q67「花火とは」
「お、そろそろ始まるよ」
花火より一足先に、恋バナが花開いた僕たち。
そんな中で、僕だけが冷静に花火が始まる空気を察していた。
「……はぁ。ライカさん……」
「ねえ、いのりちゃん? そういうことなのかな? かな?」
「ち、違うから。それより花火、始まるみたいで……」
「話を逸らさないで? 今はそんなのより大事なことがあると思うの」
「いや、年に一回きりの花火なんだけど。つか、圧が、圧が酷いから」
だが、皆に僕の声が届いているようには思えない。
灰谷君は空を見上げてはいるものの、明らかに上の空だ。これが恋か。
そして識那さんと遠野さんはさっきから何故か急にイチャイチャし始め、超が付くほどの至近距離でヒソヒソ話に花を咲かせている。仲いいなァ。
「阿保ばっかにゃ」
「ワシも同感じゃ。今日は馬鹿猫とよく気が合うのじゃ」
「カオスだポン。あと、蚊帳の外にも阿保がいるポン」
「ポンさん、辛辣なの。パパは頭いいの。ちょっとアレなだけなの」
すると、疎外感でテンションを下げていた僕を、妖怪組の皆が取り囲む。
きっと皆、気を遣ってくれたのだろう。本当に優しい仲間たちだ。
「みんな、ありがとう。一緒に花火、見よっか」
「ぼっちが可哀想だからにゃ。感謝するといいのにゃ」
「何故おのれは上から目線なんじゃ?」
「ミケ、俺たちは味方だポン。安心するポン」
「ポンさん、手のひら返しが凄いの。それはともかく、パパはぼくが慰めてあげるの。ぼくの胸でおっぱい泣いていいの」
「眼鏡姿のどこで泣けと? あと、いっぱいを全力でおっぱいと言い切るの止めてくれる? 言い間違えなら、途中で訂正する努力をして?」
周囲が祭りの喧騒に包まれているのをいいことに、僕は妖怪組の皆と普通に会話を繰り広げる。それでも灰谷君は自分の世界に入っていて気付かないし、識那さんたちもイチャイチャに夢中で眼中に無い感じだ。
そうして僕たちが独特な過ごし方をしていると、遂に夏祭りの大トリを飾る花火が開始時刻を迎える。
「――――お、始まった」
強烈な閃光が周囲一帯の空を走り抜け、直後にドーンという轟音が耳を劈く。
ワアッと歓声が上がり、続けてパチパチと綺麗な拍手の音が宙に響き渡った。
「おお、綺麗だな」
「あ、灰谷君。おかえり」
「あ? ただいま……って何処からだよ。ずっとここに居たぞ」
「いや、居なかったよ。ずっとアバンチュールを旅してたから」
「意味が分からん。そんなことより花火を見ようぜ。そのために来たんだし」
自分がそもそもの元凶だと自覚が無いのか、灰谷君はケロッと切り替えて花火を楽しみ始める。そのクールさはいつもの彼らしいが、どうにも納得いかない。
「さー! 夏休み最後にして最高の、アゲアゲな思い出を作ろー!」
「あ、遠野さんもおかえり」
「もう、まだ話は終わってないよ? いのりちゃん」
「識那さんもおかえり。一緒に花火、見ようよ」
「ふぇ? あ、うん……そうだね。フフッ」
「おっしゃ! ナイス、ミケちん! ふぅ、助かったぜぇ」
なにはともあれ、漸く全員が現実復帰したようで。
僕たちは人間も妖怪も一緒になって、大空に花開いた芸術作品を鑑賞する。
「わあ、綺麗だねぇ……」
「うん、すごく綺麗……」
「見事だ。ライカさんも見てるかな……」
「すげー迫力だわー。いやぁ、見に来てよかったねぇ」
「たーまやー、にゃ!」
「ふふん、粋じゃのう」
「かーぎやー、ポン!」
「……これまで見た、どんな花火より凄いの。生身の体に振動が伝わってきて、ぼく、どうしてか涙が止まらないの……」
眼鏡姿の光理が涙を流すことはない。
けれど、そんな野暮なツッコミは止めておこう。彼女はきっと、初めて光球ではない状態で体験する夏の風物詩に、魂でもって感動しているのだから。
そうして僕たちは各々で、あるいは隣り合った誰かと一緒に、とても素晴らしい時間を過ごす。夏祭りの最後としてはこれ以上無い、最高のイベントだ。
出店で買った数々の料理は綺麗に無くなって、色とりどりの花火色に染まった透明のプラスチック容器だけが取り残される。
これを見ると、愈々夏祭りも終わるんだなと思ってしまう。毎年のことだけど、今年はより一層、物悲しさを感じる気がする。
それはきっと、僕にとって大切な仲間が沢山できたからだろう。灰谷君や識那さん、妖怪の琴子、鈴子、ポンちゃんに、光理。それに遠野さんも。
クラスの皆や先生たちに、先輩、そして中学生の子たちと再会したせいもあって、余計にそう感じたのだと思う。たぶんね。
「……」
ふと、脳裏に家族とイリエのことが浮かぶ。父さんも母さんも、妹の癸姫も、イリエも、この光景を見上げているのかな。
(……ねぇ、アイミス?)
〖はい、何かご用ですか?〗
(アイミスにも見えてる? アイミスも、楽しめているかな?)
〖……ふふっ。私まで気遣ってくださり、ありがとうございます。しっかりと見えていますよ。あなたと一緒に楽しんでいますから、ご心配なく〗
(そっか、よかった。とっても綺麗だねぇ……)
〖ええ、とっても……〗
僕らは暫くの間、大輪の花が咲き乱れ、散っていく光景を目に焼き付けた。
そして花火の音が収まって、町内放送が夏祭りの終了を告げるまで。
あるいはその後も、余韻が僕らを引き留め続ける限り、ずっと。
僕たちはいつまでも、永遠とも思える時間を、暗く静かになった川沿いで共有し続けたのであった。
777チャレンジ、無事達成しました!
特に報酬はありません(笑)
夏休みの話はもう少し続きます。
これからも、本作をどうぞよろしくお願いします。




