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q154「平和な日々とは」



 龍が眷族になった後、僕たちは愛しの我が家へと帰還を果たした。

 どういうわけか、行きでは鎮魂の対象だったはずの龍が、帰りには仲間に加わっている。不思議だなァ。


「ちょっと、貴方? 隙を見て暴れ出そうとかしないでくださいね?」


「と、とんでもございません。わ、我、自分の矮小さを思い知りましたので。け、決して主殿には、さ、逆らいません」


「本当に、何をしたらこうなるのよ……」


 龍は余程恐ろしいものでも見たのか、ガクガクと震えて怯えている。

 きっと自分とは桁違いの深淵でも覗いてしまったのだろう。ちょっと可哀想なことをしたかもしれないなァ。


「と、とりあえず傍に置いておいても心配要らなそうね」

「まさか、あの龍が、なあ……」


 父さんと母さんは、なにか不思議なものでも見るような目で龍を見つめる。

 長年の因縁の相手が隣にいるというのは、相当変な感じなのだろうな。


 ちなみに龍は僕の指示で人間の前腕くらいのサイズに縮小してもらっている。

 普通の人間には見えないとはいえ、妖怪やシン族には見えるからね。


「ニャ? 可愛いペットだニャ。ペットショップに行ってきたのニャ?」

「たわけ。そんなわけがないじゃろう」

「……なんとなく、近付くとヤバそうですにゃ。お姉ちゃんはわたしが守るにゃ」

「相棒、なにしたポン? そいつから先輩眷族(イリエ)と同じ雰囲気がするポン」

「パパ、凄いの。ぼくには分かるの。パパの株がうなぎ登りなの」


「……怖いものセンサーがビンビンに反応しているのねん」

「に、逃げ出したいんだな。でもココより安全な場所は知らないんだな」

「も、漏らしてしまいそうでっさー。そんなの出す部位は付いてないけど、心のオシッコがドバドバと漏れそうでっさー」


 龍に対する感想は各々で違うようで。琴子は相変わらず凄いね。

 僕の眷族になった龍は、僕の許可無く暴れたり、他者を傷付けることはできないようだ。ゆえに家の中で放任していても問題は無いはず。


「万が一、僕がいない時に家族とか仲間に危険が迫ったら、力を使ってもいいからね。皆を守ってあげてね」


「承知いたしました。我、この身に代えましても」


「全生物滅ぼすぜヒャッハーとか言ってたくせに」


「わ、我、そんなこと二度と言いませぬ。だからお許しを……ガクブル」


「別人じゃないかな⁉ どうしたらここまで変わるの⁉」

「人ではないから、別龍かしら」


 アイミス、本当にやり過ぎ。

 それにしても十二支の一角をこんなふうにしちゃって。今後の干支に影響が出たり……は無いか。十二支自体じゃなくて概念種だもんね。




 そんなわけで再び平和が戻って来た柳谷家。

 厄介な相手は暫く出ないだろうと言われたし、穏やかな毎日になりそうだ。


「……えっと、あの……さ」


「うん?」


「か、かっこよかった……よ? おに、おに、おにい……」


「そう? ありがとう。癸姫も凄く強くてビックリしたよ。癸姫の兄になれて光栄だね。これからもよろしくね、癸姫」


「ふぎぃ‼」


 なんだか戦いの後、癸姫の様子がたまにおかしい。

 これはアレかな、戦いで力を使い過ぎた反動ってやつかな?


〖こいつマジか〗


 アイミスが何か言いたげだったが、なんだろうね。

 そんなことより、いくら改造人間になろうが龍を眷族に加えようが、避けられない宿命というものが存在する。それを忘れてはいけないよね。



「はーい。それでは夏休み前、期末テストがありますからね」



 そう、僕は学生なのだ。つまり試験や学校行事からは逃れられない宿命。

 こればっかりは機能を駆使しても無理だ。頑張って乗り越えるしかあるまい。


「光明君、勉強してる? よかったら光明君の家で一緒にテスト勉強しない?」


「あ、わたしも入れて~♪ お菓子たっぷり持ってくからさぁ」


「勉強が目的なんでしょう? 仕方ないから監視役でわたしも……」


「いいんだけど、うちにUMAとか龍とかいるけど大丈夫?」


「なんだよ、それ。面白いやつだな」


「随分と賑やかだな、コーメイ。折角だから俺もお邪魔するわ」


「わたしも、別に行ってあげないこともないんだからね」


「天野先輩は学年違……まあ、来てもいいですけど」


「なんだなんだ? 賑やかだな?」


 まったく、僕ってば幸せ者だよね。

 灰谷君ぐらいしか仲のいい友達がいなかった僕だけど、気付けばクラスメイトに先輩に、ついでに先生や妖怪、挙句の果てに神様や龍なんて仲間まで加わって、寂しさを感じる暇なんて無いくらい賑やかな毎日だ。


 この先、色んな学校行事を楽しんで、やがて三年生になって。

 新しい出会いや別れ、ドキドキするような体験やワクワクする出来事に遭遇したり、充実した高校生活になるんだろうなァ。


 でも、いつまでも変わらない毎日ってわけにはいかない。

 いずれ、僕も大学生になるか就職するかで、この町を離れる時が来るかもしれない。もしかしたら国の外、いや僕の場合は下手したら星の外に行く可能性すらあるんだよなァ。


 そろそろ進路も考えないといけない時期だし、永遠を生きるからってボーッとしていたら後悔することになるだろう。

 何故なら、怠惰に過ごしていたら大切な人たちとの別れがあっという間に来てしまうだろうし、きっと最後の最後は僕だけが残っ――――



〖大丈夫ですよ。私が付いていますから〗



 ……もう、考えを読まないでってば。

 でも、アイミスがいてくれれば心配要らなそうだね。


 さて、まずは目の前のテストを乗り切ることだけ考えようかな。

 人生は――――じゃなくて、球体の一生は長いんだから。今を大事にしなきゃ、それこそ後悔するだろうから。



777チャレンジ、2/7本目です。

これは間に合うのでしょうか?

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