019
「ねえアイクのもこれくらい大きいの?」
ソフィがゴブリンのゴブリンを杖で突きながら聞いてくる。
「うぅ……そんなに大きい人間はいないよ!」
負けた気がする。
「ふ~ん、このサイズだと入らないし?」
ゴブリンの生態を考えると……。止めておこう。僕がソフィをそんな目には合わせない。
「制御下でも攻撃と捉えたら自動で反撃するから気を付けて」
「分かった。アイクだと殴られたら一発っぽいもの」
ソフィがゴブリンを見せてとせがむから見せたらとんでもない会話に付き合わされた。
「大体こんな感じかな。ソフィ、入ってみて」
僕はソフィが遊んでいる間に小さなテントを召喚して設置を終えた。召喚の場面を見せたく無かったのでゴブリン遊びは良い感じにソフィの注意を逸らしてくれた。狩人の小屋はソフィが滞在出来ないほどボロボロだ。狩りの合間を使って屋根に倒木を乗せたりはしたけど、この一帯から手を退くのならこれ以上は不要だ。なので最低限の風雨を凌げる状態で止まっている。
「新品?」
ソフィが目敏く発見する。今召喚したばかりだから新品なのは当然だ。しかし村で使うものの大半は中古だ。違和感を感じられてしまった。
「殺した山賊が持っていた」
良し、アリバイは完璧だ。
「山賊なんて居たの?」
「先発隊って感じだった。足跡からして本体はクワックヴィル方面じゃないか?」
何気なく言う。
「それって大問題じゃない?」
「そう?」
「攻めて来たらどうするの!」
「あ、ああ!」
その可能性があった。すっかり忘れていた。
「どうしてそんな大事な事を忘れられるのよ!」
「僕が定期的に狩りに来ていたら彼らが近づいてくるか分かるし、来るのなら殲滅するだけさ」
僕に取って、僕の命を脅かす山賊はゴブリンの餌でしかない。
「村まで来たら……村ごと焼けば良いか」
ソフィはしばらく考えて物騒な結論へ至る。
「それに今攻めるより収穫期に来ると思うし」
山賊が人肉を主食にしていない限り、この時期に攻めるのは愚の骨頂だ。彼らも食うために食料は必要だ。春から夏に掛けて攻めたら収穫物を簒奪できる。
「はぐれはむしろ歓迎なのね」
「正解」
僕とソフィは声を出して笑う。山賊はアイテムを持ってきてくれるボーナスキャラだと言う共通認識に至る。
「このテントは助祭の服同様に穴が開いていないし、結構良い獲物だったのかしらね?」
「どうだろうね?」
「アイクも一緒に寝る? 二人なら入るみたい」
「遠慮しておく。敵が来た場合を考えると同じテントは危ない」
「ふ~ん」
ソフィがいまいち読めない顔をする。怒ってはいないと思うけど?
「さてと、僕はさっそく狩りに出る。ソフィはどうする?」
「近場なら付いていきたいけど……」
ソフィは杖をつく音で獲物が逃げるのを知っている。
「ならモンスター狩りに付き合ってよ。あっちは音におびき寄せられるから!」
「アイクにしては良い考えね!」
「ソフィが居たらもっとモンスターを狩れるから僕としてはありがたい」
「それで獲物はどうやって探すの? まさか私を置いて数日歩き回るとか?」
「今回は村長が睨んでいるからね。だからクリーチャーを使う」
「え!」
ソフィは興味津々でテントからはいずり出て僕と密着する。
「見せて!」
「内緒だよ。顕現せよ、ダイアクロウ!」
僕が右手で持ったダイアクロウのカードが粒子化して、眼前にダイアクロウが召喚される。
「カァ!」
巨大な鴉と言った感じのクリーチャーだ。【飛行】持ちのため、近距離が主体な加護持ちには鬼門かもしれない。魔法を使えるソフィに取ってはカモだ。そんなダイアクロウの顔をしっかり見る。ゴブリンよりは賢そうだ。
「アイクよりは賢そう」
「そ、そんな事は無い、はず? とにかく! 付近を偵察して、獲物が来たら帰還せよ、ダイアクロウ」
僕の命令を聞いてダイアクロウが飛び上がる。冬の間色々試したおかげでクリーチャーへの命令はかなりイメージ通りに出せるようになっている。それからはゴブリンしか使っていない時とは比べられないほど効率的に狩りが出来た。ダイアクロウが戻って来た方角へ向かって進めば獲物を発見できた。動物なら「カァ」一回、モンスターなら「カァ」二回、それ以外なら「カァ」三回と決めたら無駄なくソフィを駆り出せた。
「四体か! ちょっと面倒だな」
そんな事を数回繰り返したら油断があったのかもしれない。ソフィに良い恰好を見せたかったのかもしれない。
「魔法で焼けば終わるじゃない!」
「相手には黄のゴブリンメイジがいる! 油断したら一気に崩される!」
「どうするのよ?」
ソフィが僕を睨む。覚悟を決めるか。
「グリモワール、オープン!」
周りの時間が止まる。世界が止まっているのでは無く、僕の思考速度が数十倍になっているのがより正確な状況だ。出し惜しみをしている余裕は無い。本気で行く。
僕はまずソフィを見る。黄のカースドウィッチ200/50。攻撃特化だけどやはり脆い。黄なのは驚きだけど、これでゴブリンメイジへ攻撃が通る。他の敵はただのゴブリン100/100だ。
「ターンスタート! トラップカード落とし穴を設置! ニックはゴブリンAを攻撃、ゴックはゴブリンBを攻撃、サックはゴブリンメイジを攻撃!」
一通り状況を考えて命令を出す。ヨックとダイアクロウは動かさない。ゴブリンCがゴブリンメイジを庇うとサックの攻撃が外れる。そうしたらユフィとゴブリンメイジの打ち合いになって相打ちで終わる。だからその場合はヨックを突っ込ませてゴブリンメイジの魔法攻撃を消費させる。ゴブリンCが庇わずこっちを攻撃してきたら落とし穴で1ターン稼ぐ。トラップカード一枚でゴブリンを一体救えるのなら悪いトレードじゃない。
「私は!」
「右のゴブリンの動き次第! いつでもメイジを攻撃できるようにして!」
右には僕がゴブリンCと呼んでいるゴブリンがいる。
「分かった!」
ニックとゴックがゴブリンとぶつかる! サックはメイジへ真っすぐ走る。【遠距離】のメイジの魔法がサックを即死させる。
「ヨック!」
僕の掛け声を聞いてヨックが動き出す。ゴブリンCは庇わない!? ヨックがメイジに10ダメージを与える。
「ソフィ!」
「ダークフレイム!」
黒い炎が触手の様にうねってメイジの体に巻き付く。「ゲェェェ!!」と断末魔を上げながらメイジが生きたまま焼かれる。ヨックごと焼いている事を非難すべきか迷う。それよりまずは勝つことに集中だ!
ソフィが最大の脅威と認識したゴブリンCがソフィ目掛けて全力で走る。
「くっ!」
グリモワールが開いた状態ではソフィの二発目は間に合わない。
「トラップオープン、落とし穴!」
「ゴ!?」
ゴブリンCは突然足元に空いた穴へ落ちる。ここでターンエンドして次のターンでソフィに止めを刺させよう。
「ビビらせないでよ! フレイムアロー!!」
「え?」
ソフィが放てないはずの二発目の魔法でゴブリンCを殺す。グリモワールの影響化にないのか? そんな事は無い。僕はソフィの能力を把握している。やはり僕のこの力は謎が多い。
「ターンエンド。グリモワール、クローズ」
「で、アイクは何をしていたの? グリモワールとか叫んでいたけど?」
ソフィが問い詰めてくる。残ったゴブリンに魔石回収を命じてソフィと向き合う。
「僕の力を発動させるためのお呪い。まだ完全に把握していなくてね」
「そう! なら私と一緒に解明しましょう! 自分の加護を把握出来ないなんてアイクくらいよ!」
「お手柔らかに頼む」
「どうしようかな? アイク次第で」
「え~!?」
その日はもう二回ゴブリンと戦った。危なげなく勝てたけど、ソフィが目に見えて疲れたのが見えたので早く切り上げた。帰り道は僕がおぶったので、本当に疲れていたのだろう。ソフィをテントに寝かせて僕はカードキューブへ向かおうと考えた。ソフィにカードキューブを見せても良いはずなのに、何故か見せたく無いと思ってしまった。加護を持たない僕は凄いんじゃない。カードを生み出すカードキューブが凄いんだ。そう思われたく無かったのかもしれない。
でもクリーチャーを置いておくにしてもソフィをで残しておくのは心配だ。そこでソフィの安全のためにワイヤートラップを設置しようとしたら不発だった。
「トラップカードはグリモワールオープンしないと発動しない?」
分からなくもない。何もない所で自由に落とし穴を使えたら大惨事だ。設置したトラップカードが発動しないままバトルが終わったらどうなるか検証しないといけない。発動した落とし穴は残ったままだから、未発動の罠も残ると思う。となると猛毒をまき散らす罠とかは使い辛くなった。
僕はゴックを護衛に残して湖近くのカードキューブを目指す。僕の護衛にはニックを連れてきているので野生動物に遭遇しても大丈夫だ。カードキューブに近づくと鈍い緑色の光を出しているのですぐに発見できる。狩人なら確実に発見する。冬が終わる前に何処かに動かさないといけない。しかしモールスヴィルの中へ持ち込んで大丈夫だろうか? 怪しい道具として没収か破壊されそうだ。
「とにかく今は一つでも多くのカードを引こう」
ソフィを利用する形になるので多少心が痛む。ソフィの魔法があれば一日で狩れるゴブリンの数は数倍になる。こっちもサックとヨックが死にまくるのでゴブリンのカードを必死に補充しないといけないので魔石収支はちょっとプラス程度で収まる。赤字にはほぼなり得ないので気が楽だ。
「ゴブリンメイジの魔石からはやはりゴブリンメイジのカードが出たか。原則的にはモンスターの魔石とそのクリーチャーのカードの1:1交換と見て良さそうだ」
かなり重大な発見だ。ゴブリンとダイアクロウの魔石を入れたら、ゴブリンかダイアクロウのカードが一枚出てくると言う事だ。一番最初の魔石がカードになるのかランダムなのかを調べないといけない。生憎とゴブリンにしか遭遇していないので検証は当分先だ。チラッとダイアクロウを見る。
「カァ!」
「いや、わざと殺してカードの排出テストに使おうなんて思っていないって!」
ダイアクロウの非難する様な鳴き声を聞いて反射的に叫ぶ。気まずさを誤魔化すためにカードキューブに白の魔石を九つ入れる。
ゴブリン100/100、インプ100/100、魔法使いのロッド、灰色狼、インプ100/100、熱した石炭、ゴブリン100/100、ベルセルク、血酒入りのコップ。
「何だこの物騒なアソートは? まともそうなのがアニマルの灰色狼とウェポンの魔法使いのロッドだけじゃないか」
インプは魔界の最下層だ。魔界のゴブリンと呼ぶとゴブリンとインプ双方が怒るそうだ。なんで突然二体も出るんだ? 熱した石炭トラップは踏んだら大やけどする石炭の絨毯を足元に出す。僕達に取っては普通に暖を取る方法として使えそう。ベルセルクのマジックは暴走状態になる代わりに白のクリーチャーの攻撃を黄のクリーチャーの攻撃として扱う。ニックがゴブリンメイジを殴り殺せるようになるので効果は強い。ニックが誰を攻撃するのか読めないので博打色が強いカードだ。血酒入りのコップは説明文が無い。一体何に使うんだ? そもそもこの血酒は何で出来ているんだ。不気味過ぎる。
「インプなんて使ったら問答無用で火炙りだな、はは」
乾いた笑いが出る。どうしてこんなカードが出た? 偶然だろうか。何か前回と違いがあるとすれば、それは何だ?
「ソフィなのか?」
カードを引いた時にソフィが近くにいるのが理由なのか? カードキューブのカードは周りの影響を受けると仮説を立てる。それが正解だとすると、墓地ならスケルトンとゴーストが多く輩出されるはずだ。それとソフィは周りの環境に影響を与えるほど強い力を秘めている事になる。黄のカースドウィッチにそれだけのポテンシャルは無いと思う。僕は何か大事な事を見落としているのかもしれない。
応援よろしくお願いします。




