q86「文化祭終了とは」
暫しのティータイムを終え、僕たちは再び委員長と合流する。
ろくろ首は既に何処かへ行ったようで、廊下には委員長と琴子たち妖怪組だけが残っていた。委員長、少し待たせちゃったかな。
「ごめんね。それじゃあ行こうか」
「大丈夫よ。もっとゆっくりデートしててもよかったのに」
「ふぇっ⁉ デ、デートだなんて……」
「おい、異議ありだ。コーメイたちはともかく、俺は違うぞ?」
「そうよ、異議あり。三重籠は見紛うことなきデートだけど、わたしと灰谷っちは恋バナ同盟だかんね?」
「ふぇぇ……」
「仲いいなァ、みんな」
そんなじゃれ合いをしつつ、僕らは引き続き文化祭を回った。
各種の出し物を楽しみ、たまにクラスの様子を覗きに行き、時間ごとの体育館ライブや演劇などの演目にも足を伸ばし、目一杯文化祭を満喫する。
やがて一日目が終わり、僕らは余韻を残したまま帰路に就いた。
準備から波乱万丈だったビッグイベントも、終わればあっという間に感じる。
そして続く二日目は、残った物を捌きつつ、午後には一般客向けの出し物が終了となって簡単な後片付けが行われた。
二日目のメインはその後で行われる後夜祭。夕方からグラウンドで開催される、ダンスパーティ風の自由時間である。
「ねえねえ、ここで告白したカップルは永遠に結ばれるらしいよ」
「ダンスで手を繋いだ二人は、運命の絆で結ばれるんだって」
「私とお姉様は既に愛の絆で結ばれてるの。だからここでダンスして、さらに告白したら盤石に結ばれるはずだわ」
「後夜祭の間に体育館裏に魔法陣を描くと、恋のクピド様が現れて結ばれるの」
こういうイベントにありがちな、恋愛に関する言い伝えや伝説。それはどうやら我が校にも存在してるらしく、一部の生徒が大盛り上がりである。
というか、ちょっと結ばれ過ぎな気がするけど。
あと、最後のだけニュアンスが違ってないかな。悪魔召喚みたいに聞こえるし、それって何と、どういうふうに結ばれるの? 大丈夫なやつなの?
「あのさ、柳谷君?」
「え? どうしたの、委員長」
「識那さんと二人きりじゃなくていいの? わたしは皆と一緒に遊べて嬉しいけど、こういう時がチャンスなんじゃない?」
「何のチャンス? よく分からないけど、折角だし最後まで皆で遊べる方がいいんじゃないかな。識那さんも楽しそうだしさ」
「あ、うん。今は普通に楽しそうね。後が怖いけど……」
「もう、みんな識那さんのことを誤解してない? 何も怖いことなんて無いよ? というか彼女の方が色々と怖がりで弱気だし、皆で守ってあげないとだよ」
「そうなのかな? 確かに弱気とか怖がりではあるけど、たまに大妖と同じくらい怖い感じがするのよね。ほら、例えば……今とか?」
そう言われて視線を向けると、識那さんは満面の笑みでこちらを見ていた。
たまに、ああやって凄い笑顔になるけど、機嫌がいいのかな? なんか委員長が震えてるけど、それはどうしてなの?
「ちょっと長々と話し過ぎたみたいね。わたし、退散するわ」
「え? 意味が分からないんだけど。退散って何処行くの?」
「他の友達とも少し遊んで来るわ。出し物もちょっとは回ったけど、ほとんど貴方たちとばかりだったからね。柳谷君も識那さんたちと楽しんで」
「そっか、行ってらっしゃい。また後でね」
委員長が立ち去って、僕はポツンと取り残される。
彼女はああ言ってたけど、当の識那さんは遠野さんやクラスの女子と一緒だし、灰谷君も部活のメンバーのところだ。委員長が居てくれた方がよかったな。
そう思っていると、僕の周りに琴子たち妖怪組がワラワラと集まって来る。
「どうしたにゃ? 珍しくぼっちにゃ」
「遂に見捨てられたんじゃな。可哀想なやつじゃ」
「決めつけが酷いの。鈴子、ドSなの」
「最近はずっと誰かと一緒だったポン。本当に珍しいポン」
「そういえばそうだね。まあ、皆が来てくれたから、結局ぼっちじゃないけど」
「ギャハハハハ! 相変わらず賑やかだなぃ!」
「ビックリしたニャ。ぬらりひょん様、いつも急過ぎますニャ」
「一番賑やかなのは、ぬーさんだと思うけど」
「ギャハハハハ! ちげぇねぇなぃ! そういえば、ほれ。あいつらもまたミケと話したがってるなぃ」
「え?」
ぬーさんの指差す方に目を向けると、そこには大百足様を含む大勢の妖怪たちが集まっていた。のっぺらぼう校長に一つ目、鳴き女、オバリヨン、一反木綿、百々目鬼、ろくろ首と、昨日会ったメンバーが勢揃いである。
その近くには楠木先生など教師陣がいて、後夜祭を楽しむ生徒たちを見守っている。あまりの楽しさに、こんな時間がずっと続けばいいなと思ってしまうが、もうすぐ文化祭も終わりなんだよなァ。
「まあ、来年もまたあるから、別にいいか」
「ギャハハハハ! 来年もまた賑やかになりそうだなぃ!」
「まったくだにゃ。また来年も皆で来るにゃ」
「来年と言わず、わたしはお姉ちゃんとずっと一緒だニャ」
「姉妹愛、てぇてぇポン。だけど甘やかすのはほどほどにポン」
「ほんに、やかましい奴らなのじゃ。まあ、悪くはないがの」
「鈴子、天邪鬼なの。ツンデレなの。可愛いロリババアなの」
「はぁ。僕の日常はすっかり異常だよ。来年もこうなんだろうなァ……」
そうして傍から見ればひとりぼっちの僕は、賑やかな仲間に囲まれて全く寂しさを感じることなく後夜祭を過ごしたのだった。




