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q25「連絡先交換とは」


「覚えてる? 前にわたしが転びそうになった時、受け止めてくれたじゃない」



 教室で校外学習のレポートを纏めていると、不意にそう言われた。

 頭を上げると、正面で遠野さんが僕を見つめていた。


「ああ、そんなこともあったね」


「正直、柳谷君って運動神経悪そうだし。ああいう時に受け止められるタイプに見えなかったんだよね。だからビックリしたよ」


 その言葉は僕の心を抉り、小さなダメージを与えた。

 運動音痴は事実だが、そうハッキリ言われるとちょっと傷付くなあ。


「ちょ、ちょっと、いのりちゃん。そんな言い方……」


「あ、ごめんね。悪い意味じゃなくて、見直したって意味だよ」


「う、うん。ありがとう……」


「それに弥生さんちでもテキパキ仕切ってくれてたし、今も班長としてしっかりやってるし。その……ちょっとカッコイイなって思ったよ」


「ふへっ? あ、ありがとう……ございます」


 女の子から褒められ慣れていない僕は、間抜けな声をあげてしまう。

 以前、技能(アーツ)/人型のおかげで転びそうだった彼女を受け止めたのは事実だけど、もしや知らぬ間にロマンスの種が?


「ねえ、三重籠(みえる)もそう思わない?」


「えっ? わたしは…………ヒュッ⁉」


 すると、話を振られた識那さんが急に青褪める。

 原因は、琴子が僕の頭の上からずり落ちてレポート用紙を踏んだせいだろう。紙がひとりでに動いてポルターガイストみたくなったら、そりゃ驚くよね。


「三重籠。そんな嫌そうな顔したら柳谷君が可哀想だよ?」


「あ、ごめん。違うの、そうじゃなくて……」


「まあ、わたしも好きとかじゃなく、一瞬そう思っただけなんだけど」


「……上げてから落としてくれてありがとう。これ何の時間なの?」


 最終的に、僕の評価がそこまで高くないという話のようで。

 期待した僕が馬鹿だった。それに二人とはまだそれほど仲良くないし。


「ごめんて。ただ言ってみただけ。褒められたら嬉しいかなって」


「うん、まあまあ嬉しかったよ。カッコイイなんて人生で言われたことないし」


「や、柳谷君、優しそうだよね。その……猫とか好きそうだし?」


「え? なに、識那さんまで。僕、今日死んじゃうのかな?」


 落としてから再び持ち上げられ、ちょっと動揺する。

 二人は僕の発した冗談にクスクス笑ってくれたが、本当に何の時間なんだろう。


「ねえ、よかったら連絡先の交換しない?」

「あ……わ、わたしも」


「へっ? あ、うん。もちろんいいよ」


 するとこれまた唐突に、遠野さんから連絡先の交換を提案された。

 まさか僕は今日、本当に死ぬのだろうか。まあ球体だから死なないんだけど、突然女子から連絡先を聞かれるなんて如何にもフラグっぽい。


 とはいえ冷静に考えれば、連絡先交換なんて学生には普通のことだ。たまたま相手が女子二人だから僕が舞い上がっているだけで。

 それにしても僕は相変わらずで、またも陰キャっぽい返事をしてしまった。


(ミケ、ウチとも連絡先を交換にゃ)


(琴子が使ってるの、僕のスマホでしょ。だから無理)


(ガーン。そうだったにゃ。ウチだけ仲間外れだにゃ)


(いや、琴子とはいつでも一緒なんだから必要無いでしょ?)


(……それもそうなのにゃ)


 急に割って入ってきた琴子はともかく、二人とは一応友達になれたのかな。

 異性だからと変に意識しないよう気を付けながら、その後も仲良くレポートを続ける。以前なら舞い上がったままだったろうが、今は球体さまさまだ。


「ふう、お疲れ様ァ」


「早く終われてよかったね。今日はこのまま解散していいんだっけ」


「そう言ってたね。レポートは僕が出しておくから、二人はそのまま帰りなよ」


「ほんと? ありがとう、柳谷君。やっぱりいい人だね」

「いいの? わたしたちも付いて行こうか?」


「大丈夫だよ、先生に出すだけだから。僕は帰宅部だし、予定もないからさ」


 そう言って二人と別れ、僕は頭に琴子を乗せたまま職員室へ向かった。

 別にいい人ぶったわけではなく、実は琴子と少し話したかったのだ。


(ミケ、女の子に優しいのにゃ。気障だにゃ。たらしにゃ)


(それ、褒めてないよね? 僕もちょっと気障だったかなとは思ったけど)


(それより、いつ鈴子に会いに行くにゃ? 鈴子が待ってるにゃよ)


(うーん……そうだなァ。折角だから今日、この後で向かおうか?)


(おお! 即決断できる男にゃ! ミケ、カッコイイのにゃ!)


 今日は実によく褒められる日だ。やっぱり僕、今日で死ぬの?


 それはともかく、僕も座敷童子とは話をしてみたいと思っていた。

 妖怪が悪いものじゃないと琴子で分かったし、ならば見えるとバレた相手が友好的なら、拒む必要も無い。そもそもバレないのがベストだったけど。


 妖怪は欲求が満たされればいいとアイミスが言ってたから、それなら無理に拒むより向こうが満足するまで付き合うのも一つの手だろう。

 座敷童子……鈴子(りんこ)さんというらしいが、さっき話しているのを見た感じでは悪い妖怪には見えなかった。琴子と旧知の仲みたいだし。

 けれど放置して万が一自宅に乗り込んで来られても困るし、それで弥生さんの家が崩壊してもマズい。ならば座敷童子が来る前に約束を果たす方が無難である。


「失礼しまーす」


「おお、柳谷。終わったのか?」


「はい。弥生さんと楽しく話してきました。これ、レポートです」


「ご苦労様でした。それじゃあ解散していいよ。気を付けて帰りなさい」


「ありがとうございます。失礼しました」


 レポートの提出もあっさりと終わり、僕は愈々(いよいよ)学校から出る。

 今日の行き先は自宅ではなく、さっき訪れたばかりの民家だ。少し緊張する。


 だが緊張はすぐにフラットにされ、やっぱり僕は平常心になるのだった。

 さてさて、座敷童子の鈴子さんからはどんな話が聞けるのか――――





「……あれ? 柳谷君?」



実は、転びそうになった遠野さんを受け止めるシーンが「q15」冒頭にあります。名前が出ていないので気付いた人はいないでしょうが。

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