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q41「奇跡とは」


 人魚を拾った翌朝のこと。

 僕の横でピチピチと()()()()跳ねる人魚の姿に、琴子も鈴子も、ポンちゃんまでもがポカンとしていた。


「……これは、いったい……?」


 そして、当の人魚も唖然としている。それはそうだろう。

 なにせ死にかけて、河童の力ですら治療が困難だったのだから。ところが、いざ蓋を開けてみれば一晩でこの通りである。


「な、な、な、なにが……?」

「ど、どういうことだにゃ……?」

「ポ、ポーン……」




 種明かしをしよう。実に簡単なことだ。


 僕の本体は球体であり、その球体は宇宙最高峰の技術で作られている。

 その球体を動かしているエネルギーはとてつもなく膨大で、ちょっとやそっとでは失われることがない。ゆえに僕は死ぬことがないのだ。


 そして人魚が失った力。言い換えれば不足している生命力(エネルギー)

 それがどういう種類のものか、()()()分からない。けれど宇宙最高峰のナビゲーションシステムであるアイミスならば、分からないはずもない。

 むしろアイミスなら、本気を出せば生命すら生み出してしまいそう。


 というわけで、僕は心の声でもってアイミスに相談し、助けを求めていたのだ。

 結果、人魚を連れて帰り、そこでエネルギーの譲渡を行ったというわけである。


「いったい、何をどうやって……?」


 人魚は相変わらず唖然としたままだ。

 しかし説明しないわけにもいくまい。だから、僕は決心して口を開く。



「……奇跡って、本当にあるんだね」



 その言葉に、琴子も鈴子もポンちゃんも、そして人魚までもが呆れ顔である。

 そんなわけあるかーとツッコミが来ると思ったが、それどころじゃないみたい。


「えっと、その……」


 これはどうしたものか。思い切って球体のことも全部打ち明けるか?

 僕が困り果てていると、ちょっと予想外のところから助け舟がやって来る。


「……にゃ~。まったく、ミケは変なやつだにゃ」


「え?」


「念話を使える時点で普通じゃにゃいと思ってたけど、この感じだとまだまだ色々と秘密がありそうなのにゃ。けど敢えて聞かないにゃ。人魚は助かったし、ウチも鈴子もポン左衛門もみんなハッピーで結果オーライにゃからにゃ」

「……それもそうじゃな。今さら驚いても仕方がないかの。琴子の言う通り、結果オーライ。一件落着じゃ、カーッカッカッカッ!」

「……ポーン」


 粋な計らいに、僕の心はキュンとなってしまう。惚れてまうやろ。

 妖怪が皆、琴子のように器が大きいというわけではないだろうが。それにしたって気にせず流してもらえるのは本当にありがたい。いつかは話すつもりだが、今はまだ時期尚早だろうからね。


「み、みんな……ありがとう」


「気にすんにゃ。ミケは大事な友達、それでいいのにゃ」

「まったく、大雑把なやつじゃの。じゃが、ワシも同感じゃ」

「ポ~ン」


「……よく分かりませんが、我も感謝を。そしてそちら様の事情には踏み込みませんゆえ、御安心くだされ」


 人魚までもが今回のことに目を瞑ってくれたようで。

 僕は皆に感謝して、今回の件を有耶無耶に終わらせたのであった。一件落着。





 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「……そんなんでいいわけあるか。ちゃんと説明して」


「ですよねー」


 世の中、そう上手くはいかないようで。

 心配して連絡をくれた遠野さんと合流したのだが、流石に彼女相手に有耶無耶は無理があったみたいだ。そりゃそうだよね。


「……奇跡がね」


「わたしは説明しろと言ったんだけど? 怒るよ?」


「はい、ごめんなさい」


 彼女を怒らせるわけにはいかないので、説明することにした。

 とはいっても、今はまだ球体のことは伏せておきたい。


 今回の一件……詳細を明かすと、前に獲得したアクティブ機能の「操作/エネルギー操作・生成」をアイミスに言われるがままに使用し、人魚の生命力(エネルギー)と同調するよう調整した僕のエネルギーを譲り渡したわけだが。

 それを、なんとか当たり障りのない形で皆に説明してみよう。


「えっと、僕は不思議なパワーを持ってるみたいで。昨夜、僕と添い寝した人魚に偶然それが流れ込んだみたいなんだ」


「……な、納得できるかぁ! わたしたちを馬鹿にしてんの⁉」


「うう……ごめんなさい」


「そもそも、それはどうやって知ったの? 不思議なパワーが流れ込んだとか説明できるってことは、理解して意図的にやったってことじゃないの? まともに話す気がないなら、わたしにも考えがあるわよ?」


「うう……」


 すると、追い詰められた僕の前に、小さな影が立ちはだかった。

 それは毛深い体毛に覆われ、二又の尻尾を持った影であった。


「なに? 邪魔する気なら、本当に怒……」


「いのり。ミケのことを虐めないでほしいのにゃ」


「は⁉ 虐めてないでしょ? あんたは気にならないの、こんな……」


「気にならないにゃ。そんなことより、いのりがミケを追い詰めて、無理矢理秘密を暴いて、それでミケがウチらの前から居なくなってしまう方が嫌だにゃ。ミケがいない日々は嫌にゃ。そんなの……()()()にゃ」


「クッ……で、でも、こんな常軌を逸したこと、野放しになんか……」


「ミケはウチの大事な友達にゃ。いのりのことも大事にゃけど、もしもミケが居なくなったら……ウチ、いのりのこと許せなくなるにゃ。だからお願いにゃ、ミケを許してやってほしいのにゃ。この通りにゃ」


 そう言って、ミケは地面にひれ伏して頭を擦り付けた。

 その姿にいつもの巫山戯(ふざけ)た様子など微塵もなく。だからこそ琴子の本気がこれでもかというくらい、ひしひしと伝わって来る。


「う……ぐぐ、ぐっ! もーーーーっ、分かったわよ! これじゃ、わたしが悪者みたいじゃない! もう分かったから顔を上げなさいよ! まったく……」


 そんな琴子の姿に、遂に遠野さんが折れた。

 怒ると怖いと言っていた相手にこんなふうに立ちはだかるなんて……本気で惚れそうなんだけど。格好よすぎじゃない?


「……許してくれるのにゃ?」


「さ、最初から許さないなんて言ってないでしょ。わたしはただ説明してほしかっただけ。けど、説明できないってんなら別にいいわよ」


「ごめんね、遠野さん。けどさっきの説明が精一杯なんだ。そのうち話せると思うから、今はスルーしてもらえるとありがたいかな」


「ミケちんまで謝らないでよ。はぁ、なんかもう、どーーでもいいわ……」


 完全に納得というわけにはいかないようだが、どうやら遠野さんも有耶無耶にしてくれるみたいで。今度こそ一件落着である。


「ばーかばかしい。帰ろ帰ろ」


「あ、待って。実は、まだ話したいことが……」


「は? まだ何かあんの?」


 実はまだ問題が残っていたりする。それもとびっきりの。

 有耶無耶にしてくれた彼女たちには悪いが、これだけは説明しておかなければ。


「えっと、僕の不思議なパワーが流れ込んだおかげで、人魚は一命を取りとめたみたいなんだけど……」


「……けど?」


「じ、実はね、そのせいで……」


「……せいで?」


 すると、近くにいた人魚が進み出て片方の(ひれ)を上げる。

 自分が話すから……とアピールをしたかったみたいだ。


「そこからは我が説明を。どうやら光明殿の御力によって生かされた我は、光明殿の御力しか受け付けない体質に変化してしまったみたいなのです。つまり、海神様ではなく光明殿の眷族になってしまったというわけですな」


「…………はぁ?」


「だから急ではありますが、今日から人魚の彼も一緒に暮らすことになりました。皆さん、よろしくね」

「よろしく御願い致します、皆様方」


「…………ハアアアァ⁉」

「にゃにゃにゃっ⁉」

「なんじゃとっ⁉」

「ポーーーーン⁉」



 青天の霹靂である。驚くのも無理はない。

 こうして僕の家にまた一人、人外の住人が増えることになったのであった。


 マーメイドなら嬉しかったけど、角の生えた人面魚……いや、何も言うまい。

 一件落着である。



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