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011

 まずは召喚だ。


「権限せよ、ゴブリン!」


 二体目のゴブリンが召喚された。当然100/100だ。昨日召喚したゴブリンと見比べる。


「差は無いな」


 ゴブリン同士なら見分けがつくのかもしれないけど、人間だと両方とも同じにしか見えない。村を襲撃したゴブリンとその時に召喚したゴブリンの姿を必死に思い出す。思い出せる範囲では全員見た目が同じだ。


「ジャンプせよ、ゴブリン!」


 僕の方を向いている二体が同時にジャンプした。恐れていた通り両方が命令を実行した。


「良し、もう一回だ。ジャンプせよ、ゴブリン!」


 また二体が同時にジャンプした。今回は頭の中で今日召喚したゴブリンにだけジャンプする様に伝えていたのに通じなかった。


「ジャンプせよ、右のゴブリン!」


 僕の視点から見たら左のゴブリンがジャンプした。僕に背中を見せる様に命じて、同じ命令を出す。今度は僕の視点から見たら右のゴブリンがジャンプした。左のゴブリンだけ僕の方を見るように動かす。そして右のゴブリンにジャンプを命じたら両方ともジャンプした。


 頭が痛い問題だ。ゴブリンは自己と他のゴブリンの位置情報を下に行動する。今は二体だから僕が気を付ければ大丈夫だ。でも四体、五体と数が増えたら絶対に処理できなくなる。


「「ゴ」」


 次は何をするんだ、みたいな感じでゴブリンが喉を鳴らす。流石にジャンプするだけは不満みたいだ。


「良し、君は今日からニックだ!」


 僕は鉄の剣を装備しているゴブリンに名前をつける。全部呼び方がゴブリンだから悪いんだ。名前を付けたら問題解決だ!


「ゴ?」


「あれ? 名付けられない?」


 完璧な計画が失敗に終わり大地に崩れ落ちる。考えろ! 本当に失敗なのか? 何かあるはずだ。もしかしてと思い至り、飛び起きる。


「我はグリモワールを持つ者、アイク! ニックに改名せよ、ゴブリン!」


「ゴゴ!!」


 ゴブリンが一瞬光ったかと思うと、僕の認識でゴブリンはニックになった。思った以上に構文が大事だったのか。


「ニック2に改名せよ、ニック!」


 ニックからニック2に改名する事は失敗した。改名は一度限りの行為なのかもしれない。


「サックに改名せよ、ゴブリン」


 今日召喚したゴブリンは問題なくサックに改名出来た。


 今日できる事はやった。このまま何もせずに次のカードが出るまで待つのは時間の無駄の様な気がする。前世なら何もせずに寝ている気がする。今の僕は前世ほど余裕が無いはずだから動こう。無目的に動いて迷子になったら村へ帰れなくなる。生きるだけなら問題ないけど、レイが帰ってくる前に帰らないといけない。ある程度は安全で意味がありそうなのはこの湖を一周する事だ。


 サック、僕、ニックの順で湖の沿岸を歩き出す。強敵に奇襲された時の対策としてサックをもっとも危険な生贄ポジに置く。一時間ほど景色を堪能しながら歩くと、一日で一周できるのか怪しくなって来た。時計なんて無いから日が落ち出したら帰ろう。カードキューブから狩人の小屋までなら真っ暗でもなんとか帰れると思う。


 ガサッ。


「猪!」


 僕は突然茂みから出てきた猪に驚かされた。猪はこっちを一瞥して逃げた。


「ま、待て!」


 僕の声なんて無視して猪は茂みの奥へ消えた。そこそこ太っていたから狩りたかったのに残念だ。次は「グリモワール、オープン」で絶対に仕留める! それと野生動物はやはりモンスターと遭遇したら全力で逃げるみたいだ。人間とモンスター、そして野生動物が一堂に会する事なんて稀だからこの情報すら誰も把握していないに違いない。


「良し、猪を狩るぞ!」


「「ゴ!」」


 僕のやる気に反応したのか、ゴブリンも前向きだ。なのでこのまま歩く。ここが動物の水飲み場なら必ずまた接敵する。狩り過ぎたら警戒するかもしれないけど、僕一人なら狩れる数が知れている。本格的に狩人の真似事をするのなら誰かに師事しないと駄目だ。


 体感的に三十分ほど歩いていると後ろの茂みの中から音がした。僕だけチラッと振り返ると、先ほどの猪が僕たちを監視する様に睨んでいた。逃げるだけじゃないのか。でも猪は運が悪かった。この距離なら僕の力が及ぶ!


「グリモワール、オープン!」


 猪を無理やりバトルへ引き釣り込む。150/100。【突進】キーワード持ちだ。【先制】と似ている効果だけど、一度使用すると次のターンは動けない。素の性能ならゴブリンより強い。万が一があるからサックに頑張って貰おう。


「サックは猪を攻撃!」


 サックは猪に迫る。そして猪は軽く助走をつけてフルスピードでサックにぶつかる。サックはボロ雑巾の様に吹き飛ばされる。もうちょっと飛距離があったら湖の中へダイブしていた。人間なら即死している攻撃でもサックはほぼ無傷で立ち上がった。


ノーランクからコモンが受けるダメージはATKの1/10か」


 サックは100/85になっていたのでこれでほぼ確定だ。そしてサックは多少ふらつきながら持っている錆びた剣で猪に止めを刺す。


 猪の死体を確認する。野生動物だけに蚤とかが多い。


「湖に沈めるか」


 詳しくは知らないけどたぶん蚤とかはこれで死ぬだろう。僕はサックに猪を背負わせてカードキューブへ戻る。これ以上進むより猪肉の方を優先するのは当然だ。


 そして僕の判断は正しかった。暗くなるとカードキューブの放つ緑色の光が目立つのが分かった。これはもっと上手く隠さないと見つかる。山賊が来ていた服を使えば少しは隠せるかもしれない。これは明日からやる事が山積みだ。その日はゴブリンに命じて近くに成っていた果実を取って食い、カードキューブを背に眠った。


「またゴブリン!? まさかゴブリン専門じゃないよね!」


 新しいカードはまたゴブリンだった。焦っていないけど焦っている。それでも召喚してヨックと名付ける。


「カードキューブと猪を守れ、ヨック」


「ゴ!」


 ヨックに防衛を命じて僕は湖の調査へ戻る。


 昨日は右回りだったので今日は左回りだ。八時間くらい歩いて湖の1/3を回れた気がする。急がなければ三日で一周出来そうだ。生憎と道中でゴブリンと接敵したので退くしかない。ニックだけしかゴブリンと戦って生き残れる戦力がいない中で無理はさせられない。それでもコモンの魔石が一つ手に入ったのは嬉しい。他には鹿と遭遇して「グリモワール、オープン」を使って倒した。サックが昨日に続いて荷運びだ。


 カードキューブへ帰還した時は深夜を回っていた。僕は山賊から奪った最後の干し肉を食べ、ゴブリンたちには鹿を食って良いと伝えた。ゴブリン三体が齧り付いて鹿を解体する様は恐ろしい。余りの恐ろしさに皮を剝ぐことを忘れてしまった。その夜はあえてカードを出さなかった。


「兎のカード? 分類はアニマル?? ゴブリン一体の二倍の召喚コストォォォ!?」


 丸一日経ったと信じてカードを取り出す。残念ながら一枚しか出なかった。叩いたけど結果は変わらず。カードは半日に一回取り出せるけど、取り出さないと一枚以上にはならない。時間でカードのレアリティが変わったりするのだろうか? これは継続して検証する必要がある。


 それより手に入ったこのゴミをどうしよう。カードを見た時は怒りのあまり真っ二つに破り捨てそうになった! でも小作農としてひもじい生活をしているから非常食の重要性が身に染みていた。モールスヴィルではお金を出しても食料を買えない事がある。それなら割高でも兎肉が手に入るこのカードは貴重だ。


 その日は朝から山賊の衣服でカードキューブを隠すのを優先した。ゴブリンたちには果物を集めて貰った。水揚げした猪をそろそろ処理しないといけない気がするし一度村に帰る決意をする。


「道中に鹿を一頭狩れてラッキーだ。これで鹿に猪。おばさんもさぞ肝を抜かすはずだ」


 僕は気分を良くして鼻歌混じりに村へ向かった。


「死ね! 裏切り者!」


 そして僕の良く知っている声が聞こえたと思ったら猪を持って先行していたサックの頭が吹き飛んだ。

応援よろしくお願いします。

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