q141「暇潰しとは」
二年生に進級し、後輩……かっこ都市伝説系妖怪かっことじ……もできて、さらに賑やかさを増した僕の学校生活。
学校行事や生徒会の補佐も忙しく、休みも灰谷君や識那さん、それに妖怪組の皆に振り回されて退屈しない毎日である。
そんな僕だが、暇を持て余す日だって無いわけじゃない。極稀にではあるが、たまたま何の予定も無い日が舞い降りてくることだってあるのだ。
「ねえ、明日は何か……」
「おっと、すまんのう。ワシらは校長先生に呼ばれておってな」
「たぶん、お説教だにゃ」
「だとしたら十中八九、猫又姉妹のせいだポン」
「お姉ちゃんがすみません、すみませんニャ」
「ギャハハハハ! そこで自分と思わんのなぃ!」
「パパ、ぼくは暇なの。明日は二人っきりでミッドナイトなの」
「おっと、逃がさんのじゃ。たまにはミケをワシらのお守から解放してやろうという意図じゃろうからのう。今回は件も来るのじゃ」
「みなしゃま~いってらっしゃいましぇ~」
当たり前のようにいるぬーさんとか、当たり前のように留守番のイリエとか、ツッコミ所は多いものの。とりあえず明日は妖怪組は別行動らしい。
「そうだ。なら、たまには識那さんと二人きりで……」
〝ごめんね。明日はお母さんと一緒に出かける約束があって〟
「それなら仕方がないよね。じゃあ、灰谷君に……」
〝すまん。隣県でペットフェスがあってな。どうしても外せん〟
そういう日に限って、皆の予定というのは重なるもので。
一応、妹の癸姫にも声をかけてみたが、明日は友人たちと遊ぶのだとか。
「ええ……こんなに偶然が重なるのも珍しいなァ」
〖私は何もしていませんよ〗
「うん、まだ何も言ってないけどね? というかアイミスのせいだったら怖すぎるから。どうやって因果律いじってるのさ?」
そんな冗談を言いながらも、僕は頭を抱える。
流石にここまで暇だと困ってしまう。最近は誰かと何かをするのが当たり前になってしまっていたから、急に一人きりになっても何も思いつかない。
「ありゅじしゃま~しゅきぃ~」
そう、急に一人になっても何もすることが無いのだ。
敢えてイリエや凶悪妖怪、先輩たちや後輩たちに声をかける必要性も感じられないし、だとしたら明日は何しよう?
「……とりあえず、折角の休日なんだし。どうせ疲れないなら、思い切って普段行かない場所にでも行ってみようかなァ」
〖近くの湖など、いかがでしょう?〗
「嫌だよ。絶対に遠野さんが裸で泳いでるじゃん。どうせなら、あみだくじでも作って運任せで行き先を決めるってのはどうかな?」
〖いいですね。候補地は学校と商店街と湖ですか?〗
「だから嫌だってば。なんで全部、妖怪がいそうな場所ばかりなのさ。こういうのはスマホで地図検索して……っと」
そう言って、僕はスマホの周辺地図から適当に行ったことのない場所を何か所かピックアップしていく。高校生になったとはいえ、意外と近場でもまだ行ったことのないエリアというのは多いものである。
「それで、まずは場所決めのあみだくじだ。えっと……」
一日で充分行ける範囲からピックアップされた数ヶ所の候補。その中から選ばれたのは、隣町のさらに隣町、さらにその隣にある小さな村で。
「馬賀居村かァ。一度も行ったことない場所だなァ」
さらに地図や観光情報を調べ、その村の名所をピックアップし、同じようにあみだくじで候補地を決めていく。
そうして選び出されたのは、思いがけない場所であった。
「……ははは。ちょっと今日のところは、あみだくじの調子が悪かったみたいだね。仕方がないから、もう一度最初から……」
〖おや、一度決めたことを覆すのですか? 男らしくないですね。怖くなったんですか? 逃げるんでちゅか?〗
「いや、なんで煽ってくるの? だってコレ、嫌な予感しかしな……」
〖はい、ビビリ。そうでちゅね、次もどうせ逃げるんでちゅよね~〗
「だから何で煽るの⁉ 分かったよ、行きます。行けばいいんでしょ? というかアイミス、絶対に面白がってるよね?」
行き先として偶然にも選ばれたソレに、僕は誰かの思惑を感じずにはいられなかった。アイミス、本当に因果律とか弄ってないよね?
何故なら、その行き先とは――――
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「ふう。やっと着いた」
〖近代的かつ前衛的な素晴らしい施設ですね〗
「どこがだよ。どう見ても田舎の手作り感満載な珍スポットだよ」
そう言って、僕は慌てて周囲に視線を向けた。
うっかり空間認識を意識するのを忘れていたから、今の悪口っぽいのを誰かに聞かれてないかと焦る。
だが、周囲に人の気配は全く無く。
施設の中にすら、人の気配は一つも存在していなかった。
「あ、ここに張り紙があるね。えっと……ご自由に見学してください。御用の方は、こちらの番号まで電話を……って、不用心すぎない?」
〖田舎ではこういうの、珍しくないですよ〗
「アイミスのそれは誰目線の意見なの? まあ、こうやってアイミスと気兼ねなく話せるのは助かるけどさァ。本当にこれでいいのかなァ……」
〖このような場所では誰も悪さをしないでしょうし、何か盗まれたとしても痛くも痒くもないのではないでしょうか〗
「まあ、そりゃそうだろうけども……」
そう言いながら、僕はあみだくじで行き先を決めた昨日の行いを後悔していた。よりにもよって、こんな場所が当たるだなんて。
馬賀居村という名前からこじつけたらしいけど、今の僕にとっては笑えないんだよなァ。こういう施設に入るのって。
「ハァ。それじゃあ、さっさと入って帰ろうか……」
〖そうですね。たっぷりと楽しみましょう〗
「いや、楽しめないってば。何事も無きゃいいけど……」
〖フラグですね? ビンビンにフラグですね?〗
「楽しそうでいいなァ。こっちは嫌な予感しかしないってのに……」
そうして僕は、明らかに手書きで書かれた木製の「UMA博物館」という看板を横目に、憂鬱な気分のまま施設へと足を踏み入れるのであった。