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q23「校外学習とは」


 暫く一緒に過ごしたことで、琴子は僕との生活にすっかり順応した。


 最初は無視を決め込んでいたというのに、まさか一緒に日々を満喫する仲になろうとは。成り行き任せだったけど、今は最初に出会った話せる妖怪が琴子で、本当によかったと感じている。

 そもそも妖怪が見えるようになった時は不安でいっぱいだったのに、案外あっさりと慣れるもので。まあ、球体によるところが大きいんだけど。



 そんな中、ちょっとした変化があった。

 今までは授業中などを除いて四六時中遊んだり話したりしていた琴子が、最近は寝ていることが多くなったのだ。

 体調が悪いのかと心配したが、アイミスがその理由を説明してくれた。


〖以前の説明通り、妖族は地球人類などに認識されることで欲求が満たされます。これまでの寂しさの反動から眠らず話し続けていたようですが、毎日ミケと一緒にいるうちに欲求不満が解消されたのでしょう。今の状態は猫又として正常です〗


(そうなんだ、よかったァ。充分に満足してくれたってことかな)


〖今日まで何夜も連続で話し続けていましたからね。ミケが何日も碌に眠らずにいることを不審に思わないくらい、ハイになっていたのでしょう〗


(そういえばそうだった。もし聞かれたら説明しなきゃいけないのか)


〖これからは日中だけ会話する程度で大丈夫かと。元々、妖族の猫又は一日の大半を寝て過ごす種族ですので〗


 アイミスの言葉を聞き、僕は教室の後ろで丸まってスヤスヤと眠る琴子をチラッと見遣る。実に幸せそうな寝顔だ。

 僕としては毎日眠らずに念話で話し続けても問題無いのだが、琴子が満足したというならそれはそれで構わない。

 毎晩オールというのも青春っぽくてよかったけど、よく考えたら普通の人間からすれば異常なんだよな。気を付けないと人間の当たり前を忘れそうだ。




 そうして今日も平和な一日を謳歌し、帰りのホームルームの時間を迎える。

 すると珍しく、担任の楠木先生から連絡事項が発表された。


「来週は校外学習がありますからね。プリントをよく読んでおいてください」


 早速手元に配られてきた紙を読んでみると、そこには校外学習の班分けと行き先が書かれていた。班分けは先生が独断と偏見で決定済みらしい。


(それ、なんにゃ?)


(これは校外学習って言って、学校の外にある施設とか会社とかにお邪魔して勉強させてもらうイベントだよ。来週あるらしいね)


(遊びに行くのにゃ?)


(勉強だってば。えっと、僕の班は……学校から南にある古い民家にお邪魔して、昔のことを教わるみたい。って、あれ……?)


 そこまで説明して、僕は何かに違和感を覚える。

 なんだろう、何か引っかかるような……?



「あの、柳谷君」


 不意に声を掛けられ、そちらを向く。

 すると、そこにいたのはクラスメイトの女の子たちだった。


「はい?」


「ええと……来週の校外学習、同じ班みたいだから」

「一応、挨拶しよっかなって。よろしくね」


「あっ、そうみたいだね。よろしくお願いします、識那(しきな)さん。遠野(とおの)さん」


「うん、よろしくお願いします」

「まあ、気楽にやろうよ。それじゃあね」


「はーい。それじゃあ、また明日」


 それだけ告げると、二人はバイバイと手を振って帰って行った。

 二人とはこれまでほとんど話したことが無いが、何度か挨拶を交わしたことはある。陰キャの僕でも比較的話しやすいタイプだ。


 識那さんは大人しくて真面目な印象で、遠野さんは気だるげで緩い雰囲気がある。例えるなら図書委員とギャルだが、気が合うのかいつも一緒にいる。

 そういえば遠野さん、家庭の事情かサボりか分からないがたまに休むな。前に琴子が教室に襲来した日も休んでたっけ。


(にゃにゃ? デートかにゃ?)


(勉強だってば。もしデートだとしたら女の子が二人いるっておかしいでしょ)


 そんなツッコミを入れ、僕も教室をあとにする。

 この校外学習は大人数で大規模な行き先に向かう班と、数人で小規模な行き先を訪れる班に分かれていて。僕らは小さい方だから、この三人だけだ。


(にゃあにゃあ、その校外学習ってウチも付いて行っていいかにゃ?)


(別にいいけど。でも楽しいことなんて無いかもよ? たぶん、民家のお年寄りから話を聞くだけだと思うし)


(ウチよりお年寄りな人間はいないのにゃ。なら、ウチが代わりに話すにゃ?)


(その通りだけど、他の人に聞こえないから諦めてね。それに琴子の話だと昔すぎて趣旨が変わっちゃうし)


 今日も琴子と他愛のない話をしながら、通学路をのんびりと歩く。

 最近は移動の際、琴子は僕の頭にお腹をベッタリ付けて乗っている。これなら彼女は歩かずに済むし、念話もしやすいからと最近辿り着いた最適のスタイルだ。

 まあ、普通の人間なら頭が重くて歩きにくいし首を痛めそうだけど、僕なら身体強化の応用で問題無く歩けるので。


 傍から見れば年の離れた妹を肩車する微笑ましい兄妹に見えなくもないが、琴子の姿は誰にも見えないので結局は僕の一人歩きと映るのだろう。

 けれど僕にとっては、以前とは比較にならないくらい楽しい時間である。



 だから……僕は彼女との会話に夢中なあまり、先ほどまで感じていた違和感の正体を突き止めないままでいた。

 僕がそのことを思い出したのは、校外学習の当日になってからだった。


「……あ」


「にゃ? どうしたのにゃ?」


「……何が引っかかってたのか、分かったよ」


「なんの話にゃ?」


「……これから行くところ、学校の南にある古い民家なんだ。そこって確かさ」


「ああ、そういうことかにゃ」


 琴子も、漸く僕の言いたいことを察したらしい。

 分かって当然だ。何故なら()()()を僕にしたのは彼女なのだから。


「古い民家って、()()()()のいる家にゃね」


「だよね、やっぱり……」


 前に琴子が教えてくれた他の妖怪の居場所。

 今日これから向かう先は、まさにドンピシャでその場所なのであった。



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