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q85「文化祭の遊び方とは」



「次、あの謎解き教室ってのに行ってみようぜぇ」


「そっちの小豆パフェって美味しそうね。一つ買ってもいいかしら?」


「ふぇ、二人とも速いぃ……」



 部活の出し物がひと段落した灰谷君と合流し、僕は引き続き委員長、遠野さん、識那さん、それに妖怪組の皆と一緒に文化祭を回って行く。

 窓の外に見える大百足が識那さんの目に入らないよう立ち振舞うのは、少し大変だけど。見ちゃったら確実に気を失うだろうからなァ、識那さんの場合。


「コーメイ、やるな。いつの間にか三本腕に華とは。俺、お邪魔じゃないか?」


「男女のパワーバランス的にちょうどいいから居てよ。あと、別に両手に華ですらないからね? 勝手に僕の腕を増やさないでくれる?」


 僕の場合、その気になれば本当に三本目の腕くらい生やせそうだから困る。これだから改造人間ってやつは。

 そんなふうに他人事っぽく考えながら皆と歩いていると、進行方向のとある教室から伸びる何かが目に入った。


「うん? 何かな、あれ」


「何がだ?」


「いや、何か長い物が……」


「どこだ? 何も見えんぞ?」


 灰谷君にそう言われた瞬間、それは僕にしか見えていないと気付く。

 逆に、この場で見えないのは灰谷君だけとも言える。咄嗟に皆に視線を送ると、僕と同じように察したよとアイコンタクトで知らせてくれた。


(ナイス、柳谷君。先に言ってくれなかったら、普通に指差しちゃってたかも)


(たまたまだけどね。識那さんもいるから、大事にならず何よりだよ、委員長)


「えっと……光明君? あれって……」


「あ、うん。僕らだけみたいだね。識那さん、後でこっそり話そうか」


「あん? どうしたんだ? 長い物って何だよ?」


「あー……灰谷君、ごめん。僕の見間違えだったみたい。マラソン大会の疲れでも残ってたのかな、ハハハ……」


「おいおい、大丈夫か? ヤバそうなら保健室に行くか?」


「いや、大丈夫だよ。ありがとう」


 委員長と念話で通じ、識那さんとは小声で話し、灰谷君には上手く誤魔化す。そうして状況を捌いていると、目の前にあった長い何かがゆっくりと動き始めた。


「……おや? おやや? お前は確か……」


 その長く伸びた先端の「顔」が、僕の方を見て声をあげた。


 これは非常にマズい。何故なら()()とは前に校長室で会っているからだ。

 このまま名前でも呼ばれれば、識那さんに色々と疑われかねない。


「おーっと! これはこれは、()()()()ではないか! 先日ぶりじゃのう!」

「ポン! 遊びに来てたポン? 楽しんでるかポン?」


 すると次の瞬間、状況をいち早く察した鈴子(りんこ)とポンちゃんが間に入る。

 ファインプレーだ、二人とも。おかげで彼女の意識が僕から二人の方に逸れた。


「おお、お前たち。先日ぶりであるな」


(ろくろ首さん! 念話でごめん! ちょっとややこしい状況だから、僕のことは知らないふりをしてください!)


(なに? おやや、これは奇想天外。であるが、了解した。話を合わせよう)


(ありがとうございます。ちなみに僕の隣にいる女性は妖怪が見えるから。それに気付かないふりをしつつ、余計なことは言わないようお願いします)


(おやや、なんとややこしい状況であるか。あい分かった、任せられよ)


 どうにか裏工作が間に合い、僕はホッと胸を撫で下ろした。

 何を隠そう、目の前にいる()()()()女性は、大妖怪の「ろくろ首」である。先日校長室でのっぺらぼうから紹介されていたから面識があったのだ。


「……猫又姉妹に、座敷童子、豆狸か。おやや、お前たちも居たのであるか」


「おうにゃ! ミケも……」

「こ、こんにちは、ですニャ! ろくろ首様!」


 こちらもファインプレーである。最大の懸念である琴子の口は、妹の琴音が無事に塞いでくれた。これでひと安心だ。


「ヒュッ⁉」


「あ、あれ? 識那さん大丈夫? 顔色が悪いよ? そっちの教室で喫茶店風の出し物をやってるみたいだから、中で少し休もうかァ」


「わ、わあ? それは大変ネー。私たちも入りましょう、灰谷くーん」


「なんだ? 二人とも急にたどたどしくなってないか?」


 僕らの目前にやって来たろくろ首の頭。それに恐怖した識那さんが卒倒しそうだったので、僕は咄嗟に彼女の肩を抱いて近くの教室へ引っ張っていく。

 同時に、遠野さんが機転を利かせて灰谷君をその場から連れ出すことに成功した。今日は皆、本当にファインプレーばかりだ。


(ごめんね、ろくろ首さん。また今度)


(そうであるな。また落ち着いて話せる時にでもゆっくりと。それより、わっちのことは親しみを込めて「ろーたん」と呼んでと前に……)


(じゃあね、ろくろ首さん! その話もまた今度!)


(つれないのう……)


 そうして僕は無事に、このややこし過ぎる状況から脱することに成功する。

 チラッと横目で見ると、残された委員長たちがろくろ首に挨拶するのが見えた。


「慌ただしくてすみません、ろくろ首様」


「なんにゃ? 皆、どうしたにゃ?」

「お姉ちゃんは黙っててニャ」

「馬鹿猫。ヒヤヒヤしたのじゃ」

「危なかったポン。素晴らしい連携だったポン」


「おやや、悪いことをしてしまったであるな。それでは皆の衆、またいずれ」


「はい。察していただき、本当にありがとうございました。またいずれ」


 ふう、何とかなったみたいだ。状況終了。

 さて、今度はこっちのフォローもしておかないと。


「ビックリしたね、識那さん。あの長い首の……ろくろ首? どうやら琴子たちの知り合いだったみたいだね」


「う、うん。急に近付いて来たから驚いちゃった。血の気が引いたよぉ」


「いらっしゃいませ! ご注文は何に致しますか?」


「あ、えっと……それじゃあアイスミルクティーとフライドポテトを」

「わ、わたしもミルクティー、冷たいので」


「かしこまりました。では、現在二人掛けテーブルが二つ空いておりますので。そちらへ座ってお待ちください」


 店員役の生徒に案内され、僕は識那さんと、遠野さんは灰谷君とそれぞれ別々のテーブルに着いた。


「ふう、やっと落ち着けた」


「あ、でも委員長が……」


「大丈夫だと思うよ。チラッと見たけど、ちょうど知り合いか誰かに話しかけられてたから。僕らが店を出た頃にでも合流できるんじゃないかな?」


「そうなの? ならいいんだけど……」


「一応、メッセージを送っておこうか。この教室はちょうど僕らで満席になっちゃったみたいだし、どちらにせよ待ってもらうしかないみたいだね」


 そう言って、僕はスマホで委員長にメッセージを送った。

 するとすぐに返信が来たため、その画面を識那さんに見せる。


「ほら、こっちのことは気にしないで、あとで合流しようってさ」


「そっか、ならよかったよ」


 委員長にはまた借りができちゃったな。琴子たちを任せた分もね。

 そう思いながら、僕は漸く訪れた識那さんと二人の状況に安堵する。


「それにしても、こういうイベント事だと結構いるものだね、妖怪たち」


「う、うん。チラホラと姿が見えてたね。他の皆には見えていないから、気を付けないと。さっきのろくろ首も、思わず指差しそうになっちゃった」


「ああやって灰谷君に言われなきゃ、普通にあそこのクラスの飾り付けか何かだと思ってたね。危ない危ない」


 そんな話をして、僕は識那さんと笑い合う。

 久々な気がするよ、こういう妖怪が見える同士の特殊な会話って。


「……なあ、遠野さん? あの二人、本当にいい雰囲気だよな。実は付き合ってたりしないのか?」


「それが違うんだよねぇ。完全に両想いな感じなのに、ただのお友達なのよぉ」


「マジか。流石だぜ、コーメイ。ところで遠野さんはどうなんだ? コーメイ、狙ってたりしないのか?」


「な、ななな、なに言ってんの⁉ へ、変なこと聞かないでよ! 灰谷っちこそ、ライカっちとはどうなんよ⁉」


「ラ、ラララ、ライカさん⁉ そ、それは全然全く何も無い……どころか、会えてすらいないが。俺の話は今、どうでもいいだろ? それでどうなんだ?」


「あ、いや、わたしは別に。それよりライカっちの話を……」


「いやいや、たまには遠野さんの話を……」


「いやいや……」


「いやいやいや……」


 あの二人、仲いいなァ。改造人間の僕の聴覚だと普通に聞こえてるんだよね、今の会話。僕の話はともかく、ライカさんとの話は興味津々なんだが。

 そんなふうに二人を眺めていると、不意に識那さんが満面の笑みでいることに気付く。この顔、前にも見た気がするな。


「どうしたの、識那さん?」


「ううん、別に。ただ、ちょっといのりちゃんから不穏な気配がね?」


「え、そんなの分かるの? 女の勘ってやつ?」


「そうかもね。今、どんな顔をしてるのかな? かな?」


 識那さん、ちょっと怖い。

 けど、今の会話でそんな気配なんてあったかな? 遠野さんが僕の命を狙ってるとかいうジョークは聞こえた気がするけどさ。


(パパ、考えてることが丸分かりなの。相変わらず鈍鈍(ニブニブ)チンチンなの)


(くっ、今回は言わせてしまったか。光理、鈍チンはいいけど二回続けるのは止めなさいといつも言ってるでしょ?)


 だいぶカオスな状況が進行しているな。そう思いつつ、僕はその後も識那さんと臨時の妖怪談義をしてひと息吐く。


 そして遠野さんと灰谷君も珍しく盛り上がっているようで、委員長を心配しながらも、僕らは少しだけそんなティータイムを楽しむのだった。



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