010
太陽の光が目に入って目が覚める。思ったより長く眠っていた。もう昼前じゃないか。朽ちた小屋の外に出るとゴブリンがうつらうつらの寝ていた。ゴブリンって眠るんだ。ゴブリンが状態異常以外で眠るって聞いたことが無いけど、モンスター学と言う学問があるかも不明な世界だから、こういう情報は広く普及しない。
「おい、起きろ」
「後五分」と言われたらどうしよう。
「ゴ!」
僕の声で起きるゴブリン。昨日に続いて僕に従うみたいだ。何らかの事情で僕と敵対する可能性があるし、カードを持って増やして検証しないといけない。調べないといけない事が山積みなのにそれを調べる時間が無い。ゴブリンを見ると150/140となっている。日を跨いでも装備した武具の効果は継続する。ゴブリンは七時間くらいでLIFEが100弱回復する。半日あれば確実に全回復する。欠損まで回復するのか分からない。一体しかいないゴブリンの腕を斬り落として試す勇気は無い。
「まずはこいつか」
盗賊の頭の死体を見て呟く。僕は気を付けて彼の体を漁る。大銀貨数枚を含む硬貨を得た。それ以外に価値がありそうなのは彼の使っていた斧だけだ。彼が言っていた赤斧に繋がりそうな証拠はない。せめて彼の名前くらい聞いておくべきだった。そしたら赤斧の本拠地へ行くことがあれば、彼の紹介だと言えた。そうするには昨晩彼に抱かれるしかなかった。それは嫌だ。僕だけだったら流されたかもしれないげ、レイに手を出すと言われたらキレるしかない。
「さてと、カードキューブは何処に出すか」
僕は周りを見回す。山賊はここを知っている。そんな場所にカードキューブを出すのは正解か? かと言って目印の無い場所にカードキューブを出して、それが移動出来ないほど重いと面倒だ。小屋からちょっとだけ離れた場所に出そう。それがたぶん一番安全な折衷案だ。となると何処が良いか。
僕は山賊の持っていた干し肉を齧りながら考える。そして喉を潤そうと樽に入っている水を手に取る。
「奇麗だ」
清潔と真逆の山賊がこんな奇麗な水を大事に持ってきたとは思えない。数日は雨が降っていない。近くに水場がある? 狩人の小屋だって水場に近い所に建てたいはずだ。水があるのなら村から逃げ出して籠れる場所に早変わりする。これは水場を探すのを優先しよう。
「水場を見つけろ、ゴブリン」
「ゴ?」
駄目かぁ。上手く行けばラッキーだと思ったけど、やはりクリーチャーは僕が知らない情報を下に行動が出来ない。気を取り直して四つん這いになって小屋の周りを探す。一周する頃には足跡を三つ見つけた。南から来たのは昨晩の僕だ。東の足跡は往復した新鮮な跡がある。北西の足跡は三つ。ここに来たけど帰った形跡はない。
「北西と言えばクワックヴィル? 彼らは本当の事を言っていた?」
村跡が山賊の拠点になっているのは一大事だ。僕では何も出来ないし、下手に村に伝えたら「どうやって知った」と詰問される。そこで僕が山賊と話したと知られれば、村長は推定有罪として僕を殺す。僕とレイが小作農をしている数年はモールスヴィルを襲わない事を祈るしかない。偵察に出した山賊が帰らなければ少しは時間を稼げたはずだ。山賊を返り討ちに出来る何かが居る方角に進むより、もっと抵抗が少ない獲物を狙う。
「東へ行こう」
僕はゴブリンを先頭に立たせ水場を目指す。しばらく歩くと食えそうな果実が木に成っている。
「山賊が持っていたから食えそうだ」
レイなら木登りで取れそうだが、僕の運動神経はそこまでじゃない。石でも投げてみるか。
「えい!」
ミス!
「ゴ!」
「笑うな!」
なんかゴブリンに笑われた気がする!
「良し、そこまで言うのならゴブリン、石を投げて果実を落とせ!」
「ゴ!」
ゴブリンはプロ野球選手の様なフォームで手ごろな石を投げる。しかし石は果実の上を通過するコースだ。
「大した事……ええ!?」
石は突然カーブを描いてそのまま果実を直撃する。あり得ない。
「ゴ」
「分かった、分かった! ゴブリンは良くやった!」
負けた。ゴブリンに負けた。凄いショック。
不貞腐れて歩いていると、偶然兎が目の前に飛び出してきた。
「グリモワール、オープン!」
それは無意識の行動。今度こそ逃がさない!
「ターンスタート、ゴブリンは兎を攻撃!」
何故か兎は逃げずにゴブリンへ攻撃を仕掛ける! しょせんは加護を持たない10/10の野生動物だ。ゴブリンに1ダメージを与える、ゴブリンの振り下ろした鉄の剣で首を跳ね飛ばされる。黒が白へ攻撃したらATKが1/10になるのでほぼ間違いないと思う。それとグリモワールを使うと相手は逃げると言う考えを失う。確実に勝てる相手ならグリモワールを使うだけで勝てる。
でも、もしレイに使ったらどうなるんだろう? 僕がレイを殺すまで発動し続けるのか? ノーゲームの成立条件はあるのか? 僕がギブアップしたらどうなる? 本能的に負けるのは良くない感じがする。人間が居るところでは使い勝手が難しそうだ。ゴブリンを使役してる時点で一般人にバレたら確実に殺されるので今更かもしれない。
「……」
少し待つと自動的にグリモワールの効果が終わって自由に動けるようになる。兎を狩ったは良いけど、どうすれば良いんだ? 村の大人の話と前世の記憶を合わせると「ちぬき」とか言うのが大事みたいだけど僕にはそれが何を意味するか分からない。ゴブリンは分かるだろうか? 無理か。人間を生で食べるゴブリンなら一工夫するより丸呑みする事を選択する。僕だって火を通せば食べられるはずだ!
兎を狩ったところから少し進むと水場が見えた。茂みに隠れて水場を確認する。
「奇麗だ」
モールスヴィルの井戸より確実に奇麗な水が眼前に広がる。水が流れていないから川では無い。湖か池だろう。こんな所に水源があるなんて聞いたことが無い。この水を使えば農業が楽になるのに、目に見える範囲で人工物は無い。謎だけどラッキーなのは間違いない。ちょっと湖の沿岸を歩く。
「ここら辺は倒木で周りから見え辛いから良い場所だと思う」
「ゴ?」
折角の解説なのにゴブリンは理解出来ない。
「権限せよ、カードキューブ!」
僕の前に長方形の物体が出てくる。大人なら一人で運べる大木だ。僕とゴブリンの二人掛かりなら移動は可能だ。まずは第一関門クリアだ。
「どうやって使うんだ?」
幾何学模様の彫られて表面をなぞるも、何も起こらない。
「カードよ、出ろ!」
……。何も動きが無い。
「白の魔石を使う」
……。魔石の消費がトリガーじゃないのは分かった。
それから二時間ほどカードキューブを宥めたり叩いたりしたけど、うんともすんとも言わない。
「ああ! 分からない!」
期待が大きかった分だけ、この失敗に意気消沈する。残っている一枚のカードは戦闘に役に立たない。死ぬまでこのゴブリンを大事に扱わないといけないのかと思うと気が滅入る。
「今日は水を汲んで帰ろう」
「ゴ!」
その夜は小屋の近くで兎を焼いて食べた。塩が無いから余り美味しくないはずだけど、自分で狩った獲物なので気にならなかった。ゴブリンは盗賊の頭を生で食っている。正気に言うとかなり怖い。カードに余裕が出来たとしてもゴブリン百体とかはやらないでおこう。維持費だけで破産しそう。流石に毎日人間を食う必要があるとは思えないけど、何も食わせずに置く事は出来ない。
そんな事よりカードキューブの方が問題だ。カードが増えないと本当にヤバい。レイのヒモになったら彼は僕を養ってくれるだろうか? そんな悲観的な事を考えて眠りについた。
「ああ、気分は最悪だ!」
「ゴ!」
「ゴブリンは元気そうだな。良し、カードキューブへ向かう」
道は覚えたので二人で素早く移動する。
「おいおい! 幾何学模様が緑色に発行している!?」
発行している模様をなぞるとカードが出てきそうなスリットを発見する。
「どうやったら出るんdな?」
パンパンとカードキューブを叩くと、ポチッと音がしてカードが出てきた!
「あ、ここに押せるボタンが!」
カードを輩出したカードキューブの発光が止まり、またただの長方形に戻る。
「時間か? 他に要素があるかもしれないが半日か一日に一枚と仮定しよう」
一日でカードが出るのなら冬は長い。ある程度データが集まるまで検証できる。
「そして待望の初カードは……ゴブリンかよ!」
「ゴ!」
笑い転げそうなゴブリンに軽い殺意を覚えるも、今回は戦力の補充が可能になった安堵の方が強かった。
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