EXー3「とある豆狸の日常」
閑話です。
読み飛ばしても本編に影響しません。
おっす、俺の名前は豆吉。
しがない豆狸って妖だ。
俺の口癖が「ポン」なせいか、皆からは好きなように呼ばれてる。
ポンちゃん、ポン左衛門、ポン君、ポン吉……惜しい呼び名はあれど、何故に皆、揃いも揃ってポンなんだ?
狸だからポンって安易だし、誰か一人くらい豆に行けよ。豆太とかさ。
まあ、それはともかくだ。本題は別にある。
なんだか俺、とんでもない人間に関わっちまったようだ。
……うん? 語尾のポンはどうしたかって?
あれは外部向けのだから、独り語りじゃ要らんぜよ。面倒だしな。
「ポンちゃん、相変わらず僕の膝の上がお気に入りだね」
「ポン!」
「今日も可愛いねぇ、ポン君は~」
「ポン、ポン」
そうやって、俺はいつものようにミケと識那に愛でられてたわけだが。
その頃のミケは俺の言っていることが分からず、なんとなくフィーリングで意思疎通を図ってたんだ。ちなみに今は「ミケ、今日も俺の座布団役、ありがとな!」と「識那には叶わねえって。お前さんは今日も魅力的だぜ」と言ってた。
ああ、一応言っとくが、俺は皆の言ってることが分かってるからな。
長年豆狸をやってりゃ、人間の言葉の一つや二つ覚えて当然よ。
「ポン左衛門の定位置にゃ」
「俺とミケの仲だポン。こうやって友情を深めてやってるポン」
「ポン助よ、伝わらんからと好き放題言ってると、そのうちバレるのじゃ」
「なーに、バレてマズいことなんて端から言っちゃいねぇポン」
つーかよ、こいつら妖どもは俺の名前が豆吉だって知ってるはずだよな?
なにをシレッとポン寄りで好き勝手呼んでやがる。まあ、俺は心の広い妖だから別にいいんだけどよ。
それにしても、バレるってどういうことなんだ?
まさか、人間が俺の言葉を理解できるようになるとでも?
ははっ、おかしくってヘソでダージリンティーが沸くぜ。
……なんて、その頃の俺はそんな愚かなことを考えていたのだ。
まさか、本当にそうなるだなんて予想だにせず。
俺とミケが一緒に暮らし始めてから、暫く経った頃だろうか。
その日、この地域を統括する大妖怪のうちの一人、のっぺらぼうですら驚愕するような事実が発覚した。
「う、うむ。こりゃたまげたわい」
「驚いたポン……」
なんと、ミケはただの人間ではなかったのだ。
その正体は、まさかの改造人間。
しかも、それをやったのは宇宙人と来やがった。
俺も妖なんて奇怪なもんに生まれ落ちたからには、奇妙奇天烈な話にゃそれなりに耐性があるつもりでいた。
けれども、これには俺だって開いた口が塞がらねぇや。びっくらこいたぜ。
「秘密は守るポン。俺とミケの仲だからポン」
だが俺は冷静に考え、そして筋を通すことを決めた。
正直最初はミケが嘘や冗談を言ってんのかと思ったが、俺には分かる。短い付き合いだが、あいつは嘘や虚言は言わな……まあ、時と場合によるが、仲間を平気で騙せるようなやつじゃないはずだ。
少なくとも、今の話は本当だと魂で分かる。だから突拍子もない話でも俺は信じるぜ、ミケ。まあ、本体だという玉の状態も見たから、嘘も何も無いんだがな。
それにしても改造人間か。長年生き続けて、色んな人間を見ては来たが……宇宙人に改造されたやつは初めてだ。
しかも鳥居の前って言やぁ、俺の根城のすぐ傍じゃねぇか。人間の男児があそこを通ってんのは昔から見ていたが、どうせ見えねぇやつだからとスルーしてたのがアダとなったな。まさか、そんなことがあったとは、夢にも思わなかったぜ。
「ポンちゃん、これからもよろしくね」
「もちろんだポン。そんな秘密程度では、俺たちの友情は壊れないポン」
とにかく、俺は現実を受け入れてミケと共に歩むことを決めた。
こいつが何であれ、俺は縁のあったやつを見放したりしない。こいつが俺を追い出すならそれまでだが、そうじゃないなら俺が守ってやるさ。
いつの間にかマジで俺の言葉も分かってるみたいだし、これからミケがどんな進化を遂げるか俺には予測不能だ。
けど、それでも俺はミケの友として――――いや、相棒として。こいつの支えになってやりてぇと思っちまったんだ。
だから、たとえミケがちょっとアレな感じだろうと。
たとえ、ちびっ子猫又姉妹と懇ろな変態だろうと。
たとえ、幼座敷童子とベッタリな童女趣味だろうと。
たとえ、河童の偽乳に鼻の下を長くする阿呆だろうと。
たとえ、リアル幼女化した件を顔面に装着してニヤつくクズ――――
「ねえ、ポンちゃん? 何か失礼なこと考えてない?」
「そ、そんなことないポン。俺はいつでもミケの味方だポン」
「……ポンさんから腹黒の波動を感じたの。ブルータスお前もか、なの」
――――なにはともあれ、これからもこいつらと楽しくやっていきてぇな。
たとえ、どんな状況になろうとも。
たとえ、何が起ころうとも。
俺の名前は豆吉。しがない豆狸だ。
けど、今は改造人間の相棒から「ポンちゃん」なんて呼ばれてる。
そんな巫山戯た名前も……案外悪くはねぇな。
結構、気に入ってんだぜ? なぁ、相棒!
次話から二学期の話です。
どうぞ、よろしくお願いします。




