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q38「海水浴とは」



「海、だぁーーーーッ‼」



 真夏の太陽の下、僕たちは海水浴に来ていた。

 今日の参加メンバーは僕と識那さん、遠野さんに加え、琴子と鈴子、それにポンちゃんである。さらに僕の友人の灰谷君にも声を掛けさせてもらった。


「テンション高いなァ。遠野さん」


(河童だからにゃ。海水でもそれなりに力が戻るのにゃ)

(水神と海神じゃと管轄が違うから、ずっと居たら逆に萎むがのう)


「きょ、今日はよろしくね、灰谷君」


「……こちらこそ、よろしくです、識那さん。遠野さんも」


 灰谷君を呼んだのは男女比のバランスを考えてのことだ。

 流石に海となると、男が僕一人では心許ないので。(オス)のポンちゃんはいるけど。


「改めまして、灰谷です。よろしくお願いします」


「おっす! おっす、おっす! 今日は楽しくやろうぜぇ!」

「い、いのりちゃん? ちょっとテンション高すぎだよぉ」


「河童、絶好調だにゃ。阿保みたいだにゃ」

「シッ! 識那さんに聞こえるよ?」

「ワシらは暑さを感じんとはいえ、こうジリジリと照っていると鬱陶しいのう」


 出だしから、賑やかさマックスである。

 賑やかさの九割は遠野さんだけど。


 それにしても、秘密を守りつつ楽しく遊ぶのはハードルが高いなあ。識那さんの前で、琴子がやらかさないか心配だ。

 えっと、識那さんには遠野さんの正体が秘密で。遠野さんには識那さんとの妖怪談義が一応秘密で。灰谷君には識那さんとの関係も、遠野さんの正体も、琴子たちの存在も秘密で……ってややこしいわ!


「なあなあ、ミケちん! わたしらの水着見て、感想は? 思春期真っ只中な男子高校生の赤裸々なリビドーは?」


「リ、リビドー言うな。その、まあ……似合ってて可愛いと思うよ」


「目、逸らさずに見てみなよぉ? ほらほら、三重籠もいい感じだろ?」


「ふぇっ⁉」


「ああ、もう! 識那さんが真っ赤じゃないか! 少し落ち着け!」


「……コーメイ、やるな」


 当の河童、もとい遠野さんは非常に楽しそうだ。河童って直射日光いいのか?

 そして灰谷君はマイペースに僕らを眺めている。彼とは頻繁に遊ぶくらい仲良しだが、識那さんや遠野さん、さらに言えば琴子たちと一緒なのは初めてだ。彼に妖怪は見えていないけれど。


「ありがとうね、灰谷君。僕一人だとキツかったから助かったよ」


「……いつの間に識那さんや遠野さんとこんなに仲良くなってたんだ? やるな、コーメイ。見直したぞ」


「何を見直したのか分かんないけど、ただ校外学習で一緒だっただけだよ。そこからちょっとずつね。それにしても久しぶり、灰谷君」


「いや、一昨日遊んだばっかりだろ。久しぶりじゃねーわ」


 灰谷君は基本的に人間嫌いである。部活は生物部で、人間以外の動物なら何でも大好きという筋金入りの猛者だ。


 とはいえ人間全てが嫌いなわけではなく、家族や親族、生物部の部員や僕のような友人、それに友人の友人など一部の人間は非常に大事にするタイプで。彼のノリが好きなこともあって、僕は仲良くさせてもらっている。

 そこそこ強めの個性だとは思うが、宇宙人に改造された僕や人間に化けている河童などに比べると、どうしても薄く感じてしまう。ごめん、灰谷君。


「ねえねえ、灰谷っち? どうよ、わたしのナイスバディ? 感想は?」


「そうだな。非常に鍛えられていていいと思う。まるで野生の狼の肢体のようだ」


「……ぐぬぬ、納得いかん。こんなに魅惑のマーメイドなのに、片やスレンダーな三重籠にしか興味のないヘタレたらし。片や人間に興味のないケモナーでは分が悪すぎるよ。わたしに夢中な男はいないのかぁ?」


「ヘタレとたらしって同居できるの? そもそも僕、たらしじゃないけど」

「ケモナーって言うと意味合いが違うと思うんだが?」

「ふぇぇ……どうせわたしはスレンダーですよぉ……」


 それ以前に、その身体って偽物だし。

 しかも自由に作り変えられるんじゃなかったっけ。いつもより胸、大きくない?


 そうやって皆をディスった遠野さんは、半泣きの識那さんを慌ててフォローする羽目になっていた。いつものことながら自業自得である。


 確かに二人の水着姿は眩しい。もっと言えば、非常に魅力的だ。

 しかしながら厭らしい目を嫌ってるようだから、敢えて見ないようにしている。そして灰谷君は人間嫌いを拗らせ、異性への興味が全く無い。

 だから、遠野さんが拗ねてしまうのもちょっと分かる気がする。折角頑張って調整した外見や水着姿だ、もっと僕たちから褒められたいのだろう。


「遠野さんは水着姿が可愛すぎて、魅力的すぎるから。真っ直ぐ見れないんだよ」


「……この男、お世辞じゃなく本心でこういうこと言うから嫌なのよね。そ、そこは別に、お世辞で充分なんだけどなぁ」


「たらしだにゃ」

「しかも、基本ヘタレじゃ。見事に同居しとるわい」


「そうだよ。いのりちゃん、すごく素敵。そ、それに比べてわたしは……」


 すると、今度は識那さんまで拗ねてしまう。

 遠野さんばかり注目されたから悲観的になったのだろうが、彼女も充分過ぎるほどに美少女だということを忘れてはならない。


「あ、あのね、識名さん。嫌がるかと思って言わなかっただけで、水着……とっても似合ってると思うよ。識名さんのイメージにピッタリで可愛らしいし、普段とはまた違った魅力が溢れてて……」


「も、もう大丈夫ですからっ! 分かりました、分かったから、もう止めてぇ!」


「……コーメイ、やるな」


 識那さんは耳まで赤くなって煙を出している。拗ねてヘコむよりいいけど。

 そして灰谷君は何故か真顔でサムズアップしている。どういう意味だよ。


「ミケ、ウチのことも褒めるにゃ」


 すると悪ノリして、琴子まで乗っかってきた。

 普段通りの姿ではあるが、無視するのも可哀想だし。というわけで、灰谷君が向こうを見ている間にコッソリと褒めることにした。


「……琴子はいつも可愛いけど、今日は陽の下で輝いてて、いつも以上に魅力的だよ。それに鈴子も、砂浜と和装がミスマッチだけど、それが逆に鈴子の綺麗さを引き立たせてるね。とっても素敵だよ」


「にゃはは♪」

「ワ、ワシは褒めんでいいわい! ふ、ふんっ!」


「ポンちゃんも太陽に照らされた毛並みが格好いいよ。可愛さと格好よさが両立してて、もはや最強だね」


 ポンちゃんが「俺まで褒めるのかよ。けど、ありがとうな」と言った気がした。

 さて、これで全員に言ったし、心置きなく海で泳げるよね。


「なあ、俺のことは褒めないのか?」


「……不健康的な白い肌が砂浜と同化していて、見失いそうだよ。日焼け止め塗らないと、あとで大変なことになると思うよ?」




 そうして僕たちは、みんなで海を満喫する。


 予想通りではあるが、泳ぎは遠野さんの独壇場で。

 僕たちは水中で遠野さんに悪戯されつつも、協力して仕返しを果たす。そして泳いだり潜ったり、浮き輪でまったりしたりと、楽しく過ごした。


 琴子や鈴子は荷物の番をしつつビーチパラソルの日陰で微睡(まどろ)み、主に人間観察に精を出しているようだった。人間だらけで見放題だもんね。


 ちなみに、海の定番といえば女子がナンパされて男子が助けるシーンだが。

 案の定、遠野さんはナンパされていたものの、僕が駆け付けると時すでに遅し。琴子と鈴子のコンビが見えないキックを浴びせてナンパ男たちを追い払っており、僕の出番は全く無かった。ナンパ男さんたち、怖かっただろうなあ。


「サンキュ、二人とも。それにミケちんもね」


「いや、僕は何も……」


「けどさ、誰も助けに来なかったら大波を起こして沖まで流してやろうと思ってたのに。チェッ、残念」


 チェッ、残念……じゃないよ。琴子、鈴子、グッジョブ。危うく大惨事だ。

 大波は冗談だったらしいが、河童だから本当にできそうで怖い。僕の出番は本当になさそうである。


「あ、あの。わたしはそういうの……」


「えー? いいでしょ? ちょっと付き合ってよ? なあ、おい」


「……きゃー、やめてくださーい。いくら俺が色白で可愛いからって、同性相手はちょっとごめんなさーい」


「ああん⁉ てめえ誰だよ、お呼びじゃねーんだよ! すっこんでろ!」


「おーい、コーメイ。助けろー」


「わあ⁉ ちょ、ちょっと、灰谷君⁉ 何してるのさ!」


 と、油断していたら識那さんがナンパされていた。

 近くにいた灰谷君が間に入ったものの、ヒョロヒョロの彼に荒事は無理だ。慌てて駆け付けると、その様子を見た巡回警備の人たちが来てくれて、事なきを得る。


「あ、あの。灰谷君、ありがとう……」


「いや、俺は時間稼ぎしただけだから。コーメイがいなきゃ突き飛ばされて終わりだったよ。コーメイ、愛しの君から目を離しちゃ駄目だぞ?」


「だ、誰が愛しの君だ! でも、本当にありがとう。ナイス時間稼ぎ」


「や、柳谷君もありがとう」


「ううん、気にしないで。それにしてもナンパが多いなァ。どうしたものか……」


 その時、僕はあるアイディアを思い付く。

 そういえば使いどころが分からなくて使っていなかったけど、球体機能に便利なものがあるじゃないか。



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