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q22「青春とは」


 琴子がスマホを使いこなせると分かり、安心した一方で。

 ならば、僕と話さずとも楽しく過ごせるのかと、少し寂しさを感じる。


 ……しかし、琴子はそれをキッパリと否定した。


(スマホは色々できるけど、ウチは話す方が好きにゃ。スマホばっかり弄ってたら目も頭もボケそうなのにゃ)


 琴子の言葉に耳が痛い。今の僕にはもう関係無いが、以前は一日中スマホを弄ってばかりで目が乾いたり、頭がボーッとすることがあったから。

 琴子たち妖怪がスマホ病に罹るかは知らないが、妹や友人たちには今後とも気を付けてほしいものだ。


(というわけで、話すのにゃ。ここからはオールニャイトだにゃ)


(ごめん。宿題だけ終わらせちゃっていい?)


(オーマイガーにゃ。無料の漫画の続き読んで待ってるのにゃ。その後は無料の、(にゃんこ)が大戦争するゲームでもやってるのにゃ)


(……楽しそうだネ)


 オールナイトとかオーマイガーとか聞き慣れない古代語はともかく、スマホ批判から一瞬で掌を返してスマホを満喫するのはどうなんだろう。

 そんな気分屋の琴子はさておき、今日もアイミスの助けを借りてさっさと宿題を終わらせてしまう。これで後は朝まで話していても大丈夫だ。


(そういえば、猫又ってどういう妖怪なの?)


〖日本の伝承では、高齢の猫が妖怪化したものと伝えられています。尻尾が二又に分かれ、人語を話すようになり、行灯(あんどん)の油を舐めるとされています〗


(なんで行灯の油を舐めるの? それ、美味しいのかな?)


〖推測するに、当時の油に猫が好む動物性たんぱく質が含まれていたのでしょう。それを舐める猫の姿に畏怖し、想像を膨らませて猫又像を作ったと思われます〗


(それに、どうして尾が二又なの? 琴子も二又だったけど、何又にでも分けられるなら七又とか二十又とかの方が強そうじゃない?)


〖実際に怪我や事故でそうなった猫がいた可能性もありますが、単にその方が特異性を表しやすいからでしょう。伝承はさておき、妖族の方は直接聞いてみては?〗


 アイミスにそう言われてハッとする。

 そういえば琴子を待たせているのだから、アイミスに聞くより本人……もとい、本猫又と話せばいいんだよな。


(分かった、ありがとうアイミス)


〖いえ、ごゆっくり。今夜は存分に会話をお楽しみください。もしくは……こんやはおたのしみですね〗


(それだと意味が違って聞こえるよ⁉ 変なこと言わないで。あと、そのネタを言うなら明日の朝に「おはようございます。ゆうべはおたのしみでしたね」じゃないかな? 今言うのは早すぎるよ)


〖冗談です〗


 お茶目なアイミスにツッコミを入れたところで、ちょうど宿題も終わり。机の上を片付けてからベッドで寛ぐ琴子に目を向けると、彼女もこっちに気付く。


(終わったのにゃ?)


(うん。お待たせ。それじゃあ話そうか)


(やったにゃ! 朝までノンストップだにゃ!)


(ははは。お手柔らかにお願いします)



 ……そこからは本当にノンストップだった。

 なにせ眠らなくていい妖怪猫又と球体の僕である。障害は無いに等しい。


(じゃあ、その用務員さんが捨てたツナ缶が最初だったんだね)


(それまで色々な油を舐めてきたにゃけど、ツナ缶は別次元だったにゃ。あの味を知ったら行灯には戻れないのにゃ)


(それなら今度、買ってきてあげるよ。(ツナ)も食べるの?)


(食べられるにゃ。けどミケが欲しいならあげるにゃ。ウチは油でいいにゃ)


 彼女と過ごす間、話題が尽きることは無かった。

 互いの好きなこと、好きなもの。猫又のことに、人間のこと。ゲームの話に、漫画の話。今までの思い出や大切にしてること。話のネタはいくらでもある。


 ちなみに気になっていた尾の数だが、単に二又が一番楽なのだそうだ。

 一本だと二本ほど落ち着かないし、三本以上は長時間だと疲れるのだとか。つまり最もストレスが少なく、ちょうどいいのが二本らしい。


 それから、彼女は別に元々が猫というわけではなかった。妖怪の成り立ちは色々あるみたいだが、彼女の場合は生まれた瞬間から猫又だったという。

 日本の猫は弥生時代からいた説があるらしく、伝承の猫又は鎌倉時代あたりが初登場だとアイミスが教えてくれる。

 そして実際の猫又は鎌倉時代より前の平安時代初期に既に存在していて、そこから増えたり消えたりしつつ今に至ると琴子が説明してくれた。


(うちはたぶん、鎌倉って時代の生まれだと思うのにゃ。生まれた直後の記憶は凄くぼんやりにゃけど、海の上で鎧兜を着た人間たちが争っているのを見たにゃ)


(え? それってまさか……壇ノ浦の戦い⁉ 源義経、リアルで見たの⁉)


(ああ、あの飛び回ってた人間にゃ? 凄い雄叫びだったのにゃ。当時は煩いとしか思わなかったにゃが、そんな有名な人間だったのにゃね)


 この瞬間、琴子の年齢が八百歳以上であることが確定した。

 それにしても歴史上の偉人を生で見た人……もとい妖怪に会えるとは。

 この先もっと長生きな妖怪と会えたりしたら、邪馬台国とかネアンデルタール人を生で見た話なんかも聞けちゃうんじゃなかろうか。


(アイミス、僕、歴史の真実を掘り起こした人になれるんじゃない⁉)


〖地球史であれば恐竜の時代でも、生命初出現の時期でも、月が生まれた瞬間でも、全て球体のアーカイブに存在します。知りたければお教えしますが?〗


(……ですよね)


〖それから水を差すようで悪いのですが、歴史的発見は物証無しの伝聞だけというのは不可能かと。妖族から聞いたと説明しますか?〗


(……それは駄目だ。頭のおかしい人だと思われるね)


 アイミスに冷静な指摘をもらって落ち着いた僕は、再び琴子との会話を続ける。


 彼女が本当に源義経を見たことがあるとしても、それは友人の「芸能人と会った、握手してもらった」という話と同じだ。

 そもそも重要なのは書物や物品を伴う史実の証明で。アイミスの言う通り、僕が何を語ったところで一介の学生の妄想と思われて終わりである。


 そんなことより今は琴子との会話を楽しまねば。これからも彼女は歴史上の出来事を語るかもしれないが、それは彼女の思い出に過ぎないのだから。


(にゃん? ミケ、黙り込んでどうしたのにゃ? 眠いのかにゃ?)


(いいや、違うよ。歴史に思いを馳せていただけ)


(そうなのかにゃ。それより、もっと話すのにゃ)


(だね。いっぱい話そう)


 そうして僕と琴子は飽きることなく話を続けた。

 友達の家に泊まった時のように、心から会話を楽しみ続けた。いつまでも。





 ……やがて、カーテンの隙間から差し込んだ光が強まった頃。

 漸く満足したのか、琴子はベッドに大の字で寝っ転がると、静かに目を閉じた。


(……こんなに楽しい夜は久々にゃ)


(それはよかった。僕も楽しかったよ)


(ミケ、ウチとまた話してくれるかにゃ?)


(もちろん。いつだって話し相手になるよ)


 すると琴子は目を開き、僕を見ながらニコッと笑う。

 それに返すようにニコッと……したところで、アイミスの声が聞こえた。


〖……ゆうべはおたのしみでしたね〗


(それ、今言うかな? 台無しなんだけど)


〖失礼しました。ですが、そろそろ起床した方がいいかと〗


(え? うわっ、ヤバい! もうそんな時間なの⁉)


 僕は慌てて朝支度を始め、その後、時間ギリギリで学校まで走ることに。

 もちろん、登校は彼女も一緒である。



 そんな不思議な生活が、この先暫くの間、続くのであった。



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