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q62「御神輿とは」



 夏祭り三日目。早いもので、このお祭りも折り返し地点を過ぎてしまった。



 楽しい時間は永遠には続かないのだ。

 この球体、夏休みの序盤に戻る機能とか無いだろうか。


〖ありません。あったとしても現在のミケには使用させま……使用不可です〗


(今さ、使わせねーぞ……みたいなことを言いかけなかった?)


〖気のせいです。本日も楽しんで来てください〗


 たまに人間臭さを感じるんだよね、このナビゲーションシステムは。

 それはともかく、八月十九日の朝だ。今夜は御神輿が町を練り歩く日である。


(ミケ、今夜は識那と二人きりにゃ? それともウチらがいいかにゃ?)


(……大体言いたいことは察するけど、光理がどんどん真似するから止めてくれない? もう手遅れな気もするけどさ)


(パパ、今夜もぼくを使っていいの。繰り返し上に下に激しくされても、頑張って付いて行くの。パパに無理矢理に押さえつけられても受け入れるの)


(眼鏡として装着していいって意味だね? それで歩く度に揺れるけど我慢してくれるって意味だよね? 落ちないように押さえても大丈夫って言いたいんだね?)


(ミケよ、いちいちツッコミ入れんでも分かってるのじゃ。苦労人じゃな)

(光理はとっくに手遅れだと思うポン。というかミケがいちいち構うから嬉しがってるんだと思うポン。無視すればいいポン)


(それはちょっと。流石に可哀想だよ、光理は大切な仲間なんだから)


(……パパ、そういうとこ、本当に大好きなの。ぼく、人間に生まれ変われたら、絶対にパパのお嫁さんになるの)


(はいはい。ありがとう、光理。パパも嬉しいよ)


(そういうとこにゃ)

(そういうとこじゃぞ)

(そういうとこだポン)

(しょ~ゆ~とこでしゅよぉ~)

〖そういうところですよ〗


 意味不明な総ツッコミを受けたが、どういうこと?

 肝心のアイミスさえもそっち側だし、僕の味方はいないのだろうか?



 それはともかく、今日は灰谷君と二人だけだ。人間は。

 御神輿は出店のある商店街ではなく町中を練り歩くから、識那さんや遠野さんは家で家族と一緒に見る予定なんだとか。

 一方、僕と灰谷君の家は家族全員が出店を見つつ御神輿を見物する派なので、僕と彼もそれに倣うというわけで。家にポツンと一人きりは寂しいからね。


「じゃあ、灰谷君。先に出店で色々買ってから、御神輿のルートで待とうか」


「おう、そうだな。三日目ともなると出店の場所も完全に把握できてるし」


「じゃあ、灰谷君に任せるよ。行ってらっしゃい。頑張ってね」


「なんだと? それじゃあコーメイの今夜は、わたあめ尽くしで決まりだな」


「嘘です。僕も行くから、そんなフワフワで甘々な夕食は勘弁してください」


 灰谷君も昨日とは打って変わって元気になったみたいだし、僕たちはいつもの調子で戯れながら御神輿の開始を待つ。今日はしっかり寝たのだろう。

 昨日と同じように妖怪組が雑音を奏でるが、思考/分割の機能のおかげでそっちも難なく捌くことができた。僕も成長してるのかな。

 ちなみにだが、今日も今日とてイリエは留守番だ。窓から見られるけど。


「おお、柳谷君。お前さんも来とったんか」


「えっ? あ、校長先生。こんにちは」


 そんなことを考えていると、不意に聞き覚えのある声がした。

 振り返ると、そこにいたのはのっぺらぼう校長だった。他の先生たちもいる。


「先生方も、こんにちは」


「おお、柳谷。灰谷。昨日ぶりだな」

「昨日はどうも、柳谷さん。灰谷さん」


「後上先生、山名先生も。こんにちは」


 昨日会ったばかりの二人に加えて、見知った先生たちもいる。

 僕が頻りに挨拶を交わしていると、妙に灰谷君が静かなことに気付く。


「うん? どうしたの、灰谷君?」


 そう言って僕が彼を見ると、彼はジッと一点に目を奪われていた。

 不思議に思ってそちらを見ると、そこには()()()を装備をした彼女の姿が。


「おや、これはこれは。先日ぶりでございます、光明様」


「ひと……ライカさん。こんにちは」


「そちらは先日もご一緒でしたね。仲がよろしいようで」


「あ、彼は僕の友人の灰谷く……」


「あの! 俺、灰谷(はいたに)優愛(ゆめ)っていいます! よろしくお願いします!」


 すると、灰谷君は僕の紹介を遮って自分から自己紹介に踏み出る。

 なんだかいつもの彼らしくないけれど、体調でも悪いのかな?


「これはこれは、灰谷様ですね。わたくし、学校長の知人で来禍(らいか)と申します。今後ともお見知りおきを」


「は、はい! こちらこそ、よろしくお願いいたします!」


「なんとも元気の良いことで。お祭り、楽しんでくださいね」


「はい! ありがとうございます! ら、らいか様もお楽しみください!」


「ありがたく存じます。それでは、また」


「はい! 是非、また……」


 元気というより、張り切りすぎて空回っている感じがする。

 彼には珍しいことだが、先生たちの前で緊張しているのだろうか。それに灰谷君は自分の下の名前があまり好きではないらしく、自分から紹介するのなんて初めて見たよ。僕にだって渋々教えてくれたのに。


「……ホッホッホッ。こりゃ、前途多難じゃのう」

「マジか、にゃ」

「ほほう? 面白くなってきたのじゃ」

「一つ目、罪な女だポン」

(ガチのやつなの。ぼく、陰ながら応援するの)


 すると、妖怪組の面々が揃いも揃ってニヤニヤし始めたではないか。

 灰谷君の空回りがそんなにおかしいのかな? けど、笑うなんて酷いなァ。


〖ミケ、考えが手に取るように分かります。そういうところですよ〗


 何故か再びアイミスに謎の指摘を受け、僕はキョトンとする。

 それにしても灰谷君、ジッとライカさんのことを見つめていたな。まあ、同じ男として見ちゃうのは分かるけどさ。

 けど、灰谷君もそういうのに興味があったとは意外だった。少し凝視し過ぎな気もするけどさ。いくら大きいからって。


〖ミケ……〗


 なんだかアイミスに呆れられた気がするが、僕は気を取り直して校長先生たちとの挨拶を再開する。

 そして彼らと別れると、未だボーっとする灰谷君を引っ張って予定の場所へと向かった。彼、空回りの失敗が相当ショックだったみたいだ。


「……コーメイ。俺、自分がこんな気持ちになるなんて思いもしなかったよ」


「えっと……まあ、誰にでもあることだと思うし、ゆっくり気持ちの整理をすればいいと思うよ。僕は灰谷君の味方だからね」


「……ありがとう。分かってくれるんだな、流石は親友。俺、お前と友達でよかった。経験者として、先駆者として、色々と相談に乗ってくれよ」


「誰が先駆者だ! 僕、そんなふうに見えるのかなァ?」


(……マジか、にゃ)

(……奇跡的に噛み合ってるのう。阿保なのじゃ)

(ミケ、見損なったポン)

(パパ、凄いの。逆に、とんでもなく凄いの)

〖ミケ……〗


(えっ? やらかしてヘコむのは確かによくあるけどさ、経験者とか先駆者って言われるほどじゃないよね? 違うと言ってほしいんだけど)


 そうして僕は、妙に真っ直ぐな目で神輿を見つめる灰谷君の横で、自分の失敗談をフラッシュバックさせながら上の空で御神輿を眺めるのであった。



 夏祭りの三日目が、終わる。



777チャレンジ実施中。

次は朝に投稿予定です。

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