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q58「仲良し兄妹とは」


「ほーら、お兄ちゃん。次、行こっ」


「って、荷物持ちかーい!」



 久々になる妹と二人での外出。

 だが蓋を開けば、その実態は荷物持ち要員であった。


「なーに、急に叫んでるの?」


「いや、荷物持ちのために呼ばれたのかと思ったら、ついね」


「もっと喜んでいいんだよ? 可愛い妹とデートなんだし」


「自分で可愛いって言うなよ。小学生なのにマセてるなァ……」


 軽やかな足取りの妹に対し、僕の足取りは重い。だって荷物を持ってるから。

 それにしても、もし最初からそのつもりで付いて来たのだとしたら、この妹は立派な腹黒に育ちそうだ。まだ小学生なのに将来有望だね。


 とはいえ、高校生と小学生の所持金でそんな大層な買い物ができるはずもなく。

 主に僕の腕力を削っているのはクレーンゲームの景品だったりする。妹と一緒だから別にいいけど、両手いっぱいにぬいぐるみを持つ男子高校生というシチュエーションはちょっと恥ずかしい。


「あとは、クラスで流行ってる文房具があってね。お兄ちゃん、買って?」


「なんでだよ⁉ 荷物持ちさせた上に(たか)るって、鬼か!」


「ね~え~、お兄ちゃん? 大好きだよっ」


「小悪魔かっ! 本当にマセてるなァ……」


 そんなわけで、最初こそ兄妹での散歩だったのだが。途中からルートが商店街に向き、ウインドウショッピングからのアミューズメント施設に行く流れになり。

 あとはゲームコーナーであれもこれもと燥ぐ妹に振り回された挙句、クレーンゲームの景品の山が自然に僕の手元に集まったわけだ。酷い。


「それにしてもさ、お兄ちゃんってあんなにクレーンゲーム、得意だったっけ?」


「……いや、たまたまだよ。癸姫は昔から上手いよね」


「まーねぇ。褒めても何もあげないよ?」


「何もくれなくていいから、荷物を少し持ってくれない?」


「やーだ。お兄ちゃん、がんばー」


 そう言ってニカッと笑う癸姫に、僕は諦めムードになる。

 なんだかんだ言っても可愛い妹、大事な家族ではあるけれど。この調子のよさは同じ親から生まれたとは思えないや。


 ちなみにだが、クレーンゲームが上手いのも大量の荷物を持てるのも球体のおかげだ。本来の僕なら景品は取れないし、荷物持ちは早々に力尽きていただろう。

 素晴らしい宇宙テクノロジーで妹の荷物持ちなんてやってるのはアレだろうが、僕が大助かりなのは確かである。


「いや~、兄に溺愛されちゃって幸せ者だねぇ、あたしってば」


「口調が小学生っぽくないんだけど。それに溺愛って何だよ」


「だってさぁ、嫌だ嫌だ言いながら結局荷物持ってくれて、欲しい物を買ってくれて。こうして付き合ってくれるんだから、優しいよね~?」


「……褒めても何も出ないからな? ほら、さっさと買う物を買って帰るよ。僕の腕が限界を迎える前にね」


「わー、情けなーい。お兄ちゃん、ひ弱だなぁ」


 不意に癸姫から褒められ、僕はむず痒さを覚えて速足になった。

 別に嬉しくなんかない。嬉しくなんかない……けど、仕方がないから流行の文房具とやらは買ってやらんこともない。うん。


 そうして僕はおねだりに屈し、貴重な夏休みの軍資金の一部を失うのであった。


〖……チョロい兄ですね〗


(ちょっと、アイミス。煩いよ?)


 優秀なナビゲーションシステムから的確にツッコまれ、僕は苦し紛れに心の声で返事をする。こういう時ばっかり反応するんだから、アイミスは。

 なお、帽子に変化している光理はというと……。


(……尊い、尊いの。兄弟愛、ヤバすぎなの。いいものを見せてもらったの。今夜はこれをオカズに白米を二十合は食べられるの)


(いや、光理は食事摂らなくていいでしょ? それに一食で二十合も減ったら、即刻家族会議モノだし。止めてよね)


 こちらはこちらで、予想外の反応をしていた。

 どうやら彼女にとっては相当()()だったらしく、懸念していたお巫山戯(ふざけ)や下ネタ発言もなく平和である。

 それは別にいいんだけど、兄妹の何がそんなにツボに嵌ったんだろう。謎だ。


「ニシシッ。ほーら、お兄ちゃん。置いてっちゃうよー?」


「待って、待って。しっかり前見ないと転ぶよ」


「お兄ちゃんみたいに鈍臭(どんくさ)くないもーん。へへっ」


 こうして僕の暇な休日は、妹の暴君ぶりによって呆気なく消えたのであった。

 まあ、たまにはいいかな。こういうのも。





  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 帰宅すると、琴子やポンちゃんたちが家の前でたむろしていた。

 そういえば家には誰もいないから、鍵を閉めていたんだっけ。イリエはいるが。


「あっ、帰って来たにゃ! レディを待たせるとはふてぇヤツにゃ、御用だにゃ」

「馬鹿猫、黙らんか。ワシらの都合で離れとったんじゃから、仕方なかろう」

「ミケも家族サービスしてたみたいだポン。たまにはそういう時間も必要ポン」


 僕を見付けるなり賑やかに騒ぐ面々に、コッソリとごめんねのサインを送る。

 妹には当然見えていないから問題無いけど、家に入る時は気を付けないとな。さっさとドアを閉めてしまったら置き去りにしかねない。


「ふぁ~疲れた。お兄ちゃん、ありがとね。すっごく楽しかったよ」


「うん、こちらこそ。腕は限界ギリギリだけど、僕も楽しかったよ」


「じゃあ、また何か買ってね♪」


「なんでだよ。今日で散財したから、当分の間、金欠だからね。暫くは無理無理。ゲームの相手ならいくらでも付き合うけど」


「ちぇっ。仕方ないなぁ、それで我慢してあげる」


「なんで上から目線なの? これだけ出費と重労働させたんだから、もっと感謝してもいいと思うんだけど?」


 生意気な態度の癸姫を睨み付けると、彼女はペロッと舌を出して誤魔化す。


「冗談、冗談。本当に助かったよ、頼りになるお兄様。ありがとね」


「まあ、頼りになるお兄様は寛大だから、許してやろう。ほら、玄関開けて」


「わーい。頼りになるお兄様ってば優しいなぁ。頼りになるお兄様が素敵すぎて、あたし、頼りになるお兄様への禁断の恋に目覚めちゃいそ~」


「いいからさっさと開けろ。癸姫、僕の腕が限界なの分かっててわざと引き延ばしてんな? 景品、このまま玄関先に放り出すよ?」


「はーい。えっと、鍵は……あった!」


 そんな戯れの後で、漸く玄関の鍵が開く。本当のところは、疲労回復効果で僕の腕に限界が来ることは無いんだけれど。

 それはともかく、家に入って癸姫に言われるがまま彼女の部屋に景品を置くと、僕は琴子たちを引き連れて自室に戻った。


「ありゅじしゃま~、おかえりなしゃいましぇ~」


(ただいまー。留守中、変わったことはなかった?)


「にゃにもありましぇんれした~。わりぇのおかりぇえ~」


(ありがとう。琴子たちもごめんね、待たせちゃって)


 念話でそう伝えながら琴子たちに視線を向けると、彼女たちは笑顔で僕を見る。

 どうやら校長先生(あっち)の方も楽しい時間を過ごせたみたいだ。


(おかげで久々にゆっくりと話せたのじゃ)

(満喫したポン。オールオッケーだポン)

(のっぺらぼうのやつ、ミケのこと気に入ってたにゃ。今度はここに呼んで、みんなで一緒にお喋りするにゃ。識那も呼ぶかにゃ?)


(いやいやいやいや、家庭訪問じゃないんだから。それに、担任じゃなく校長先生が来たら家族も学校の人たちもビックリするでしょ。あと、識那さんには意味分かんないからね、その状況)


(パパ、すごく楽しそうだったの。ストレス発散、できたの?)


 僕の頭上から飛び降りた光理にそう言われ、改めて今日の出来事を振り返ってみる。なんだか今日はずっと慌ただしかったな。

 のっぺらぼうと会って、初めて球体の秘密を誰かに話して。それから成り行きで妹と出掛けて、荷物持ちをしながら色々と回って。

 たまには何もせずブラブラ歩くのもいいかと思ったけど、結果的にこっちの方が充実していた気はする。妹に散財させられたのは癪だけど、楽しかったし。


(……うん。すっきりしたよ)


 だから、僕はそう答えた。

 そして改めて、賑やかさを増した仲間たちを見つめ、フフッと笑うのだった。



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