016 14歳、変化する日常は誰の思惑か
新カード取得の方法を時間から魔石に変更しました。
以前の設定を使用している前話は後日アップデートします。
1月になり僕は14歳になった。少なくともモールスヴィルには個別に誕生日を祝う習慣は無い。新年になったらみんな仲良く1歳加算される。ここ最近は7日狩りに出て3日部屋で休む生活を続けている。休むと言っても狩った獲物の毛皮を剥いだり、他の村人にバレない様に肉を焼いたりと忙しくて休む暇なんてない。ソフィが火加減を覚えてくれたおかげで黒焦げの肉塊を削って食える箇所を抉りだす作業から解放された。
最初に持ち込んだ毛皮はソフィが1/3ほど焦がしたため、僕がおばさんから散々お小言を食らう羽目になった。それとは別に血抜きの仕方を教わったのでお小言は無駄では無かった。獲物の捌き方が分かってもそれをゴブリンに伝えるのは一苦労だ。残念ながら僕の体格では猪を持ち上げて湖に沈める事は出来ないので力作業はゴブリン頼りだ。
「えい!」
「ゴ!」
三代目サックに作業を任せて僕は二代目ヨックと摸擬戦をやっている。ちゃんと錆びた剣の代わりに太い木の枝を持たせている。さもないと僕は召喚したクリーチャーに殺されると言う世界一の大馬鹿になってしまう。最初の頃は一撃すら回避出来ずにぶん殴られていたけど、二週間も繰り返せば初撃くらいは躱せる様になった。ただ僕の攻撃ではゴブリンを倒せない。
不思議に思ってヨックを直立不動にして数回パパのショートソードで斬りかかったけど、5ダメージしか与えられない。僕がATK5ならまだマシだ。現実的にはATK50で加護を持っていないからダメージが減っている。レイとソフィは加護を持っているのに僕だけ仲間外れか。ちょっと悲しい。でもそうなるとこの召喚の力はなんだろう? 異世界転生に絡んでいるのは間違いないけど、加護でないとすると何なのか分からない。スルーブルグにあると期待する図書館なら何か情報があるだろうか?
「配られた手札で勝つのは難しんだけど」
誰に向かってでも無く呟く。絶望するには早すぎる。まだ五体満足で自由がある。無駄と思える小作農生活でしっかり準備を出来る余裕があると思えば、日々の辛さを紛らわす事が出来る。今頃レイは領主の館でしっかりやっているはずだ。僕が足を引っ張るわけにはいかない。
「良し、ゴブリン狩りに行こう!」
猪一頭と兎三羽を狩れたのなら今回の狩りは成功だ。今にも雪が降ってきそうな寒い気温なら、天然の冷蔵庫になっている湖に獲物を沈めておけば数日は持つ。余裕がある内にカードキューブでカードを増やしたい。それにカードキューブの性能で検証したいものが多くある。四月になると農作業に駆り出されるので僕が考えているより時間がないはずだ。白の魔石は頑張って溜めて十二個ある。クリーチャーと武具の召喚に魔石が必要とするのなら数はまだまだ足りない。何処かに数百個転がっていないかな?
以前は無傷で殺せるゴブリンは一体だけだった。しかしカードキューブから出た鉄の盾をゴブリンのゴックに装備させたから二体までは行けるようになった。それ以上のゴブリンと遭遇したらサックとヨックをぶつけて数を減らすしかない。その戦い方を続けたら、かなり早い段階で百代目サックが誕生しそうだ。何代目か忘れない様にゴブリンの額に数字を書いた方が良いかもしれない。
「ゴブリンが三体か」
少し奥の方まで進むとモンスターの数が増える。白のゴブリンより強いモンスターと遭遇する確率が上がるので、三体と遭遇する辺りが僕の探索限界だ。二体はニックとゴックで倒せる。いざとなれば僕が三体目を魔法で倒せば良い。ならそろそろ新しい事を試してみよう。
「うおおおお!」
僕は攻撃を命令したニックとゴックのすぐ後ろを走る。目指すは三体目のゴブリンだ!
僕の攻撃が当たる! かすり傷だ。ゴブリンの反撃は僕が練習した通りの軌跡で迫る。
「躱せぇぇぇ!」
震える足に喝を入れてギリギリ躱す。
「ゴ?」
ゴブリンは攻撃が外れたのが信じられないのか、一瞬だけ固まる。その隙をサックとヨックが突く。二体の波状攻撃を受けて敵モンスターは沈む。
「ははは、やった! やったぞ!」
周りは僕の召喚したゴブリンしかいないけど、大声で叫ぶ。「グリモワール、オープン」を使うと双方の攻撃が必中になるけど、使わなければ攻撃を回避できる。レイの話だと前衛冒険者はモンスターの攻撃を躱したり防いだりしながら後衛防衛者が魔法で止めを刺すのがセオリーらしい。加護を持たない身では回避盾として活躍出来なければ二人と一緒に冒険するなんて夢のまた夢だ。決意を新たにすると一抹の悲しさを感じる。何故かは分からないけど、前世では上手く行かなかったんだろう。
この生活リズムを四回繰り返した一月末。白の魔石の総数がやっと50個を越えた。日割りすれば一日一個より少し多い。召喚に必要な魔石を20個とすれば、今回使えるのは30個前後だ。
「まずはどれだけ入るか試そう」
カードキューブは二個以上の魔石を入れたら二枚目からカードが変化する。レアリティは変化しない。今まで一度に投入で来た魔石の数は3個だ。
「1個、2個……」
無限に入ったらどうしようと心配する。30個か31個で一度切り上げるのが良さそうだと思った矢先、10個で受け付けなくなった。僕は意を決してカードを取り出す。
「1枚?」
10枚出てくるはずなのに1枚だけだ。混乱しながらカードを見る。僕の手には黄のゴブリンウォリアーが握られていた。黄の魔石二個で召喚できる【2回攻撃】スキルを持つ100/400のクリーチャーだ。白の加護持ちがATK100だとすると40回攻撃しないと倒せない厄介な耐久型だ。レイの加護の特性が無ければ僕とレイは確実に死んでいた。
召喚出来る様になってちょっと気が緩む。幸い黄の魔石は召喚できるだけの在庫がある。今召喚する気は無い。四月からは小作農生活で狩りに出る事が出来なくなる。ゴブリンウォリアーを僕から遠ざけて数か月放置なんて怖すぎる。もしレイが帰って来ないのならこの強力な力を使う誘惑に負けていた。レイ、早く帰って来てくれ。
「魔石十個でレアリティが一つ上がる。これは僕の今後の戦略を根底から覆す発見だ。黄を二枚増やすか、白を二十枚増やすか」
カードキューブの前であぐらをかいて考える。声に出せば何か変わるかと期待してけど、返ってきたのはゴブリンの「ゴ?」だけだった。相談できる相棒がいないのは辛い。クリーチャーが話せたら相談相手になってくれるだろうか? でも逆に考えると相談に乗ってくれるクリーチャーってのは怖いかも。
「良し、九個だ!」
僕は勢い良く立ち上がり魔石を九個入れる。レアリティが変わる寸前まで入れるとどんなカードが出てくるか気になる。二枚目から本当にランダムなのか、魔石の数でカードの種類が変わったりするのか。最低でも数回は検証し甲斐がある。取り出した九枚を手に取り確認する。全部白だ。ちょっと残念だけど、これは知っていた。
ゴブリン100/100、猪150/100、ファイアアロー、落とし穴、鉄の槍、ハンター、ダイアウルフ100/100、ゴブリンファイター150/100、ドミネイターの九枚だ。ゴブリン達とダイアウルフはクリーチャーで猪はアニマルだ。ファイアアローは魔法だ。鉄の槍は武具だ。落とし穴はトラップだ。そしてハンターはなんとオーバーレイだ! 僕がこれを自分に使えばモンスターにダメージを与えられる!
「使うか? ……落ち着け。これを使ってカード召喚の力を失ったらどうする?」
そわそわしてカードキューブの周りを歩き回る。30分くらい歩いたかもしれない。保留しよう。白のオーバーレイより黄のオーバーレイの方が強い。そう考えるとここでハンターを使うのはちょっとリスクが高すぎる。赤のオーバーレイなんて非現実的だけど黄の魔石が大量に手に入れば……ちょっと欲張っても良いよね? うん、良いはずだ!
「それにこのドミネイターの効果の方が気になる」
カードにユニークと書いてある。僕の考えが正しければ一枚しか保有できない特別なカードだ。効果からしたらマジックに分類されるはずなのにミラクルと言うちょっと想像できないタイプになっている。効果は召喚した白のクリーチャーに憑依出来ると書いてある。う~ん、どう言う効果なんだ。ゴブリンに試……は戻れなければ嫌だ。上手く使えば小作農生活の合間でモンスターを狩れそう。これもゴブリンウォリアー同様に来年の冬までお預けコースか。
「考えるのは後で良いか。まずは残った魔石を使おう」
僕は残りの魔石をカードキューブへ入れてカードを引いた。
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