q2「ラスターとは」
目を開けると、見慣れた鳥居が見えた。僕はいつの間にか地面に寝てたようだ。
さっき体がバラバラになって死んだと思ったのに、あれは夢だったのだろうか。
少し混乱したまま起き上がって周囲を見回すが、いつも見慣れた風景である。田畑と神社の鳥居、学校まで続く荒い舗装の道。天国にいるわけではないようだ。
立ち上がって土埃を払い、僕は何事もなかったかのように学校へ歩き始める。
さっきのあれは白昼夢か、それとも急に寝落ちでもしたのだろうか。
後者なら病院に行った方がいい気もするが……と思いつつ、道路脇にいた銀色の宇宙人に会釈して、足早に――――
ちょっと待って、なに今の。
慌てて振り返るが、そこには誰もいない。
幻覚か、それとも二度目の白昼夢か。どちらにせよ今日はこのまま病院に行った方が良さそうだ。
「ふむ。観察させてもらったが、不具合は無さそうだね」
声の主は、僕の斜め上からゆっくり降りてきた。そこにいたのは僕がさっき会釈した宇宙人だった。
どうして宇宙人だと思ったかといえば、全身がメタリックシルバーでいかにもな風貌だからである。人型だが毛は生えておらず、目鼻も口も耳も見当たらない。全身が流線型でCGのごとく滑らかだ。
「ふむ。新しいボディでも意識や思考にトラブルは無いようだね」
「な、な、な……」
「ふむ。落ち着きたまえ。混乱するのは分かるがね」
冷静沈着にそう言い放つと、宇宙人は地面に着地した。
そして滑るように僕の周囲を一周すると、再び正面に立つ。
「問題無さそうだね。原始的な知的生命体と上手くリンクするか不安はあったのだがね。それでは早速で悪いが、話を聞かせてもらおうかね」
「な、なに……あな、僕、どう……」
「おっと、まだ駄目かね。落ち着きたまえと言ったはずだよ? そのボディなら、すぐにフラットな精神状態になるはずなのだがね」
「……えっ?」
すると、スッと心が落ち着くのが分かった。
これがフラットな精神状態というやつなのか……じゃなくて!
「なにこれ、どういうこと? あなた、誰?」
「おや、まだフラットになれないかね?」
「それはたぶん、もうなってます……けど、状況が分からないから再び混乱しているんですよ」
「なるほど、そういうことかね。ワタシたちが意識統合型生命だからと他の生命体にも同じように通じる気になるのは、悪い癖だね」
「意識統合……何ですか?」
話の内容が全く分からず、僕は首を傾げる。
「それでは説明しようかね。ワタシはキミたちの言う宇宙人で間違いないよ。より正確に言うならば、ラスターと呼ばれる種族になるね」
「ラスター?」
「ものすごく簡単に言うと、此の世界で生物が進化の末に到達できる最終形態。個の意識が統合され共有している者たち全て、それを総称してラスターと呼ぶ。だからワタシが宇宙人というよりワレワレは宇宙人だと言った方がいいかね」
「ワレワレハウチュウジン……?」
なにやら聞き覚えのある言い回しに、僕は目の前の人物が実は全身タイツを身にまとった地球人なのではないかと疑いの目を向ける。
「ちなみに今、ワタシが話している言語や言い回しはキミの記憶やこの地域の標準的なものに倣っているだけだよ。違和感は無いはずだがね」
考えを見透かすようにそう話す、ラスターと名乗る宇宙人。確かに会話の違和感は無いけど、宇宙人が違和感なく会話していることが違和感なんだが。
それはともかく、この宇宙人のことはラスターさんと呼べばいいのだろうか。
「本当に宇宙人……なんですか? 仮装した地球人じゃなく」
「少なくともワタシの調査だと、地球人類は宙に浮かないはずだがね」
そう言って、ラスターさんはフワッと宙に舞ってみせる。
うん、たぶん人間ではないかな。ワイヤーや最新のVRでもないし。
「分かりました、そこは信じます。それで宇宙人のラスターさんが僕みたいな一般人に何のご用ですか?」
「急に淡白だね。まあいいか。目的はキミが遭遇した現象の調査だよ」
「現象?」
「キミの死ぬ直前の記憶情報を探った限りでは、見たのだろう?」
そう言われて、僕は謎の現象を思い出す。
だが今はそれよりも気になることがあった。
「……えっ? 今、死ぬ直前って言いませんでした?」
「ふむ。その説明がまだだったね。そう、キミは死んだよ。ワタシが新しいボディを用意したからこうしていられるがね」