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EXー5「柳谷癸姫の純愛」

番外編です。読み飛ばしても本編に影響ありません。



 我が名は綿津見宮(わだつみのみやの)癸姫(きき)。シン族の一柱なり。

 人間たちに分かりやすい言い方をするなら、竜宮城の乙姫様である。


 我が治めし綿津見宮は海の聖地にしてこの世の楽園。

 鯛や鮃が舞い踊ってはいないが、昔話にて非常に華やかに描いたことは褒めてやってもいい。なかなか見る目があるではないか。


 そう、我が綿津見宮こそ世の至高にして究極。

 つまりはそこを治めし我こそが世の至高にして究極である。



 ……そんな我に、ちょっと変わった話が舞い込みおった。

 依頼主は同じシン族の者たち。彼ら曰く、人間の子を育てることになったのだとか。人間社会に身を潜めるとか言っておった例の計画か。


 そしてどうやら、我にその守護を頼みたいという話らしい。

 確かに我ならばシン族とて完璧に守れよう。それに綿津見宮には父をはじめ最強格が山ほどいるのだから、我がここを離れても差し支えないのは事実。


 ……決してダラダラしたいとか引き籠りたいとかではないのだぞ?

 我にも綿津見宮の象徴として君臨する大事な役割が……。



 それにしても、何を馬鹿なことを。人間のような下等生物、我が守ってやる謂れなど無かろうて。しかも苦労して幼体を育てると?

 そんな酔狂に協力しろとは何事か。我は究極なる存在ぞ。


 まあ、最近はあまりに暇で食っちゃねしてばかりだし、我の他にそこまで暇なシン族がいないという話も分からんではないが。

 違うぞ? 我は君臨すれども統治せず、皆を成長させるために敢えて……





 なんやかんやあって、白虎と八上姫が家族を演じることに決まり。

 家の場所も人が多過ぎず、危険も少ない場所へと決定した。


 まったく、何故に我がこんなくだらんことに付き合わなければならんのか。

 まあ、我はいざという時に備えて神棚の中にでも眠っておればよいというから、引き受けてやらんでもないのだが。



 ハァ、まったくやれやれである。

 どれ、拾った赤子の顔でも拝んでから眠りに就くとするか。


 あまりに醜い子であれば、いっそ我が直々に八つ裂きにして終わらせてやろうか。我の手で人生を終えられるなど幸福の極みであろう?

 そう思い、対面を果た――――なにこれ超超超超超可愛いんですけどぉ⁉


 うっわ、やば! マジで可愛い!

 なにこれこんなめちゃかわなのそんざいするとかありえなくない⁉

 きゃわわわわわわわわわわわわわわ‼




 ……こほん。

 ちょっとだけ取り乱したけど、まあ暇だから付き合ってあげようかしら。


 べ、別に一緒に居たくて仕方ないとか、そんなんじゃないんだからね?

 とにかく。我……あたしは柳谷光明という人間の妹役になった。


 姉でもいいけど、妹の方が彼の責任感を育めるという理由で妹だ。

 なんだか周りのシン族たちが「とんでもございません! 御身が人の子の下位に下るなど……」とか言って猛反対していたけど、ちょっと本気で睨んだら黙った。チミたち知らんのかね、妹というのは下位ではなく、兄と生涯寄り添い合える関係なのだよ?


 正直、この子ならパートナー役でもよかったくらいだが、それは駄目だって。

 どうやら人間のパートナーは、色々と手順を踏まないとなれないらしい。


 ならば許嫁をと申し出たが、それだともう一軒家庭を用意しないといけないとかうんたらかんたら……面倒臭いなぁ。どっかの書籍に「親が海外に行くから、今日から突然許嫁と同居することに」とかいう物語があったじゃん? それだと駄目なのかな?


 ハァ、仕方ないなぁ。精々、それっぽい妹を演じてやるとするか。

 その代わり、最後はこの子は……光明ちゃんは、あたしのものだからね?


「ほんと、お兄ちゃんってば駄目駄目だよね」


「ぐっ! 癸姫は今日も辛辣だね」


「あたしのお兄ちゃんなんだから、もっとしっかりしてよね?」


「……姫、楽しそうですな」

「適任というか、はまり役よね」


 誰か今、ランドセルが似合い過ぎとか言わなかったか?

 違うからね? あたしは敢えて演技に徹しているだけなんだから。決して小学生マジ楽しいとか思ってないからね?




 ……ともかく、今のあたしは癸姫。ただの癸姫だ。

 綿津見宮の象徴としてのプライドも、今はどうでもいい。そんなことより、今はもっと大事なことがあるから。



 だから――――あたしの愛する光明ちゃんを守るためなら、この身がどうなっても構わない。綿津見宮も、居心地のいい幼女の身分も捨てたっていい。


 だから――――どうか、あたしにクソ龍から光明ちゃんを守れる力を。

 この身が粉々になって、死なないシン族とはいえ数百年の眠りを余儀なくされても、それでも構わないから。


 だから――――どうか、時間を巻き戻して。

 そうしたらクソ龍なんて他のシン族に丸投げで、あたしは光明ちゃんを龍の腹の中になんてやったりしないから。だから、どうか、どうか、どうか。


 どうか――――あたしの光明ちゃんを、返して。








 ……なんてことを思っていた時期が、あたしにもありました。


 だってさ、思わないじゃん?

 まさかあの光明ちゃんが、あたしでも手に負えなかったクソ龍を、あんなに圧倒するだなんて。いや本当にさ。



「これで癸姫を泣かせた分のお仕置きは完了かな」



 しかもさ、そんなこと言うとか、なんなの?

 何? あたしのために怒ったってこと? なにそれヤバくね?


 あたしも思わず「あ、う……」とか恥ずかしい返事しちゃったし。

 つーか、これはあたしじゃなくてもそうなるじゃん?



 ……こほん。

 ちょっと取り乱して言葉がおかしくなったけど、兎にも角にも。


 光明ちゃんのおかげであたしたちは無事に帰宅できて。

 しかも因縁のクソ龍は今や、光明ちゃんのペットである。


 ハハハ……あたし、実は綿津見宮の寝室で夢でも見てるのかしら?

 まさか、こんな展開になるだなんて。




 まさか、あたしが、このあたしが……こんな気持ちになるだなんて。




 べ、べ、べ、別に、人間ごときに本気になってなんていないんだからね!

 あ、あくまで、表面上だけ、愛する家族ってアレなんだから。ほんと、マジで本気とかありえないんだからねっ!








 ……あたしの名前は柳谷癸姫。シン族にして、偉大なる柳谷家の一員だ。

 これから先、あたしが将来の夢を聞かれたら、きっとこう答えるだろう。



「あたし、将来はお兄ちゃんのお嫁さんになってあげる! だってお兄ちゃんってば、あたしがいないと全然ダメダメなんだもん!」



 いい? あたしが、お兄ちゃんがいないと駄目ってわけじゃないからね?


 そこんとこ、間違えないでよね。フフフッ。



777チャレンジ、3/7本目です。

もうすぐ折り返し地点!

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