の収穫が悪ければ一気に村長を吊るす腹積もりだ。村長もそれを分かっていて必死な懐柔策を展開している。肉の大盤振る舞いもその一環だ。しかしゴブリン襲撃後の強権発動に不信感を抱いている村人は多い。皮肉にも味方のはずの村長派が連座を恐れてもっとも村長に厳しい。村長は自分の命を担保にハイリスクハイリターンの賭けをやってバーストしたに過ぎないので同情はしない。僕が何かをする事は無いと思うけど、モールスヴィルの今後のためになるのなら「ゴブリンの手による名誉の戦死」くらいは用意しよう。


 そしてレイと元村長はこの流れで領主が大量に建てた小作農小屋に住む住まないで揉めている。最初は双方前向きだった。でも僕とレイが別の小屋になると知ったらレイが反対を表明した。僕もレイが反対なら反対だ。小屋の中で他の村から来た大人と暮らすのは不安だ。よそ者からしたら僕とレイはモールスヴィルの人間で将来的に土地持ち農家になれる可能性が最も高い。僕たちが死んだらその枠が空く。幾ら「将来は冒険者」と言ってもモールスヴィルの若手の現状を見たら誰も信用しない。


 未成年で最年長なのは13歳の僕、レイ、そしてソフィだ。村長家の人間を除外すれば、次の年長者は10歳のティムだ。他は5~6歳だ。僕たちの上の世代ではブラノックの嫁の一人が自称19歳で一番歳が近い。僕達3人は完全な谷間世代で、モールスヴィルとしては村に残ってほしいはずだ。僕たちに敵意を向けている村長が唯一の例外だ。


「そこを何とか!」


「この家畜小屋で暮らすから不要だ!」


 レイと元村長の話し合いが長くなり過ぎて欠伸がでそうになる。どうしてもしつこいのなら村を出ていくだけだ。流石のレイも同意してくれるはずだ。


「世話の焼ける! いつまでやっているのよ!」


 カッカッカッと杖で大地を必要以上に叩きながらソフィが家畜小屋へ来る。


「どうかしたの?」


「私もアイクとレイの小作農小屋に住むから!」


「「「はぁ??」」」


「その男のせいよ!」


 ソフィが元村長をやり玉に挙げる。


「いえ、そんな事は……」


「お母さんが再婚するって」


「それはおめでとう! 相手は?」


「そこの甥よ」


 何やっているの、元村長!?


「お、おう」


 それは怒る。ソフィならめっちゃ怒る。僕とソフィが狩りをしている間に口説き落とされたらしい。クレセクの強い後押しがあったのは間違いない。


「家族が二人・・増えて私の居場所があると思う?」


 殺気が容赦なく漏れている。まじやばい。


「落ち着けソフィ。それなら3人一緒に暮らそう!」


 こういう時にリーダーシップを取るのはレイだ。


「3人で村を出て冒険者をやるんだ。予行演習と思えば良いか」


 僕もすかさず同意する。


「う~ん」


 元村長は腕を組んで唸る。


「教会が結婚祝いに羊をくれるって。追い出す事に余念が無いのよね。何故かしら?」


 ソフィが邪悪そうな笑みを浮かべる。これには流石の元村長でも震えあがる。


「あ~、3人で小作農小屋を一つ使う方向で話を進めます」


「俺たちの我が儘を聞いてくれてありがとう。その分、畑仕事では頑張る。なぁアイク?」


「レイには負けない!」


「言ったな!」


「「ハハハ!」」


「バカしかいないの?」


 かくして僕達三人の共同生活が始まった。始まったけど農繫期になったので日々の生活に追われて目立った変化は無い。僕が朝早く起きて朝食を作る。レイは朝から剣を振っている。朝食を食べてソフィを起こして、夕方まで農作業。夕飯を作って寝る前に片づけを済まして週一くらいで洗濯をする。ソフィが魔法で乾かしてくれるので楽だ。


 農作業以外の行動は余り出来ない。カード召喚なんて以ての外だ。以前召喚していたゴブリン達は装備を回収して全部ソフィに焼いて貰った。唯一残したダイアクロウには十日に一回の割合で肉を小作農小屋の前に落とす様に命令を出しておいた。おかげで農作業をしないソフィへの風当たりが強くならないで済んでいる。


 僕とレイはブラノックが隊長をやっている自警団に参加した。ブラノックがレイの剣術を鍛えるためにやっているのは誰にでも分かる。僕も練習はしているけど「脈無し」と判定された。農作業をやめて一日中剣を振っていれば成人する頃にはギリギリ兵士になれる程度らしい。村とてしは小作農が一人でも抜けるのは避けたいのでこの道は始まる前から終わってしまった。


 他には司祭が読み書きを週一で教えてくれる。参加は自由だけど参加しているのは四人だけだ。レイが自発的に参加したのには驚いた。ソフィは僕が嫌々引き摺って行った。僕が「魔法の火力が上がる」と伝えたらやっと乗り気になってくれた。司祭に後で確認したら、そんな事実はないそうだ。数学は出来ないのかと聞いたら、クレセクが担当する様になった。レイは余り興味が無いのかクレセクを意図的に回避しているのか、余り参加しない。逆にソフィの方は幾何学模様に惹かれたのか積極的に参加している。


 最後の四人目はブラノックの若い方の嫁だ。「ブランク開けで前みたいに動けるか分からない」と言う理由で授業に参加している。彼女の何気ない一言でブラノック達がこの村で骨を埋める気が無いのを知ってしまった。彼らは仕事で滞在しているに過ぎない。やはり村長がらみだろうか? 彼らが数年で出ていくのならモールスヴィルの未来は思ったより暗いのかもしれない。僕たちに関係が無いと言えば無いけど、僕は誰かに不幸になってほしいわけじゃない。モールスヴィルが平均的な農村としてこのまま続くのが最良だ。


 そんな日々の繰り返しを経て、ついに収穫となった。

応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ