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q148「柳谷家の秘密とは③」



 ――――どれくらいの時が流れたのだろう。



 僕と両親、それからついでと言っては失礼だけど、妖怪組の皆も。

 この場にいる全員が、事の真相を語る癸姫こと乙姫の話に耳を傾けた。


 妖怪組の皆が聞いていいか微妙なところだったが、事情を知った方が協力を得やすくなるメリットと、あとは手綱を握りやすくなるとの判断があったらしい。

 実際、シン族の三人が「他で喋ったらどうなるか分かってるよね? まだ消滅したくはないよね?」と強烈すぎる口止めをしていたから、たぶん大丈夫だろう。あの琴子ですら「もちろんでございますにゃ」と力強く返事してたからね。


 話が終わると、癸姫は僕の手をギュッと握った。

 そして少し悲しそうな顔をして、僕の目を真っ直ぐ見つめた。


「忘れないで。それでも、あたしはお兄ちゃんの妹で、家族であることには変わりないんだから。お父さんもお母さんも。神だからとか関係無いよ。秘密にしてたことを許してくれなんて言えないけど、だから、どうかこの先も……」


「もちろん。癸姫は癸姫でしょ」


「軽っ⁉ 少しくらい怒りなさいよおおおおおおお‼」





 ……と、僕の代わりに癸姫がキレたところで、聞いた話を要約しよう。

 どうして僕がシン族三人……三柱と呼ぶべきか。そんな存在と、家族として暮らしていたのか。


 遡ること二千と数百年。昔は人間もシン族や妖怪など人類以外の存在を認知していて、それなりに振舞っていたから問題は無かったらしい。

 だが、時が経つにつれ、それらは徐々に忘れられて行き。同時に人類が数を増やし、人類同士の結束を強め始める。


 結果、人類は人類以外を畏れ、やがて「シン族」と「化け物」が同じ意味合いで語られるようになった頃。

 シン族たちは、とある決断を迫られることになる。


 それは、愚かな人類を見放して人類以外と共に地上を治めるか。

 それとも繁栄し続ける人類と一定の距離を置き、隠れて人類を見守るか。



 ……シン族が選んだのは、人類を愛し続けることだった。

 たとえ下位の存在(にんげん)から嘲笑され、疎まれたとしても。それでもシン族たちは人類を見放すことができなかったらしい。


 そして一部のシン族は人々から離れ、人類以外の守護者として存在し続けた。

 また別の者は長い眠りに就いて。他の者たちも、それぞれ思うがままに。


 だが極一部のシン族たちは、それでも人類の傍で人類を見守りたいと、ある計画を実行に移したのだという。それがこの「疑似家族計画」であった。

 人類の最も近くに身を隠し、人類と共に歩む。それも一人の人間として、だ。


「……ってことは、僕はシン族じゃないんだよね?」


「光明ちゃんは正真正銘、ただの人間よ」

「今は改造人間だがな」

「どっちでもいいじゃない。私たちの可愛い光明が死なずに済んだのなら」


 話を聞いた限りでは、僕以外にも何も知らないままシン族に育てられている人間というのが、世界中に一定数いるらしい。

 その全てが何の変哲もない普通の人間で、もちろん改造人間なんかじゃない。


「えっと……ちなみに僕の生みの親は?」


「それ、聞いちゃう? 聞きにくいはずのこと、そんなあっさり聞いちゃう? まあ、深刻そうにしても仕方ないからスパッと話しちゃうけどさ」


 そうして癸姫が聞かせてくれた僕の生みの親の話。

 それは癸姫の軽い口調とは裏腹に、それなりに重い話であった。



 ――――まず、僕が生まれた経緯なのだが。

 母である女性は、不幸体質の人だったらしい。


 彼女は酒の席で見ず知らずの男性と意気投合し、そのまま酒の勢いで一夜を共にしてしまったのだとか。

 翌朝、母が起きると男性の姿は無く。僕の父に当たる人が誰なのか分からないまま、母は身籠ったという。


 その後、母は僕を産むことを決意したのだが。

 産まれた僕を連れて久々に酒を飲んでいたら、酔いのせいで僕を道端にうっかり置き去りにしてしまい。そのまま千鳥足で彷徨った結果、急性アルコール中毒で人知れずポックリ逝ってしまったそうだ。


 ……うん、ツッコミ所が山のようにあるけれど。

 とりあえず言えるのは、どんな時でも酒はほどほどに、特に赤子を連れてたら酩酊するなってことかな。というか出産前も後も飲まないでほしかった。


 あと、母のそれは不幸体質などではなく。おっちょこちょいか、あるいはドジっ子の類いだと思う。駄目人間とも言えるね。

 というか妊娠も急死も酒のせいというか、自業自得だよね。自分の生みの親に辛辣なこと言っちゃうけども。


「そんな苦笑いするしかない状況で、不幸にも光明ちゃんは放置されたまま誰にも発見されることなく死ぬ運命にあったのよ」


「最悪の結末⁉ むしろ僕が不幸体質じゃない⁉」


「まあ、だからというわけではないけど。それなら我々で育てることにしようかと話し合いがなされてな」

「ちょうど、この時代での潜伏先を探してたのよ。べ、別に光明ちゃんが可愛かったからじゃないんだからねっ!」

「うふふ、そうよねえ。私と虓甲さんが名乗りを上げた時、有無を言わせず強引に妹役で割り込んでましたものねえ」

「ぎゃあ⁉ な、なんでバラすのよ⁉ お母さんの馬鹿ぁ‼」


「えっと……なんて言うか、本当にありがとうございました。三人は家族ってだけじゃなく、僕の命の恩人でもあったんだね」


 まさか自分にそんな過酷な運命が訪れていようとは。

 真実を知った僕は、三人に心から、本当に心からの感謝をした。


「ちなみに父親の男はその後、バンジージャンプの紐が切れて即死したわ」


「ちなみに……で言うことじゃなくない? しかもサラッと」


「だって、深刻そうに伝えたところで精神的ダメージはゼロなんでしょ?」


「確かにこの体、フラットにはなるけど! ええと……重ね重ねありがとうございました! 三人がいなかったら本当にどうなってたか! 今さらだけど父さんも母さんも癸姫も、愛してるよ‼」


 若干やけくそ気味な伝え方ではあったが、父さんも母さんも照れて嬉しそうだったから、よしとしようか。

 だけど癸姫だけは反応が変だ。なんで「実の妹だから結婚は無理だよぉ。でも、今から幼馴染設定に変えてしまえば……」とか言って顔を赤らめてるの?


 まあ、でも最低な生みの親ではあるけれど、産んでもらったことには感謝しないとね。おかげで今、最高の環境にいるわけだし。

 それに友人とも妖怪の皆とも、生まれていなければ出会えなかったわけで。


 僕は心の中で「産んでくれてありがとう」と顔も知らぬ母に向かって呟いた。

 自分が酒の力で生を受け、酒の力で今の家族や友人たちと出会えたという事実は、ショックなことこの上ないけれど。


 それでも僕は今、こうして生きていて、そして幸せに暮らしているのだから。

 結果よければ全てよし、ではないけれど。それでもまあ、一件落着なのかな。


「うん、よかった、よかった」


「そうね。明日からもよろしくね、お兄ちゃん」

「何も変える必要は無いからな。これからも存分に甘えなさい」

「そうよ。悲しい時はお母さんの胸に飛び込んで来てね」


「いや、恥ずかしいって。僕、もう高校生なんだから」


「……ふう、肝が冷えたにゃ」

「一件落着じゃのう」

「運命共同体だポン」

「ありゅじしゃま~あいかわりゃず、しゅきぃ~」

「パパは最強のパパなの。でもお酒には気を付けるの」

「雨降って地固まる、ですニャ」


「よし、話も纏まったところで……」




「ちょ、ちょっと待ってほしいのねん⁉」




 ……一件落着ムードの中、何故か必死に懇願する者が三名。

 僕たちに注目されつつ、その三名は勇気を振り絞ってシン族に土下座した。


「お願いですのねん! 我輩たちの記憶を消してほしいのねん!」

「それで、家の外にでも放り出してほしいんだな!」

「こ、こんな恐ろしい家にいるなんて御免でっさー! 一生のお願いでっさー!」


「もう遅いわ。話を聞いたからには……」

「一蓮托生よ」

「ハッハッハッ、諦めろ」


「「「そ……そんなぁ⁉」」」




 ――――こうして、気軽に他人(ひと)の家に転がり込んだ怖がりのUMAたちは、この世で最も恐ろしい存在たちとの同居を余儀なくされたのであった。


 まさかこんなことになるだなんて、思いもしなかっただろう。

 でも自分から転がり込んだわけだから、因果応報ってやつだよね。




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