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q3「Q点とは」


 ラスターさんの言葉にショックを受け、僕は固まってしまった。精神のフラットかなにか知らないが、自分の死にショックを受けるのは当然だ。


 しかしさっきと同様、不思議とすぐに落ち着きを取り戻してしまう。


「……僕の体、どうなったんですか?」


「ふむ。キミの体……どころか、キミの全ては先程の現象で跡形も無く消滅したのだよ。手足も、脊椎も、内臓も、細胞一つ残さず。そして脳までもね」


「脳も? なら、どうやって生き返ったんですか?」


「生き返ってはいないよ。キミの言う生き返ったが、元の体や脳を取り戻すことを意味するのであればね」


「えっ?」


 言っている意味が分からず再び固まった僕の前で、ラスターさんが片腕を突き出した。するとその先端が僅かに光る。


「今のキミは……まあ、見せた方が早いかね。[xxxxxxxx]」


 ラスターさんが何か聞きなれない「音」を発するのと同時に、僕の視界が急に低い位置まで下がる。

 一瞬、膝から崩れ落ちたのかとも思ったが、膝を着いた感覚はない。直後、どこから取り出したのか、ラスターさんが姿見のようなものを僕の前に出す。


「……なに、これ?」


 そこに映し出された光景に、僕は絶句した。

 目の錯覚か何かでなければ、()()姿()は薄っすらと透けていたのだ。そして、その足元付近……ちょうど僕の目線の高さには、白銀の球体が浮いている。


 まるで、僕の体を空中に投影している投影機(プロジェクター)のようだ。


「それが、今のキミの本体だよ」


「本体……だって?」


「キミの人間の姿は本体が投影している映像だね。とは言っても地球の投影機(プロジェクター)と違って実体のある映像だから、地球人類から見れば本物との差異は無いに等しいのだけれど」


「これ、やっぱり夢なのかな……」


 ラスターさんの言っていることが信じられず、僕は頬を抓ろうとする。

 だが姿見に映る()()が微妙に傾くばかりで、一向に痛みはやってこない。


 そして悲しいかな、僕の意識に連動して動くのは球体だけで、見慣れた自分の方は僕の意思に反して立ち尽くすばかりであった。

 どうやら、今の僕がこの球体だというのは紛れもない事実らしい。


「ふむ。恐らく今のキミは悲しさを感じていると思われるが、そう悲観するものでもないよ。その球形(ボディ)には最高峰であるラスターの技術が詰まっているわけだから、地球人類では不可能な飛翔や瞬間移動、生身での宇宙旅行すら可能なわけで……」


「僕、なんで死んだんですか?」


 説明に熱が入りかけていたラスターさんが、僕の問いかけにピタリと動きを止め、上げていた腕を下ろす。


「キミが見た現象。()()に巻き込まれたのだよ」


「あれ?」


「ワタシたちは()()と呼んでいるがね。ラスターとは、()の世界のあらゆる叡知を極め、此の世界の全てを観測可能となった存在だね。しかしその叡知の全てをもってしても理解が及ばず観測も不可能なただ一つの現象、それこそがQ点だよ。ワタシたちラスターが最後に追い求め続けている現象だね」


「……そんなものが、こんな片田舎で起きたと?」


 僕の問いかけに、ラスターさんは人間のように首を横に振る。


「場所は関係無いね。都心のド真ん中だろうと人里離れた山奥だろうと。それこそ銀河の片隅でもブラックホールの中心でも、何処だって起きる可能性はあるのさ。とは言っても()の広い世界のとてつもなく長い歴史上でたったの99回だから、滅多には起きないけどね」


「……あれ? 観測できないのに回数なんて分かるんですか?」


「起きたという結果だけは分かるよ。その原因もそこに絡む因果も、どういった現象なのかすら分からないのだけれどね」


「よく分かりませんが、僕はその爆発に巻き込まれて死んだと?」


 すると再びラスターさんが首を横に振った。


「爆発かどうかすら不明だよ。キミが目にしたのは爆発だったかね?」


 その問いかけに、僕は先ほど目にした現象を思い返す。


「……分かりません。鳥居が真っ黒で、でも同時に白く輝いてもいて、頭が混乱しているうちに一瞬で僕の体がバラバラになって、意識が途切れて……」


「ふむ。やはり原始的な知的生命体では理解も解析も説明も無理かね。だが、実はQ点をハッキリと目にした生命体はキミが()の世界で初めてでね」


 ラスターさんの言葉に驚きを隠せない。僕がこの世界で初めてだって?

 この世界というのは宇宙の全て……もしくはそれ以上を指すのだろう。そんな想像も及ばない範囲で僕だけだなんて、相当レアだな。


 ゲームのガチャなら(レア)どころじゃない、SR、SSR、UR……それ以上のLRやSP、たった一つという意味でUNユニーク級かもしれない。


「だからこそワタシが赴いて、キミの意識を復活させたわけだね」


 おっと、レアという単語に反応して思考が脱線してしまっていた。

 僕は慌ててラスターさんの言葉に耳を傾ける。耳、無いけど。


「でも、脳までバラバラなのをどうやって?」


「ふむ。今回選んだ方法を説明すると、まずはこの一帯の出来事を過去に遡ってシミュレートし、そこから割り出された生前のキミの人体構成要素を収集・再構築するわけだよ。Q点自体はシミュレーションも不可能だがキミ一人を再構築する方法ならいくらでもあるからね。あとはID値を調整した上で記憶と人格に関わるMT組成に合わせてTKGにSYDを掛け、BIMI乱数をMMORPGして……」


「すみません。さっぱり分からないので、僕にも分かるようにお願いします」


「……だろうね。途中から全く関係のない話だったけど気付く気配も無かったからね。これでもかなり分かりやすく言ったつもりだが……まあ簡潔に言うと、周囲に散らばった物質からキミの記憶や人格などに関係するものだけを集めて、その球体の核に移植したという感じかね。頭や脳を入れたわけではなく情報だけをインストールしたようなものだよ。分かるかね?」


 そこまで聞いて、なんとなく理解できた気がした。

 要するに今の僕はゲームや漫画に出てくるようなアンドロイドか、VR空間のAIに近い存在になっているのだろう。


「なんだかすみません。わざわざ復活させてくれたのに、碌な話ができなくて」


「ふむ。ワタシが勝手にやったことだから気にしないでいいよ」


 とりあえず自分のことは分かったし、安心もできた。

 だが、僕にはどうしても知りたいことがあった。その答え次第では人生がここで終わる可能性すらある。けれど、それでも確認しておかねばなるまい。


「それで、あの、僕はこの体をお返しするべきでしょうか? 無償で最高峰の技術が詰まったボディを貰うわけにはいきませんよね?」


 恐る恐る、ラスターさんにそんな質問をする。

 どんな体でもいいから、どうかこの先も生きられますようにと願いながら。問答が終わった途端に回収され、再び死を迎えるなんて御免だ。




TKG……卵かけごはん

SYD……醤油ダレ

BIMI……美味


一応解説すると、途中に出てきたレア度はゲームなどのガチャでよくあるやつです。ゲームによって色々なレア度がありますが、今回採用したのはこんな感じ。

R<SR<SSR<UR<LR<SP<UN

レア、スーパーレア、スペシャルスーパーレア、ウルトラレア、レジェンドレア、スペシャル、ユニークと思ってください。ガチャだとそのままアール、エスアールなどと読む方が一般的でしょうか。

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