q89「生徒会の内情とは」
急遽、生徒会の補佐に入ることになってしまった僕。
のっぺらぼう校長の頼みとはいえ、生徒会なんて僕には荷が重いや。
「あらあら。虓甲さん、聞きました? あの光明が生徒会長ですって」
「ほう、これはめでたい。高一で生徒会役員とは、我が家の誇りだぞ、光明」
「嘘……でしょ……? あのお兄ちゃんが、生徒会……だと……?」
「あの光明がとか、あの兄がとか、僕にとっても失礼だよ? あと生徒会長でも生徒会役員でもなく、生徒会の補佐だからね?」
とりあえず家族は大盛り上がりでお祝いムードだが、長続きする気がしない。
なにせ、生徒会の補佐というのは名目上で、実際は妖怪のお手伝いなんだから。
「やあ、来たね? 君が校長先生の推薦する補佐役の子?」
「あ、はい。柳谷光明と申します。お役に立てるか分かりませんが、よろしくお願いします。どうぞ、お手柔らかに」
補佐に任命された二日後、早速僕はメンバーに挨拶しようと生徒会室に向かう。
出迎えてくれたのは、僕も投票した生徒会長のサンダー……ではなく参田さん。
「こちらこそよろしく。私は二年で生徒会長の参田金留です」
「私は紹介要らないよね。でも一応、同じく二年の空福禍奈だよ」
参田先輩、フルネームだと某フライドチキンが食べたくなるね。失礼極まりないから絶対に言わないけど。
それはともかく、僕は続けて生徒会役員の皆と挨拶を交わすことに。
「俺は二年の山田時定です。会計です」
「同じく二年、会計の秋元須佐男です」
「俺、二年の根古陽来真。生徒会書記ね。よろしく」
「私は一年生で、書記の綾垣光美です。同じ一年生同士、仲良くしてね」
「えっと、生徒会長が参田先輩。副会長がカナ先輩。会計が山田先輩と秋元先輩で、書記が根古先輩と綾垣さんですね? 会計と書記は二人ずつなんですね」
「……君、なかなかやるね。流石は校長が推薦するだけのことはあるよ」
「今の一回だけで、全員の名前と役職を覚えたの? マジ?」
「スゴッ! 同じ一年なのに完敗だわ……」
「あ、いや! 事前に校長先生から教えてもらって暗記したんです。まさか、そんな超人みたいなことできるはずないじゃないですかァ、ハハハ……」
嘘である。紛れもない超人である。
いやあ、危なかった。上手く誤魔化せたよね?
最近はこの異常な記憶力が当たり前になってしまっていたけど、よく考えたら普通の人にはできないんだよな。常人離れはまだまだ先でいいよ。
「だ、だよねぇ? 柳谷君は普通の子って聞いてたし、ビックリしたよ」
「けど、真面目に覚えて来るあたり、高評価だね。改めてよろしく」
「あ、ありがとうございます。精一杯頑張ります」
「おけ! じゃあ、早速だけど私と根古君で補佐について説明するからさ。三人で空き教室にでも移動しよっか?」
「はい」
そうして僕は、生徒会の皆へ挨拶もそこそこに、副会長のカナ先輩と根古書記と共に空き教室へ移動する。
実は、ここからが本番。本当の挨拶が始まるのだ。
「……ふう。緊張したわー」
「なんでお前が緊張してんだよ、餓鬼」
「あ、えっと……」
「お、わりぃわりぃ。俺は根古、根古陽来真だ。本性は……火車っつーんだわ」
そう言って、根古先輩は燃え盛る木の車輪のような妖怪に変化した。
彼の根古という名前も、カナ先輩と同様に偽名である。彼もまた、僕がサポートすべき妖怪だったのだ。
「つか、私のこと餓鬼って呼ぶなや」
「わりぃ、許してくれよ、餓鬼」
「まあまあ、喧嘩しないで。これからよろしくお願いします、先輩方」
「おう、頼むぜ。改造人間光明号」
「こらっ! 助けてくれる可愛い後輩を揶揄うな! 彼を揶揄っていいのは私だけなんだからね!」
「何を声高々に宣言してるんです? カナ先輩も揶揄わないでください」
「ハハッ! 面白そうな奴が来たな、おい」
つまるところ僕の補佐という立場が何かと言うと、餓鬼の副会長と火車の書記、二人のサポート役である。
妖怪が生徒会に入るのは校長が許可したらしいのだが、先生方や校長がいつでもフォローできるわけではない。そこで僕に白羽の矢が立ったというわけだ。
普通の生徒である遠野さんや委員長ならまだしも、この二人が生徒会の業務中に何かあれば対処の仕方は限られてくる。流石に生徒会ともなれば、抜け出したりサボるわけにいかないし。
それならば、いっそ事情を知る僕のような人間を特別枠で押し込んでしまおうというのが今回の話らしい。まあ、僕なら人知を超えた対処が可能だからね。
ただし、問題もある。
一般生徒でしかない僕が急に生徒会の手伝いを始めたら、それをよく思わない生徒だって出て来るだろう。その点はどうすべきか……?
「柳谷君、やらかしたね。まさか校長先生を怒らせて、罰で生徒会補佐なんて」
「おお、柳谷。聞いたぞ? 校長の大事な壺を壊した罰で一年の間、生徒会に絶対服従だって? ご愁傷様だな」
「コーメイ、やるな。わざと校長先生の壺を壊して生徒会の美女とお近付きになろうとしたんだって? 念願叶ってよかったな。応援してるぞ」
「ふぇ、光明君が校長先生とお近付きになるためにわざと壺を割ったけど、校長先生にはフラれて、しかも生徒会に奴隷として売られたって本当なの?」
「噂話の尾ひれが極悪っ!」
どうやら、無事に問題は解決したらしい。皆からは不快や不信など微塵も無く、僕にはただただ同情だけが降り注ぐことになる。
だがしかし、この噂は解せん。特に識那さんの知ってる話は捏造が過ぎる。後で遠野さんとオハナシしてみようかしら。
ともかく、僕はこうして生徒会役員補佐の日々をスタートさせたわけだが。
今後の人生に波乱のない日々は皆無なのかと、少しウンザリするのであった。




