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q35「河童とは」

長めです。


 遠野さんの外見が豹変し、頭上にはカーソルが出現する。


 その姿はさっきよりずっと、僕のイメージした河童そのものだ。

 そして、シワシワの肌と妖しく光る細い目、武骨な(くちばし)と重厚な背中の甲羅、細長い手足と巨大な水掻きの付いた指、その全てが不気味と言わざるを得ない。


「ねぇ? この姿だと可愛くないっしょ?」


「え? あ、うん……何と言うか、普段の可愛さとギャップがありすぎるね」


「でしょでしょ! だから、こうやって姿を変えてるんだぁ♪」


 そう言って、遠野さんはさっきまでのキュートな河童姿に戻った。

 同時に、頭上のカーソルも消え失せる。どうやらあのカーソル、妖怪本来の姿にしか出現しないみたいだ。化けていると出ないのは、プライバシー保護?


「長年色々と研究してこういう姿にしてるから、それを可愛いって褒められるのは嬉しいんだよ♪ ありがとね、ミケちん」


 ストレートに「不気味」と言うのは失礼かと言葉を選んだが、普段の姿を褒めたのは大正解だったようだ。本人も気に入ってたんだね。


「ちなみに、ミケがドキドキしながらチラ見してたオッパイも偽乳にゃ」

「河童に人間のような乳房など無いからのう。悪趣味じゃわい」


「ぎゃあ⁉ そこまでバラすなよ! 貧乳だからって(ひが)みか!」


「だ、誰が貧乳じゃあ!」

「ウチにはそもそもオッパイが存在しにゃいのにゃ」


「みんな、男子高校生の前でオッパイとか連呼するの止めてもらっていい?」


 さっきまでスケスケな姿にドキドキしていたが、それが偽物と分かり。

 僕の心は冷静を通り越して、一気に無になった。DKの純情を返せ。


 ともあれ、これで漸く落ち着いて話ができそうだ。

 そう思い、僕はギャアギャアと騒ぐ遠野さんたちに話を切り出す。


「で、遠野さん。さっきまでの質問攻めとか、人間に化けてるのとか、どういう理由か教えてくれないかな?」


「やーだぁ。わたしのこと「いのりん」って呼んでくれるまで話さなーい♪」


「……じゃあ、帰るね。お疲れっしたァ」


「ウ、ウソウソ! 冗談だから帰らないでぇ! ミケちんのイケズぅ!」


 どうやら、ミケちんという呼び名は決定のようだ。

 それにしても面倒臭いな。陰キャには付いて行き辛いノリだよ、まったく。





 ……それから、遠野さんは沢山のことを話してくれた。


 昔から、この湖に住んでいたこと。

 昔から、琴子たちと知り合いだったこと。


 そして、湖の傍でなら人の心が読めること。

 さっきの質問攻めは、僕が嘘を吐くかどうかを試していたみたいだ。ちなみに普段でも、言っていることが嘘かどうかくらいはなんとなく分かるらしい。


 なお、識那さんが見える人だというのは、校外学習の辺りから確信していたんだとか。琴子がやらかしたし、嘘が見抜けるなら……そりゃバレるか。

 だけど、琴子が何故か識那さんではなく僕の方に付き纏っているから、おかしいなと思い始め。そこに鈴子まで加わったことで疑念が深まり、真相を明らかにしようと今日に至ったのだという。


 そういえば遠野さん、琴子が教室に乗り込んで来た日は学校を休んでたから、決定的な場面は見てなかったのか。普段の会話は念話だし、彼女から見たら琴子が一方的に僕に纏わり付いているだけに見えたんだね。

 ……待てよ? さっさとバレていたら、今日は呼び出されずに済んだのでは?




 そして、彼女はさらに色々なことを教えてくれた。

 知り合いの大妖怪を頼って人間として暮らしていることや、言わずもがな人間が大好きであることなど。うん、少なくとも識那さんのことは大好きだよね。


 ちなみに知り合いの大妖怪というのは僕たちの高校の校長先生で、正体はのっぺらぼうだという。ビックリだけど、同じ高校に通えているのも納得だ。

 それにしても人間の学校の校長になれるなんて、のっぺらぼうって凄い。


「それなら、琴子も鈴子も教えてくれたらよかったのに」


「……いのりの正体は、いのりに口止めされてるにゃ。怒らせると怖いのにゃ」

「怖いというか、面倒なのじゃ。ネチネチと嫌味を言われるし、いつまでも根に持って引き摺るからのう」


「へぇ? わたしの前で言うなんて、いい度胸だねぇ。二人とも覚えとけよ?」


「ほらにゃ? 恐ろしいのにゃあ」


「ま、まあまあ。今回は多めに見てあげてよ」


「言うても、のっぺらぼうにも口止めされているのじゃがな」


 普段の彼女からは想像が付かないくらい、感情豊かだ。テンションも高い。

 しかしながら、そろそろ僕も辛くなってきたので少し抑えてもらいたいな。


「それより遠野さん。普段のテンションで話してもらえると助かるんだけど。ちょっとテンション高すぎで……」


「それは無っ理ぃ! いつもは水源から遠くてあんなふうになってるけど、今は絶好調だかんね! もうちょっと付き合ってよぉ♪」


「ええ……?」


「諦めるのにゃ。水源に近いと、いのりはいつもこうにゃ」

「しかも水源の水で全身が濡れておるからのう。こうなったら手に負えんのじゃ」


 どうやら遠野さんはこの湖に浸かることで最大級の力を発揮でき、湖の水で濡れている間なら相当な力が維持できるようだ。

 そして彼女のテンションは力に比するらしく、当然今はマックスである。


 さらに湖から離れても、ストックした水源の水を得ることで人間に化け続けることができるのだとか。学校でも、たまに水源の水を補給しているらしい。

 それでも徐々に力は落ちてしまい、普段のテンションが低いのはそのせいだと。


「一日に一回くらいなら、湖に来ることもできるんじゃない?」


「今、人間の家に居候みたいな感じでお世話になってんのね。校長の紹介で。だから毎日抜け出したり、帰りが遅くなると怪しまれっから、無理ぃ」


「なるほど……」


 そういうわけで、平日はストックの水で我慢し、休日にこうしてリフレッシュしつつストックを補充しに来ているのだという。

 校長先生も事情を知っているから、土日に学校行事があった時や彼女の調子次第では、平日に欠席して補填するのを許しているのだとか。


 なお、大妖怪と呼ばれる妖怪たちは、普通の妖怪より強大な力を持っていて。

 様々な特殊能力が使えたり、人間に見える・見えないをコントロールすることもできるらしい。遠野さんが人間として暮らせるのも、そのためだ。


 けれど遠野さんの場合、水源で補給できないと変身が解け、人間に見えなくなってしまう。だから協力者として校長先生に助けてもらっているというわけだ。

 余談だが、そういう理由から「河童のミイラ」って実はあり得ないんだってさ。


「で……結局、僕は遠野さんのお眼鏡に適ったのかな?」


「うん。三重籠のこと純粋に好いてくれてるのも分かったし、その……わたしのことも、本気で魅力的って思ってくれてるのも伝わってきたし」


「そ、それはよかったよ……あはは」


 すると、遠野さんが少し悲しそうな顔で僕に手を差し出してきた。

 これは握手しろってことかな?


「まあ、思春期だからちょっとはエロい目で見るの許すけど、三重籠を傷つけたりはしないでね? わたしの大切な友達だからさ」


「も、もちろん。識那さんも遠野さんも、大切な友達だよ。二人とも可愛いから、たまに異性として意識しちゃうのは……その、ごめんだけどさ」


 そう言いながら遠野さんの手を握ると、彼女は目を見開いて僕を凝視する。

 なんだろう、僕また何かやっちゃった?


「……わたしとも、友達を続けるの?」


「へ? えっと……駄目かな? 僕、なにか嫌がられるようなこと、した?」


「ち、違くて。だってわたし、河童だよ? 緑色の女だよ? 正体、()()だよ? もっと気味悪がったりとか、これからは距離を置いたりとか……」


「……いやいや。その程度のことで距離を置くなら、そもそも琴子たちとこうやって仲良くしてないよ。それにわざわざ自分から秘密を打ち明けてくれたんだから、むしろ遠野さんには好感を抱いたし、前よりも好きになったくらいだよ?」


「ふへっ⁉」


「……にゃあ? 言った通りだろにゃ。ミケはこういうやつにゃ」

「お人好しだのう。秘密を守る代わりにオッパイ揉ませろくらい言っても(バチ)は当たらんというのに。まあ偽乳じゃがな」


 なんだか僕の方がおかしいような言い方だが、普通はそんなことしないって。

 あと二人が好き勝手言ってるけど、遠野さんは怒らなくていいのかな?


「す、好き……?」


「あ! いや、友達としてね?」


「……だ、だよねっ! あは、あはははは……ビックリしたぁ」


「いのりは心が読める分、純粋な気持ちに弱いのにゃ。そういう意味でミケと相性バッチリにゃ、にゃははははっ」

「確かにのう。識那もそうじゃが、悪意や騙そうとする意思を持たない人間にはすぐに惚れるからのう、いのりは。なんなら本当に付き合うのも悪くな……」


 刹那、遠野さんの纏う空気が変わった。

 ああ、これは本当にマズいやつだ。


「琴ちゃん、鈴ちゃん。あんま調子に乗りすぎっと、本当に……」


「な、なーんちゃって、なのじゃ。冗談じゃから、怒らないでほしいのじゃア」

「ウ、ウチもごめんなのにゃ。許してほしいのにゃ。もう言わないのにゃア」


 それまでの軽い雰囲気から一変し、場に緊張が走る。

 二人の慌てぶりからも分かるが、遠野さんが怒ると怖いのは本当らしい。僕も、今後は気を付けようっと。


「それじゃあ、これからもよろしくね。遠野さん」


「うん。わたしのことは、いのりでいいよ」


「……けど、識那さんの前で急に呼び捨てにしたら怪しまれるよね? 悪いけど、今まで通りに遠野さんって呼ばせてもらうよ」


「ちぇっ。残念だけど、そういう理由なら仕方ないかぁ。三重籠に変に思われたりするのは一番嫌だからねぇ」


 こうして、賑やかな時間は終わりを迎える。

 僕には猫又と見える人、豆狸と座敷童子に続き、河童の同級生というおかしな友達が加わったのだった。




 ……僕、普通の友達よりも、変な友達の方が多くなってないか?



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