EX-4「妖怪たちの四月馬鹿」
番外編です。
ゆる~くお楽しみください。
「河童の嘴って、実は着脱可能なんだわ」
「……」
春休みが明ける数日前、四月の一日のこと。
ひょんなことから僕の部屋に集まった妖怪組の面々が、ここぞとばかりに年に一度のイベントに興じていた。
「座敷童子はの、家の天井であれば逆さに立つことができる。つまりは、天井を走り回ることもできるんじゃよ」
「豆狸の正体は、実は大妖怪団三郎狸であり、芝右衛門狸でもあり、太三郎狸でもあるんだポン。恐れ多いポン」
「有名な日本三名狸だね。けど、恐れ多いって言っちゃってる時点で嘘だよね? あと鈴子の話が本当なら、今ここで走ってみてよ?」
「イケズじゃのう」
「ねぇねぇ、ミケちん? わたしの嘴、着脱可能なんだぜぇ?」
「……」
四月馬鹿はかなり昔からあったみたいだが、ここには大昔から存在していた生き字引的な妖怪たちがわんさかいる。
皆が本気になれば、僕たち人間には確かめようがない嘘だって軽々吐けてしまうだろう。今は何故だか、しょうもない嘘ばかりだが。
「えっと、猫又は実は……犬にゃ!」
「雑、雑。嘘が雑すぎるって。せめて、猫又って実は妖怪じゃなく山猫の一種なんだ、くらい言ってよね」
「そうだったのかにゃ⁉」
「いや、おのれが騙されてどうするのじゃ」
「お姉ちゃん、猫又はれっきとした妖ですニャ」
そもそも、妖怪というのは人を化かして喜ぶ存在なのだ。
化かすと嘘を吐くでは微妙に違うかもしれないが、美女に化けて男を騙す妖怪だとか、か弱い女性のフリをして男を沼に引きずり込む妖怪だとか、和風美人の装いで男を脅かす……ともかく人を騙すという意味で妖怪は、エイプリルフールの申し子的な存在なのである。
まあ、一部人間に騙される妖怪もいたりするけれども。
「ケケケ。一つ目は実は、小さい目玉がもう一つあるのですよ。なので正確に言うと、二つ目でございます」
「二つ目じゃ、ただの人間じゃないですか。というか、いたんですね」
「パパ、三日後にラッキースケベが待ってるの。その日は瞬き禁止なの」
「いや、瞬きしないでいたら不気味に思われ……ちょっと待って? それってエイプリルフールの嘘だよね? ガチで件の予言じゃないよね? そうだとしたら話が変わってくるし、そもそも……」
「ケケケ。目が本気でございますね」
「ツッコミが大渋滞してるポン」
「件がそういうこと言うと、ややこしいのう」
「ミケ、男の子だにゃ」
コホン。ちょっと取り乱してしまったけど、気を取り直して。
妖怪組の皆はテンションを上げ、我先にと僕に向かって嘘を浴びせてくる。そんなに今日のイベントが楽しみだったのかなァ?
「ミケちん、ミケちん。河童の嘴ってさ……」
「……」
「ちょっと⁉ なんでわたしの時だけノーリアクションなのかな⁉ もう少し構ってくれてもよくない⁉」
「だって、しょうもないんだもん……」
「それはわたしだけじゃなくね⁉ ミケちん冷たいわぁ」
「日頃の行いのせいじゃな」
「自業自得にゃ」
そうしていると、不意に部屋の窓へ珍客が姿を見せる。
「一反木綿の体、実は徳川家康の褌でできています」
「急に現れて嫌な嘘吐くなァ。というか、そのためだけに来たの?」
「てへぺろ♪」
「いや、てへぺろじゃなく。本当に何しに来たの?」
「それではまた、お会いしましょう」
「いや、本当にそれだけ言いに来たの⁉ 暇人すぎない⁉」
「人じゃないにゃ」
「お姉ちゃん、そこじゃないニャ」
まさかこの後、他の妖怪たちまで来たりしないよね?
そんな不安に駆られたが、どうやら珍客は一反木綿だけだったらしく。そういえばライカさんも珍客ではあったか。
「そういえば相棒? 校長先生が入学式の在校生代表の挨拶を頼みたいって言ってたが、連絡は来てたポン?」
「えっ⁉ いや、初耳なんだけど⁉」
「嘘だポン」
「嘘かーーい! リアルで嫌な嘘吐くなァ……」
「いえ、それは嘘ではありませんね。本当に仰ってました」
「はあっ⁉」
「嘘でございます。ケケケ」
「心臓に悪いわ! そういう嘘は本当に止めてくれないかなァ⁉」
お茶目なポンちゃんとライカさんに冷や汗をかかされたものの、嘘でよかったとホッとする。嘘……だよね?
それにしても妖怪たちと来たら、ベラベラとよくもこう自然に嘘を吐けるものだよね。流石は職業嘘吐きな種族である。
「えっと、ミ、ミケの服の乳首のトコ、穴が開いてるにゃ!」
「いや、もうちょっとマシな嘘を吐かんかい。おのれは阿呆か」
「お姉ちゃん、可愛いニャ」
「姉馬鹿は今日も全開だポン」
「うんうん、そうだね。琴子はずっとそのままでいてね」
「ミケちんも癒されてんじゃないわよ。贔屓が過ぎるって」
嘘が下手な妖怪にほっこりしたところで、僕のスマホにメッセージが届く。
何かと思えば、それは灰谷君からであった。
〝コーメイ、ビッグニュースだ。今年からエイプリルフールが廃止になったらしくて、その日に嘘を吐いても許されないらしいんだ。だから下手すると逮捕されるって世界的に報道されてたぞ〟
「マジかにゃ⁉ ウチ、もう嘘吐いちゃったにゃ‼」
「いや、これが嘘だから。そもそも妖怪には逮捕、関係無いし」
「この阿呆は、なんでこうも簡単に騙されるんじゃろうな」
「妖怪なんだから、人間に騙されてちゃ駄目じゃね?」
「お姉ちゃん、可愛すぎるニャ」
「姉馬鹿、いい加減にするポン」
「パパ。そういえば昔の四月馬鹿は、嘘吐いていい代わりに愛娘と結婚するって風習だったの。だから今夜は初夜なの」
「なにその限定的すぎる謎風習は。光理の場合、エイプリルフールっていうか……むしろいつも通りでしかないよね。あと僕、まだ嘘吐いてないし」
「ミケちん、聞いて驚け! 実は河童の嘴って着脱可能なんだぜぇ?」
「なんでそれ、まだイケると思ったの⁉ もういいから!」
こうして、僕と仲間たちは新年度も相変わらず賑やかに過ごすのであった。
ほんと、しょーもない嘘ばっかりでよかったなァ。