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q144「変容とは」



「随分と立派な家に住んでるのねん。その歳で成功者なのねん?」


「いや、僕が建てた家じゃないから。両親の努力の賜物だから」



 UMAと出会い、交流を深めた、残ね……もとい素晴らしい休日。

 その末に到達した最悪の結末に、僕は諦めの境地に至っていた。


「満足した? それじゃあ、お帰りはあちらからどうぞ」


「と、とんでもないのねん。我々三人だけで人間のいるところを歩くなんて、恐怖で脱皮しちゃうのねん」


「ツチノコって脱皮するの? というか、まさか僕の家に上がるつもりじゃないよね? ハハハ、まさかね……」


「これからここが我が家なのねん」

「というか、今さらなんだな」

「付いて来た時点で察するでっさー」


「嘘でしょ⁉ でもそんな気はしてた!」


 博物館で話し込んでいたら「続きは移動しながらにするのねん」とか言い出したから、おかしいとは思ったんだ。あと嫌な予感もしてた。

 でも、まさか僕の家に来るだなんて。世界中の誰よりきっと熱い夢……もとい、世界中の誰一人として夢にも思わなかったはずだ。


〖学習能力が……〗


(能力が何? 言いたいことは分かるけど、ちょっと黙っててもらえる?)


 とにかく、来てしまったものは仕方がない。今さら一体増えようが三体増えようが然程の変化じゃ無いし。

 そう自分に言い聞かせ、僕は三体のUMAを部屋へ招き入れる。



「……というわけで、ツチノコとイエティとチュパカブラです」



「なんてもんを連れて来とんのじゃ、おのれは」

「節操無しにゃ」

「流石だポン、相棒」


「恐れ戦くがいいのねん! 我輩こそ、彼の有名なツチノコなのねん! アオジタトカゲとかいう実在の蛇とは違う、正真正銘の本物なのねん!」


「自分でそれ言うの? あとアオジタトカゲは蛇じゃなくて蜥蜴だと思うよ。アオジタ()()()って言ってるくらいだし」


 僕が他の妖怪とも親交があり、我が家にも何人か住んでいるという話を、道中でUMAたちに話してあった。とはいえ簡単に受け入れ過ぎでは?


 ともあれ、どうやらUMAにとって妖怪は同族扱いのようで。

 UMAトリオは臆することなく妖怪組の皆と相対し、鼻息を荒くしている。どうやら怖いのは人間だけみたいだ。


 陽キャな妖も怖いって言ってたけど、琴子やポンちゃんは違うの?


「オデはイエティの白っていうんだな」

「拙者はチュパカブラの赤、そこのはツチノコの青でっさー」


「まーた濃い面々を連れて来たものじゃな」

「覚えやすい名前だポン」

「話には聞くけど、会うのは初めてですにゃ、UMAっていうのは」


「天下のツチノコ相手に冷静すぎると思うのねん。もっと興奮して、崇め奉っていいのねん。それとも緊張してそういう態度なのねん?」


 白さんと赤さんは比較的スムーズに馴染んでいるが、何故か青さんだけ上から目線である。ツチノコって妖怪の界隈でも珍しいのかな?

 そんなことより、何百年も生きているはずの琴子たちが会ったことないというのは意外だ。赤白青トリオはいったい、何時から存在しているのだろう。


「そういえばUMAって、わりと最近の妖……怪?だよね。いつ生まれたの?」


「生まれは大昔なのねん」

「たぶん、人間の暦で言う平安時代とかでっさー」


「は⁉」


「オデたちは元々、対峙した人間に合わせて姿を変えて驚かす類いの妖怪だったんだな。それが人間たちの強いイメージを受けて、UMAってものに変化したのが今のオデたちなんだな。謂わば()()()の成りそこないみたいなものなんだな」


「そうなの?」


 白さんらが言うには、UMAとは狐狸精など人を化かす狐や狸の系譜の一部が、時代とともに変化したものなんだとか。


 狐や狸と混同されてはいたものの、白さんたちは豆狸(ポンちゃん)みたいに如何にも狸という妖怪とは違い、定まった姿かたちが存在しないらしい。

 非常に曖昧な存在ゆえ、その時代時代で人々の流行り廃りの影響を受けやすく、()()UMAでも未来ではどうなるか分からないそうだ。


 ちなみに日本以外でも、呼び名が違うだけでUMAの大元は大体が狐狸精の類いみたいだ。ネッシーの正体が狸とか言われると、ピンと来ないけど。


「というか、概念種って?」


「概念種は、妖怪とも違った存在のことなのねん」

「人間はもとより、()()が生んだ強いイメージが姿かたちを得たものでっさー」

「オデたちと違って、一度得た姿かたちは変わらな……」


「ちょ、ちょっと待つのじゃ!」

「それ、ミケに教えてしまっていいのかポン?」


 すると突然、妖怪組の面々が話に割って入る。

 僕が呆気に取られていると、赤白青トリオが急激に青褪めた。


「あっ……」

「やっちまったのねん」

「あんまり自然に妖と同居してるから、つい……」


「なに? 僕が聞いちゃマズい話だった?」


「あんまりよくはないですニャ」

「ミケなら大丈夫とは思うがのう。とりあえずは他言無用で頼むのじゃ」


「うん、分かったよ」


 よく分からないけど、たぶん雪女の融乃(ユノ)さんが口を滑らせた時と同じ感じだろう。僕の容量(キャパシティー)的にこれ以上は無理だから、今回もまた聞かなかったことにしようっと。


〖概念種とは――――〗


(説明しようとしなくていいから! もうお腹いっぱいだから!)




 ……それにしても、僕の部屋も随分と賑やかになったものだ。

 一年前は数少ない友人がたまに遊びに来るくらいだったのになァ。


「お近付きのしるしに、一緒にツナ缶食べるにゃ。というわけだからミケ、ウチらにツナ缶を買ってくるのにゃ」

「たわけ! それが人にものを頼む態度か! 猛省するのじゃ!」

「というか、UMAはツナ缶食わないと思うポン」

「お姉ちゃんは今日もキュートですニャ」


「とりあえず我輩の銅像を作ることを許すのねん。ぬいぐるみでも可なのねん」

「オデもぬいぐるみを作ってほしいんだな。モフモフのがいいんだな」

「白まで乗っかったら駄目でっさー。てかツチノコなら既製品があるでっさー」


 ワイワイガヤガヤと騒ぎ続ける皆を見て、煩いなと思いつつも……僕はなんとも言えない幸せな気持ちになっていた。

 次々と押し掛けて来るのは正直困るけど、これはこれで得難い奇跡のような出会いなんだよね。一年前には想像もしなかった、種を超えた友達。


 そんなふうに考えて、僕は改めて皆をゆっくりと眺める。

 騒がしくはあるけれど、ずっとこんな光景が続いてくれれば――――








「……いい加減に、しるぉおおおおっ‼」








 ――――僕の願いとは裏腹に。


 その日、()()()に激震が走った。



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