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q42「入江とは」

途中の◆◇◆◇◆以降は読み飛ばしても大丈夫です。

その場合は最後の数行だけ読んでいただければ。


「我は入江(いりえ)と申します。今後ともよろしく御願い致します」



 そう言って、人魚のイリエが我が家の妖怪組に加わった。

 西洋のマーメイドではなく日本古来の方、人面魚っぽい人魚だ。ちなみに(オス)


「よろしくにゃ~」

「うむ、こうなっては仕方ないのじゃ。よろしくの」

「ポン」


 イリエさん……だと例のごとく怒られそうだから、イリエと呼ぶことにする。


 人魚の肉が不老不死の妙薬であることは有名だが、それに加えて彼は人面魚らしからぬ(?)中性的な美男子で。ゆえに肉だけでなくエッチな目的でも狙う人が後を絶たず、そのせいで極力陸に近付かないように暮らしてきたと話してくれた。

 けど、人面魚にエッチな目的ってどういうことだろう。世界は広いなあ。


 そんなことより、どうして彼が陸で死にかけていたかというと……その原因は人間の捨てたゴミだったらしい。

 海中でゴミが体に絡まって泳げなくなったイリエは、海流で海神様とやらの領域の外に出てしまったのだとか。流され続けるうちに漸くゴミは解けたものの、海神様から離れすぎたせいで力を失ってしまったのだ。


 そして陸に打ち上げられて転がっていたのを、僕たちが見つけたというわけだ。

 もしあのままだったら、あと半日もしないうちに息絶えていたらしい。


「感謝のしようもございません。もし我が存在が迷惑とあらば、この身を捌いて金にでも換えていただければ。それも憚られるのであれば、我は海に還りましょう」


「待って。海に帰るじゃなく、還るって言った? それって投身自殺だよね?」


「我は既に光明殿の眷族ゆえ。主様が死ねと申すならば死ぬ覚悟に……」


「言わないから。居てもいいから、今後は捌けとか死ぬとか言わないでね」


「畏まりました。やはり優しい御方です」


 なお、海神様の力というのは海水を通じて供給されていたらしい。

 だがアイミス曰く、僕のエネルギーは通路(パス)とやらが出来上がっているそうで。それを通じて徐々に徐々に譲渡され続けているのだとか。

 徐々にと言わず一気に分けてあげれば……とアイミスに提案してみたところ、急に注ぐと体が耐えきれず破裂するそうだ。うん、ゆっくりやろうぜ。


 彼の力を最大値まで戻すには一年くらいかかると言うので、その後のことはその後に考えようと思う。一般的な眷族だと、ちょっとずつエネルギーをもらいながら主のために働くらしいが、アイミスなら他の方法も知っているだろうからね。


 ちなみに通路(パス)があれば近くにいなくてもいいのでは……とも思ったが、彼に「不要とあらば海に還ります」と言われても困るので、黙っておこう。

 まあ、居てもらっても支障があるわけじゃないし、別にいいか。


「これは……! 我、駄目になりそうですぅぅぅ」


 そんな彼のお気に入りは、去年の誕生日に母さんが買ってくれたビーズクッション。人呼んで「人を駄目にするクッション」の上だ。

 これ、人じゃなく人魚も駄目にするって製作者に教えた方がいいのかな?


「みしゅあきどのぉ~、われ、なんでもやりましゅので~」


「……とりあえず、充分に回復するまではそこでゆっくりしててね」


「やはり、やしゃし~おかたゃ~。しゅ、しゅきぃ~」


 ……今のはきっと、酒気とか手記ってことだよね。文脈としておかしいけど。

 だって彼、男の子だもんね? 気付いたら僕のお尻を眺めてたりしないよね?

 僕、いずれ「アッーー!」とか叫ぶ羽目にならないよね?


〖補足説明です。妖族の人魚は保有エネルギーの50%ほどを使用して性転換を行うことができます。それゆえ、恋愛観としては男女とも対象となるようです〗


 妖怪なのに恋愛観があるの⁉

 というか性転換するなら、譲渡は49%までで止めた方がいいんじゃない?

 いや……この場合は、むしろ性転換してもらった方がいい……のか?


 そんな異様な悩みに頭を抱えつつも、駄目人魚と化した彼を眺めて安堵する。

 なにはともあれ、生き長らえることができたなら万々歳だ。一件落着だ。


「しゅ、しゅきぃぃ、らいしゅきぃぃぃぃ」


 ……い、今のはきっと、クッションが大好きって意味だよね?

 とにかく、一件落着ったら一件落着だ、うん。





 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 色々とあったものの、気付けば夏休みも三分の一が過ぎ、暑さも本格化。

 長かったような短かったような……というより序盤から濃かったわ。


 ともかく、夏休み中盤は平和な日常を謳歌したいものだ。


 朝起きたら顔を洗って歯を磨き、家族と一緒に朝食を摂る。

 両親が仕事に行ったら妹と家事をこなし、空いた時間で一緒にゲーム。

 お昼は母さんがいない日は、妹が家にいればリビングで一緒に食べ、妹がいなければ自分の分を琴子たちの好物と一緒に自室へ運ぶ。


 因みにイリエの好物は鶏肉らしいのだが、彼曰く「しょんなことよりぃ、これがあればらいじょうぶれしゅ~」とクッションの虜なので特には調達していない。本当にそれでいいのか、水棲種族よ。


 午後からは灰谷君や識那さん、あるいは遠野さんのような友人との約束があれば出かけたり、妹がいない場合は家に呼んだり。

 あとは特に予定がない場合は琴子たちと過ごし、彼女たちのやりたいことや行きたい場所があれば付き合う。


 そして夜は家族四人で夕食を摂り、風呂と歯磨きを済ませて自室でまったり。

 そんな感じの平和な日常がいいな。




 そうそう、もちろん球体の機能も常日頃から練習しているとも。

 次回の適合(シンクロ)率上昇に伴う機能解放の前に、今ある機能はなるべく使いこなせるようになりたいからね。

 前回獲得した機能だって、常時稼働(パッシブ)はともかく任意発動(アクティブ)の有用性は人魚の一件でよく分かったし。


 ちなみに「操作/エネルギー操作・生成」は文字通りエネルギーを作り出して操る機能で、このおかげで人魚(イリエ)は助かったと言っても過言ではない。エネルギーを生命力として考えるなら、これはまだまだ応用が利きそうだ。


 そして「術理/強化」にも可能性を感じる。アイミス曰く、この「術理」に分類される機能は基本的に他者へと作用するらしく、つまり「術理/強化」とは他者を強化する機能。僕の「モード:身体強化(ブースト)」が他人に掛かるようなものだ。

 この術理カテゴリには、今後ともお世話になりそうな気がする。


 なお、パッシブの「空間認識/視覚的異層」は言わずもがな、妖怪が見えるようになる機能である。今さらなので省略。


 次に「技能(アーツ)/人外・生物」だが、これは技能(アーツ)/人型の人外バージョンで、人型以外と相対する際に体の動かし方が分かるようになる機能である。


 あと、特殊機能の「能力拡大/初期設定」というのも獲得したが、これは発揮する力の上限を設定するリミッターのような機能らしく。今はそれほど使い道が無いが、将来的には活躍するかもしれないな。



「ミケ、ウチは先に寝るにゃ~」

「ワシもじゃ。寝ている間にセクハラはするでないぞ~」

「ポ、ポ~ン」

「ありゅじしゃま~、おやしゅみなしゃいましぇぇ、しゅきぃぃぃ~」


「は~い。みんな、おやすみ~」


 今日も、一日の最後は皆におやすみを言って終わる。あとは寝るだけだ。

 これからもこんな平和な日常が続くといいな。そうして僕は夢の世界へ……




〖私との時間がまだですよ〗




 ……と、言いたいところだけど。実はこれで終わりではない。

 妖怪組の皆が寝た後は、こうしてアイミスとの時間が待っているのだ。


(……じゃあ、アイミス。今日も話そうか)


〖ありがとうございます。それでは何を話しましょうか〗


 アイミスに頼んで眠りに就くこともできるが、折角の眠らなくていい体だ。

 ならば有効活用して、アイミスと他愛のない話をしたり、お願いして色々な知識を教えてもらったり。そうして話題が尽きるまで、僕の一日は終わらない。


 以前と比べるとだいぶ忙しくはなったけど、こういうのも悪くないかもね。

 そんなふうに思えるのは球体があるからだろうか。それとも皆のおかげかな?


(もうすぐ夜明けだね。アイミス、少しだけ眠ることにするよ)


〖分かりました。ですが、眠る前にお伝えしておきたいことが〗


(うん? どうしたの? 珍しいね、こんなタイミングで)


適合(シンクロ)率上昇が実行可能です。適当なタイミングで声をかけてください。それではおやすみなさい、いい夢を〗


(…………へっ?)



 はてさて、今度はどんな展開が待ち受けていることやら。

 夏休み中盤も色々と起こりそうな予感がするよ……トホホ。



次話は閑話になります。

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