017
ゴブリン100/100、銀貨の小袋、小さなテント、野菜くずのスープ、ゴブリンライダー(未騎乗)100/100、ダイアクロウ50/50、ワイヤートラップ、ヒーリング、白の魔石。全体的に外れかな。しかし面白いカードが色々ある。銀貨の小袋と野菜くずのスープのスープは追加で白の魔石を消費する事で数が増えるタイプみたいだ。白の魔石の値段次第で無限に資産を増やせる錬金術が可能かもしれない。だけどカードゲームのセオリーに従うのなら、この銀貨の小袋は魔石の代わりとなる召喚リソースの可能性がある。もっとカードを引くまで保留かな。
新しいクリーチャー二種の内、ゴブリンライダーは他のカードと合体させる事で進化を発揮する。前回引いたダイアウルフ辺りと相性が良さそうだ。そして個人的には期待が高いダイアクロウ。【飛行】を持っているので偵察要員としては優秀だ。攻撃には一切期待出来ないけど、そこは僕の運用でカバーするしかない。
「こんな所か。一度村に帰るか。サックとヨックは獲物を担げ。ニックとゴックはここを守れ!」
「「ゴ!」」
何も変わらないモールスヴィルへ近付くと喧騒が聞こえてきた。
「まさか襲撃!?」
僕は最悪の事態を想定して隠れながら戻る。不自然な煙は上がっていない。血の匂いはしない。しかしお祭りを開催するなんて聞いていない。
「芋虫の真似?」
必死にスニーキングをしていたらソフィの容赦ない一言が上から浴びせられる。
「ソフィ、無事だったんだね」
膝立ちになってソフィの無事を喜ぶ。
「無事?」
「安心したよ。ほら、村が騒がしいから何かあったのかと」
僕は引き連れていたゴブリンにカードキューブまで帰る様に命じる。バレたら言い訳する方法は考えているけど、バレない方が良いのは確かだ。それにここから家までなら猪をギリギリ運べる。
「別に心配しなくても。こんな姿なんだし」
「それでも僕は心配するよ」
「バカ。村に大量の移住決定者が来たの」
顔が赤くなったソフィが状況を教えてくれた。移民では無く、移住希望者でも無いソフィの言い回しが気になった。彼女の口から出た言葉は決して歓迎の言葉ではない。
「決定って誰の?」
「領主様よ」
本当かな? ソフィはそれを疑っていないみたいだけど、僕はこの唐突な出来事に思考が追い付かない。
「ふ~ん」
「ちょっとは危機感を持ちなさいよ! あっちの方の数が多いんだから!!」
「でも小作農とか農奴でしょ? 多いのは普通だよ」
襲撃前のモールスヴィルはは土地持ち農家1に小作農3くらいの割合だった。小作農と農奴は教会に逃げたために大幅に数を減らしてしまった。村長が領主と話して補充を得ても不思議ではない。ただし、僕は村長が反村長派を始末するために精力的に動いていたと考えていた。人員が増えるのは村長のためにならない。
「元村長とかもいたけど」
「それは確かに変だ」
領主が力業で村長の大それた野望を潰しに来たか? 税収がしっかり入れば良いはずだからそこまでする理由が見えない。
「春になれば狩人と司祭様まで来るって」
「最悪だ」
僕が肉を狩れるのは森を管理する人間がいないからだ。狩人が赴任したら僕のグレーゾーンな狩猟を見逃してはくれない。おばさんとの関係もまた変わるかもしれない。レイが居なければ今すぐに夜逃げしても良いくらいだ。
「置いていったら許さないから」
ソフィが睨む。
「僕はレイを置いてはいけない」
「はぁ」
ソフィがため息をつく。不思議と白い息では無かった。
「この猪はどうする? 担ぎ込んで大丈夫?」
「兎は持ってあげる」
ソフィは肉の誘惑に勝てず早く運び込めと言う。人が増えたのなら見つかる可能性が増える。もう隠し通せないと判断したんだろう。猪を担ぎあげてソフィの後を追う。猪の後ろ脚が大地を引き摺るほど大きいけど、この距離なら一回休めば持ち運べそうだ。僕と身長がそう変わらないゴブリンは肩にかけて軽々しく持ち上げるのとは大違いだ。
「帰ったわ!」
ソフィがバンッとドアを開ける。一気に寒い風がおばさんの部屋に入る事を気にしていない。
「ソフィ! 助祭さんが来ているんだから早く扉を閉めなさい!!」
助祭は教会に所属しているけどその身分は決して高くない。司祭になれば皆が「様付け」で呼ぶけど、助祭は「さん付け」されたら幸運だ。モールスヴィルの村長は皆の眼前で前の助祭を「糞野郎」と平気で罵っていたほどだ。こんな農村に回ってくる助祭なんて権力争いで爪弾きにされた中年か老人と相場が決まっている。不可能な復権を企む脂ぎったおっさんで無い事を祈る。
「ふんっ! アイク、早く入りなさい!」
「待って、重いんだけど」
ひいこら言いながら猪を玄関横に置いて扉を閉める。おばさんの最初の怒号は「猪を見せるな」と言う意味だったんじゃないか? ソフィは気付かなかったのか意図的に無視したのか。失敗した。僕とおばさんの関係が変わる事を恐れて、ソフィとおばさんの関係が変わってしまった事を気付けなかった。領主の肝入りで他の村から男が来る。それはすなわちおばさんが独身ではいられない事を意味している。子供を産める未亡人なんて一番最初に外から来た男を婿に取らされる。そうなってくるとソフィの居場所はこの家にない。ティムは幼いけど働ける労働力としての価値を示せるけど、ソフィは完全なごくつぶしだ。おばさんの負い目があるから好きに振舞えたけど、新しい父親が来たらソフィの天下は終わる。
「ああ、お嬢さんのソフィさんと小作農のアイクさんですね」
融和そうな顔をしている二十代中盤の男が座っていた。
「ええ、ソフィよ」
「あ、あ、アイクです!」
「私はクレセク。見ての通りただの助祭です。司祭様が来るまでこの村の神事を代行します」
「あんたたち、助祭さんに迷惑を掛けるんじゃないよ!」
おばさんが何か叫んでいる。僕はそれ所じゃない。若すぎる。所作が奇麗すぎる。そして何より来ている服が高すぎる。前の助祭の服がノーブランドの1万円スーツだとするとクレセクのは有名ブランドの1000万円スーツだ。詐欺師か。そうでなければ貴族の三男辺りで教会の相当上から送り込まれた敏腕助祭だ。こんな村に居てはいけない男だ。
「ただの助祭でしょ? また村長の下舌鋒で泣かされるのがオチよ」
ソフィは見えない左目でガンを飛ばす。こんな感じで近づく大人を威嚇しまくるから村で孤立している。
「はは、それは楽しみです」
二人の会話を聞いて胃が痛い。「ソフィちょっと黙って」と言いたいけど言えない。
「助祭さんって貴族だったりする?」
ええい、こうなったらソフィの失礼に失礼をオーバーレイだ!
「!? どうしてそう思います?」
一瞬だけどクレセクが初めて素顔を見せた。
「え~とね、服に穴が空いていない」
子供っぽく言う。服の品質に言及するのはリスキー過ぎる。
「あははは、遠縁に貴族が居るらしく、そこから本の少し支援を……」
嘘が下手過ぎる。これだとおばさんとソフィだって騙せない。
「助祭様、娘の非礼をお許しください!」
この場合罰せられるのはおばさんの方だから謝り方が真摯だ。
「お気になさらず。助祭になった時から貴族とは縁が切れています」
嘘っぽい。
その後はクレセクとおばさんが2~3言葉を交わし、クレセクが逃げるように家を出た。
「ソフィ! なんてことをしてくれたの!!」
「はぁ? 貴族なんて分かるわけないじゃない!」
いつもの親子喧嘩だ。最初は泣いてばかりのティムなんて気にせず積み木の玩具で遊んでいる。
「おばさん、一つ聞いて良い?」
「何さ! あんたが下手に言及するから!」
わぁい、僕のせいになったよ。
「あの男に僕の名前を伝えた?」
「ん? なんでそんな事をしないといけないのさ?」
だと思った。
「彼は僕とソフィの名前を知っていた。何処で知ったと思う?」
「知るわけないだろう!」
あ、そろそろゲンコツが飛んでくる。
「領主様だよ。あの助祭はレイ絡みでおばさんが小作農をどう扱うか見に来たんじゃないかな?」
「……」
「アイク説明」
固まるおばさんに変わってソフィがドスの効いた声で言う。
「領主様がレイを気に入ったまでは分かる。ここまでする理由は分からない。でもこの村は大きく変わりそうだ」
だから寝室に呼ばれたら逃げろって伝えたのに。帰って来たレイが尻を気に掛ける様ならそっとしておこう。だって僕はレイの親友だから!
「どうすれば良いんだよ!」
キャパを大幅にオーバーしたおばさんの悲痛な叫びが部屋中にあふれる。
「何もしなくて良いんじゃない? 形見の剣は戻って来たから僕は没収の真相はレイに伝えない。レイだっておばさんの悪口を言ったとは思わない。ここまでは良い雇用主としてのイメージが強いから現状維持で悪いことにはならない」
僕かソフィがおばさんを破滅させようと思えば出来るかもしれない。でもそんな事をしてクレセクの警戒リストに載るなんてバカらしい。
「本当だろうね」
「まあね。ああ! 折角の新鮮な猪だ。良い部分を助祭さんにお裾分けしたら?」
おばさんには何か仕事を押し付けた方が安心しそうだ。幸い猪一匹を捌く大仕事がある。
「お裾分け……ふふん、アイクの割りには気が利くじゃない! アイクは水くみ、ソフィは湯を沸かしな!」
「「は~い」」
二人揃ってやる気のない返事をする。僕は狩りから帰ってかなり疲れているんだけど、お休みは貰えそうにない。
「テキパキ動く!」
やる気になったおばさんは容赦なく僕たちを駆り立てる。
応援よろしくお願いします。




