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q151「十二支とは」



「虎もね、厄介は厄介なの。人々のイメージで虎って、とにかく強くて負けるイメージが無いからさ」

「あれを鎮めるのは毎度大変でしたな」

「動物園ができて、どういう動物か広く知られるようになってからは、かなり楽になりましたけどね」


「へえ、そうなんだ?」


「昔の虎は、半ば伝説上の存在だったからな。その証拠に、白虎(わたし)がこうして最も強い存在の一角に選ばれているだろう」


 そう話す父さんの横で、癸姫は相変わらずどんよりした顔をしている。

 それはどう見ても、虎ではなくもう一方にうんざりしている様子だ。


「……虎はね、実在するからマシなのよ」


「えっと……つまり?」


「龍よ、龍。ドラゴンじゃなく、東洋の龍。実在しない伝説の存在。つまりは想像し放題で、いくらでも強くなり得るわけでしょ」


 癸姫は何かを思い出しているのか、どんどん言葉に力が入っている。

 その圧力は、同じ屋根の下にいる妖怪たちを震え上がらせるほどで。


「癸姫、落ち着いて。ちょっとオーラ、抑えてもらえる?」


「ガルルルル」


「ほーら、よーし、よし」


「キューン」


「小芝居してないで、話の続きを。姫」


 癸姫がクールダウンしたところで、話の続きだ。

 どうやら西洋のドラゴンと東洋の龍は別物らしく、癸姫が厄介だと話すのは東洋の長い胴体でお馴染みの龍らしい。


「ドラゴンはね、いいのよ。負けるパターンがたくさんあって、そのイメージに引っ張られて鎮まってくれるからさ」


「シ〇ゴジラと同じなんだね」


「でもね、龍はそういうのが少ないのよ。なんなら絶対に負けないみたいなイメージすらあるもんだから、とにかく毎回面倒でさ」


「毎回?」


 そういえば、そこも十二支の厄介なところなのだろう。

 なにせ十二年経てば、再び順番が巡って来るのだから。


「しかもね、あいつの厄介なところはね」


「うん?」


「正月とかの流行ってる盛りに暴れないところなのよ」


「え? それってむしろ、正月にゆっくりできて助かるんじゃ?」


「違うのよ! 概念種の力っていうのは、流行が発生した()()強まるの。だから知性の高い龍は敢えて、梅雨時期くらいに暴れようとするのよ」


「……ちょっとよく分からないんだけど、どういうこと?」



 これまたアイミスの力を借りて要約すると、こういうことらしい。

 流行の真っ只中だと、概念種の力というのは未だ最大値まで上がっていないわけで。その後、流行が落ち着き始めた頃に最大値を記録するのだそうだ。


 普通の概念種なら、自分の流行が何時まで続くかなんて分からない。だから暴れるとしたら、流行っている真っ最中になりがちなんだとか。

 しかし干支は毎年必ずあり、一年の流れというのも想像が付く。しかも他の概念種と違ってカレンダーなどで人々が日々意識しやすく、少しずつ力が注がれ続けるせいで、そうそう弱体化などしないという。


「なら、年末に暴れる方が強いんじゃないの?」


「秋くらいになると、次の干支に意識が向き始めるでしょ。そうなってくると流石に弱体化するのよ。あいつ、それが分かってて今なのよ」


「その前に鎮魂ってできないの?」


「活動していない概念種と鎮魂された概念種って、ほとんど変わらないのよ。だからシン族でも、鎮まっている個体をさらに鎮めるのは不可能なの。あいつが本当に厄介なのは、それを分かっててギリギリまで活動開始しないことね」


 実は龍の居場所は分かっているそうだ。だがしかし、シン族とて常時完璧に監視をし続けるのは無理なようで。

 龍もそれを知ってて、隙が生まれた瞬間を狙って大暴れし始めるのだとか。話を聞いているだけでも厄介さが伝わって来るなァ。


「一応、毎回暴れ出すのが今くらいと分かっているからね。重点的に監視を強めたりはするんだけどさ」


「監視役のシン族とて、龍が覚醒する瞬間までは分からんからな。桜が散る時期が分かっていても、目の前の一片の花がいつ散るか分からんようにな」


「そういえば白虎って、青龍と同じくらいの強さじゃなかった? 父さんは龍と拮抗しているわけじゃないの?」


「青龍と干支の龍は別物だからな。そもそも青龍殿はシン族であり、干支の龍は概念種なのだ。全盛期以外なら未だしも、この時期の龍に単独で挑めるシン族は居ないな」


「そんなに強いんだ……」


 人々が意識するだけで、それほどのパワーが生まれるとは。

 どうせなら、もっと正義の味方とかにパワーを……?


「あ! それなら正義の概念種に助けてもらうっていうのは?」


「ああ……それがなあ。概念種っていうのは、特殊な場合を除いて互いの存在を認識できんらしいのだ」


「え?」


「たとえば同じ作品の登場人物とかなら干渉し合えるけど、全く関係無い概念種同士は互いを見ることも触れることもできないのよ」

「だから、特定の悪役を倒したければ特定の正義の味方を連れて来ないと駄目ってわけ。今回の龍に至っては、そんなの居ないから無理ね」

「まあ、十二支なんて昔からある存在だと、そんじょそこらの概念種の力では太刀打ちできんから、どっちにしろ無駄だがな」


 なるほど。凶悪怪獣クラスならともかく、たまに負けるイメージもある正義の味方では相手にならないってわけか。

 それにしても、そんな凄いやつを毎回鎮魂できているだなんて、シン族っていうのは本当に凄いんだなァ。


「これまで必ず鎮魂できていたなら、龍も諦めてよさそうだけどね」


「それが、完勝ってわけでもないのよ」


「え?」


「さっき言ったみたいに、秋頃には弱体化するって分かってるでしょ?」

「一方で、シン族は多数いるのよね」

「だから、あまりに強い年は交代交代で戦いを引き延ばして、弱体化するまで堪えて辛勝してたんだよ」

「それでも影響が出て、災害とか起こってしまう年もあったわ」


 なんでも、過去には戦いの余波で地震や噴火など様々な影響が出たこともあったんだとか。そういえば今年も正月に……って、それは年始早々だから無関係か。


「そんなわけだから、あたしは有事に備えてるってわけ」


「なるほど。ただブラブラしてるだけじゃなかったんだね」


「そんなふうに思ってたの⁉ 違うわよ!」


「冗談だって。でも、知らない間に僕たちの生活を守ってくれてたんだね。改めてシン族の皆さんには頭が下がるよ。本当にありがとう」


「べ、別に、光明ちゃんだけのために頑張ってたわけじゃ……」





 ――――と、唐突に三人が窓の外へ視線を移す。

 あまりにもピッタリのタイミングで、同時にだ。


 流石の僕でも察しが付く。これは……。



「まったく、噂をすれば何とやらね」

「やれやれ、折角の家族水入らずの時間を邪魔しおって」

「今年はどのくらいの強さですかねぇ? 早く終わってくれないと、夕飯の支度が遅れちゃうのだけれど」




 ……所謂、フラグ回収ってやつかな。

 どうやら噂の辰年のアレ、行動開始したみたいだ。




<お詫び>


いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。

お知らせ?なのですが、私のPCが頗る不調でして。執筆中に急な再起動やフリーズが度々起こっていて、最悪の場合、そのまま起動できなくなる可能性を考慮し、念のためここに記しておきます。

なるべく早めに完結させたいと思いますが、完結前に更新が無くなったら察してください。その場合はPCの新調後の再開(すぐには無理かも)になると思いますので、予めご了承ください。

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