q155「新たな日常とは」
時が経つのは早いもので。
僕はあっという間に、大学生になった。
龍を眷族にしてからというもの、僕の暮らしは平和そのもの。
まあ、たまに凶悪な妖怪や厄介な概念種が現れたりしたんだけど、そこは癸姫たちや校長先生たち、あるいは僕自身が対処して事なきを得た。
善良な妖怪もチラホラ現れたが、僕の家に住みついたのはUMAと龍で最後になった。シン族のことは秘密なのだが、近寄りがたいオーラでも出てるのか?
それはさておき、僕たちは三年生に進級し。相変わらずの賑やかさで楽しい日々を過ごしていった。
先輩たちが卒業した時は大騒ぎしたけど、今の時代は簡単に連絡も取れるからね。天野先輩なんてコッソリ美術室に遊びに来ているし。
そして僕たちも進路を定め、受験勉強に励んだ。
僕は宇宙科学系に、灰谷君は生物学系に、識那さんは民俗学系へと進んだ。遠野さんと黒大角豆さん、それと七曲君は地元で働くとか遠くの専門学校に行くとか言って、実際は再び小中学生からやり直すらしい。
なお、僕の選んだ大学は実家から通える距離にあったので、引き続き柳谷家は安泰。妖怪組の皆も居候継続中である。
「いい? お兄ちゃんに迷惑かけたりしたら……」
「「「サー! イエッサー!」」」
そんなふうに癸姫から釘を刺されつつ、妖怪組はたまに僕のキャンパスまで遊びに来たりもする。何故かたまにぬらりひょんまで。
「ギャハハハハ! 細けぇこたぁ気にすんなぃ!」
「大学に見える人がいたらどうするんですか」
「おぃの力なら、そいつらにも見えねぇからなぃ! 心配すんなぃ!」
ぬーさん、大妖なのに暇そうだね。
たぶん見回りとか色んな役目があってのことなんだろうけど、どうしても校長先生と比べてしまうんだよね。校長先生が忙しすぎるのかな?
「大学のキャンパスというのも楽しいものですわね」
「なんでここに居るんですか⁉ 山の管理は⁉」
「少しくらい大丈夫ですわ。わたくし神妖ですので」
何故か雪女の融乃さんまでいる。
こんな姿を見ていると、どうしても比べてしまうよね。校長先生、いつもお仕事お疲れ様です。苦労してそうですね。
「ほらほら、授業が始まるわよ、お兄ちゃん。いつまでも遊んでないで」
「ああ、ありがと……って癸姫まで何故に居る⁉ 小学校はどうした⁉」
「なに寝ぼけてんの? あたしはもう中学生で、家庭の事情によりココの近くの中学校に通ってることになってるでしょ。実際には行ってないけど」
「ストーカーなのにゃ……」
「馬鹿猫! マジで黙れ! 消されるのじゃ!」
「お姉ちゃん、怖いもの知らずは素敵だけど、本当にヤバいですニャ」
「勇者だポン」
僕のことがそんなに心配なのか、それとも信用されていないのか。
癸姫は最近、手を変え品を変え、必ずと言っていいほど僕の大学に出没する。この前なんて教壇に立っていたからなァ。
そんなことより、本当に急がないと授業に遅刻してしまう。
どれだけ機能が増えたとしても、時間を巻き戻す機能は無いのだから。
〖ありますけど〗
(あるんかい! 早めにください、それ!)
〖未熟者にはあげられません〗
(相変わらず辛辣だねぇ! でも、仰る通りです!)
アイミスも相変わらずである。
球体になってから四年近く経つが、どれだけ機能が解放されてもアイミスがいないと僕は駄目みたいだ。頼りにしてるよ、アイミス。
〖……〗
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そうして僕は真面目に大学生活を送り――――ここでも相変わらず厄介者は現れたが、癸姫や協力者たちの力もあって事なきを得て。
僕は無事に大学を卒業すると、地元にある小さな会社に就職した。
「いやぁ、意味不明だよな」
「いいんだって、これで。今の時代は副業もできるから、地元で親孝行しながら普通に生活できることが重要なんだから」
「それにしたって、大学まで出たんだから宇宙飛行士を目指すとかさ」
「なんでだよ。そっちの方が意味不明でしょ。宇宙に出たいわけじゃないし」
「意味不明ではないだろ。宇宙関連の学部で学んで、宇宙を目指すのは」
実は、大学で学んだことで分かったことがあった。
それは……大学に進もうが大学院に進もうが、地球の現状の知識ではアイミスの宇宙講座の足下にも及ばないということである。
だからこうして地元企業に就職して身動きが取れる状況を作り出し、収入は副業という体で株や動画作成など幅広く稼ぎ、未来へ向けての土台作りに勤しんでいるというわけだ。
有り体に言うなら、本来の天寿を全うしてからが本番で。
なんなら宇宙には今でも行くことができるので、そこから先の「宇宙進出」を考えるなら現状がベストなのである。
「灰谷君は、またフィールドワーク?」
「ああ。また月末からな。今度はオーストラリアだぜ」
「頑張ってね。珍しい生き物、たくさん見つかるといいね」
「おう。まあ、見てろよ? そのうち、動物図鑑のほとんどを俺の名付けた動物名で埋め尽くしてやるぜ」
「いや、それは無理でしょ。現存する動物名までジャックする気?」
そんな感じで、灰谷君とは今でも大の仲良しである。
……が、この時の僕は未だ知らない。
国外で事故に遭って死にかけた灰谷君を助けるため、あることをしたせいで……まさか灰谷君があんなことになるだなんて。
「そういえば識那さんとは相変わらずラブラブか?」
「ああ……えっと、うん。もちろんだよ」
「なんだなんだ、歯切れが悪いな? まさか喧嘩したのか?」
「……喧嘩なら、どれだけよかっただろうか」
「おいおい、本当に何があったんだ? 言いたくないなら聞かないけどさ」
……そして、識那さんにも。
まさか、あることをしたせいで、彼女があんなことになるだなんて。
「そ、それより灰谷君の方は? 彼女と上手くいってるの?」
「……それはもう。バッチリだだだだだぜぜぜぜぜ」
「……大変そうだね。言いたくないなら聞かないけどさ」
「いずれ話すよ。いつかきっと、必ずな」
実は、灰谷君の彼女のことも、僕は全部知っていたりする。
何故なら、そのお相手というのがライカさんだからだ。灰谷君とライカさんなら、そこまで問題は無さそうに思えるのだが。
(ねえ、アイミス? 灰谷君の精神は大丈夫そう?)
〖大丈夫かと。一つ目との交際も、愛の力が勝っているようです〗
(ならいいんだけど。まさか灰谷君が、そんなに怖がりだとは……)
妖怪と人間の恋愛かァ。
僕が言うのもアレなんだけど、大変そうだよね。ファイト、灰谷君。
なお、灰谷君は僕が妖怪を見ることができると知らないから、一つ目のことを僕に相談できない状況なのだ。ライカさんとのデートなら話すけど。
この状況も、そのうち解消するんだろうけど。とにかく、ファイト。
……そうして皆がそれぞれの道に進み、幾星霜。
僕たちの舞台は、遂に――――
777チャレンジ、5/7本目です。
あと二本!