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q80「文化祭の出し物とは」



 席替えの翌日から、ホームルームや一部の授業では文化祭の話し合いが始まった。出し物を何にするか決めたり、係を決めたりするのだ。

 僕のクラスでも当然のように行われ、皆のテンションが文化祭に向けて上がっていく。いいよね、こういう一体感みたいなの。



「はーい、アイドルの研究・展示がいいと思いまーす」


「却下です。真面目に考えてくださいね、笠井君」


「えー? 真面目なんだけどなあ……」


「他の案はありますか? まずは片っ端から出してみてください。最終決定はその後の多数決ですから、今はどんどん積極的にね」


「なら、アイドルコンサートのチケット争奪ゲームとかどうですか? もちろんチケットは先生に買ってもら……」


「他にありますか? 何でもいいですよ。ほら、どんどん言ってください」



 なんだかんだ場を盛り上げてくれた笠井君のおかげで、その後は皆が発言しやすい空気になり。とりあえず最初の提案はかなり順調に進んだ。


 食べ物系では、オーソドックスなカレー、たこ焼き、お好み焼きや、変わり種のわんこそば、パフェ、ドリンク類などが提案された。 

 アクティブなものだと、ミニゲーム部屋、ダンス、演劇、プロジェクターを使った紙芝居や、砂で絵を描くサンドアートを紙芝居風に……なんて奇抜な案も出ていた。それ、前にテレビとか動画で見た気がする。


 それから大掛かりな教室改造系だと、迷路やお化け屋敷、謎解き部屋など。

 もっと大掛かりに学校改造系のバンジージャンプ、逆バンジー、校舎と校舎の間を空中綱渡り……なんて案も出たが、それは流石に悪ふざけが過ぎて却下。


 あと、誰かが妖怪の展示……なんて言い出した時はビックリして委員長と顔を見合わせてしまったが、それはアイドル展示と同じく先生に却下されてしまった。

 こちらは真面目ではあるが、妖怪に興味無い客が楽しめないし、それならお化け屋敷でいいだろうという理由だ。採用されたらどうしようと、少し焦ったよ。


 そうして話し合いを重ねた結果、うちのクラスでは無難なアート展示に落ち着くことになる。別に他のが面倒臭いというわけではなく、誰かが出した「捨てられた物でアート作品を作るのはどうだろう」という案が好評だったからだ。


「じゃあ、段ボールアートとか?」

「ペットボトルアート、プラスチック製品アートもいいよね」

「空き缶もよく耳にするよ」

「変化球でトイレットペーパーの芯とかは?」

「材料が集まるかなあ、それ」

「災害で出た廃棄の家具とかを解体して使うのは?」

「うーん、素晴らしいアイディアですが、解体の労力がかかり過ぎますかね。先生はそういうアイディア、大好きですが……」


 しかし、どれも素晴らしいのだが、その中のどれにするかが決まらない。

 すると、そこで委員長が言ったひと言が僕らの未来を決定付けることに。


「なら、いっそ班分けして複数の作品を展示したら?」


「……それだ!」

「流石だ、委員長!」

「冴えてるな、委員長!」

「愛してるぜ、委員長!」


「ちょっと待って⁉ 誰よ、今どさくさ紛れで告白したやつは⁉」


 紆余曲折あったものの、こうして僕らの展示内容はリサイクルアート対決に落ち着いた。ちなみに愛の告白の犯人は遠野さんである。人騒がせな。

 その後、班分けで再度ひと悶着あったものの、そこからはすんなりと進む。


「よし、うちの班は空き缶でアイドルの等身大立像だぜ」

「却下。それは自宅で一人で頑張れよ」

「動物がいいかな、植物がいいかな? 有名な建築物とか恐竜もメジャーだよね」

「まずは材料を集めないとな。誰に相談したらいいんだ?」


 クラス中が大賑わいになる中、僕は灰谷君や識那さん、遠野さん、委員長を含む十二名でペットボトルアートを担当する班に所属となる。

 知った顔ばかりで安心だけど、遠野さんが真面目にやってくれるか少し心配。


「ペットボトルは学校の廃棄と、商店街にも相談すれば集まるかな?」

「一般家庭からも集めましょ」

「はいはーい! わたしも伝手があっから、任せてー!」

「隣町のショップからも貰えるかもな。一応聞いてみるか」


 ありがたいことに、うちのクラスは大半が文化祭準備に協力的らしく。

 あれよあれよという間に材料を集める算段も整い、僕たちは何を作るか考える段階まで達する。実にスピーディーだ。


「アイドルの立像とか言い出す人はいないわよね、うちの班」

「まさか、何処かの班じゃあるまいし」

「じゃあ、何を作ろうか」

「ありきたりだけど、何かの動物とか? えっと、犬、猫、ハムスター、魚、恐竜、ドラゴン、蛇、馬、羊、猿、鳥……」

「異議あり。ドラゴンは動物じゃないぞ。空想生物だ」

「生物部から異議が出ましたので、ドラゴンで決定ね」

「なんでだよ。あと途中から十二支だったよね?」

「というか、ハムスターって逆に難しくない? 何匹作る気なの?」

「いや、等身大じゃないからね? 普通に巨大ハムスターでいいでしょ」


 ワイワイと盛り上がる中、僕も何か案を出そうと頭を捻る。

 何かないかな、こう身近で、皆が知ってて、お客さんが喜ぶような……?


「あ、河童とかは? なーんちゃって……」


「……おお、それ面白いな。この町にもいるって噂があるし、いいんじゃないか」

「どうせならファンシーなのとリアルなの、二体くらい作ったらどうかな?」

「ついでにペットボトルの蓋で、クラス看板も作りましょうよ」

「二体の河童とクラス看板か。最高じゃね? よし、それで決まりでいいかな?」


「あ、いや、ちょっと待……」


「賛成」

「賛成」

「賛成」

「さんせー」

「賛成です」

「わたしも賛成」

「わ、わたしも賛成で」

「賛成」

「よし、賛成多数で決定だな。異議は無いよな? それじゃあ実行委員に提出して来るぞ。いやあ、柳谷の案は最高だったぜ」


「あ、いや、ちょっと異議あ……」




 ――――だが、時すでに遅し。


 僕は自らの発言を後悔しつつ、そっと遠野さんに視線を向ける。

 すると彼女は、何とも言えない複雑そうな表情で僕を睨んでいた。


「……なんか、ごめんなさい」


「災難ね、祈……遠野さん」


「ふぇ? 何が災難なの?」


「…………ミケちん。こんな辱めは初めてだよ。後で覚えとけよ?」


「にゃははっ! 楽しくなってきたにゃ!」

「ワクワクするニャね、お姉ちゃん」

「ワシも年甲斐もなくワクワクするのじゃ」

「俺もだポン! 俺の像も作るポン!」

(パパ、今の照れてる河童を再現するといいの。永久保存版なの)


(止めて、湖に沈められちゃうから。ほんと、ごめんって)



 そうして迂闊な僕のせいで、自分の立像を作成されることになってしまった遠野さん。こんな辱めを受けさせるつもりなんて、本当に無かったんだよ?

 ともかく、文化祭準備は着々と進み、僕たちの高校は華やかなムードに包まれていくのであった。



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