q140「都市伝説とは」
暫く間が空いてしまい、申し訳ございません。
今日からまた再開したいと思います。どうぞよろしくお願いします。
「というわけで。あたし、メリーさん」
「アタシ、口裂け女。ねえ、アタシ、キレイ?」
「トイレの花子さんです。よろしくお願いします」
「……光明君? なにこれ、新手の浮気?」
「なんでだよ⁉」
色々とあった今日この頃。
僕はどういうわけか、自宅で都市伝説系妖怪三人衆と一緒に識那さんと対面していた。ほんと、どうしてこうなった?
「改め、あたし川谷花子です。高校一年生です」
「あたし、メリーさん。改め、滝村五月よ。同じく一年生」
「アタシ、口咲輝夜。アタシも一年生です」
「……口咲さん? 語尾はいいの?」
「せんぱぁい⁉ わざわざ掘り返さないでもらえませんかねぇ⁉ 人が折角、自然な流れで皆の記憶から消そうとしてたのにぃ!」
「あ、ごめん。敢えて語尾付けてなかったのか」
「語尾? 光明君、なんの話?」
「ほらぁ、食い付かれたじゃないですかぁ! 先輩死ね!」
識那さんへの自己紹介から一転、後輩に殺意を向けられたわけだが。
それはともかく、新たな面々も無事に識那さんと顔合わせを済ませることができて、ひと安心である。こうして紹介しておかないと、まるで僕が新入生たちと妙に仲良くしてるみたいで識那さんに不審がられてしまうからね。
そう、今日の集まりは正にそのためで。
ちょうど下校時間に識那さんと一緒だったところに都市伝説三人娘が現れたので、これはチャンスと顔合わせを提案したのだ。
……どうしてこうなった~とか言ってたけど、原因は僕です。はい。
「三人は仲良しなんだね」
「あたしと花子は昔から仲良しよ」
「アタシもでしょ⁉ 親友と書いてライバルと読むでしょ⁉」
「輝夜ちゃん、そこは強敵と書くのが普通だと思うよ?」
「まあ、同じ都市伝説系の妖怪だもんね」
「こんなのと一緒にしないでほしいわね」
「アタシをこんなのって言うな!」
「二人とも、落ち着いて。喧嘩しないの」
「アハハ、本当に仲良しだね」
僕と識那さんが微笑ましく彼女たちを眺めていると、突然滝村さんと口咲さんが目をキラリと輝かせた。
「我ら三人!」
「……え? なに? なんであたしの方を見るの?」
「ちょっと花子! 前に打ち合わせたでしょ⁉ ヒソヒソヒソ……」
口咲さんに耳打ちされた川谷さんは「ああ!」と何かを思い出したように手を叩き、どういうつもりか二人と同じように目を輝かせる。
「我ら三人!」
「う、生まれた日は、違えども!」
「死ぬ時はきっと一緒よね!」
「「「ズッ友の誓い‼」」」
「……三国志のオマージュかな? 微妙に違う気もするけど」
「桃園の誓い、だね。アハハ、面白~い」
急に何が始まったかと思えば、なんだこの小芝居。茶番が過ぎるよ。
川谷さんが忘れてたってことは、打ち合わせた「前」というのは相当昔だったのかもしれないな。彼女たちも実年齢はかなりアレだろうし。
「うう、やっぱり恥ずかしいよぉ……」
「馬鹿ね。こういうのは思い切りが大事なのよ」
「そうそう。やり切ってしまった方がダメージは少ないものよ」
「お、珍しく同意見だね。二人とも」
「……屈辱だわ。くっ、殺せ」
「どういう意味よ⁉ あと何で急にくっころなのよ⁉」
「もう、二人とも、また喧嘩するぅ。先輩たちの前なんだよ? そろそろ真面目にやらないと、怒られちゃうよぉ」
それを言ったら、さっきノリノリでズッ友の誓いとやらをやっていた川谷さんも同罪な気がするけれど。それはさておき。
「そうだね。それじゃあ、ここからは真面目に」
僕はそう言って、識那さんの方に視線を移す。
「彼女たちの話だと、都市伝説系の妖怪は三人だけみたい。トイレの花子さんに、メリーさんの電話のメリーさん。それから口裂け女、だね」
「三人とも有名なお話の子たちだね」
「ふふん! そうでしょう、そうでしょう。特にアタシなんて、メリーさんよりずっと有名だもんね。ライバルより一歩リードかしら?」
「目くそ鼻くそでしょ。そんなこと言い出したら、花子はどうなのよ?」
「花子さんは別格でしょ! アタシたち程度じゃ勝負にならないわ!」
「そ、そんなことないよぉ……二人の方が有名だよぉ……」
「……ともかく、彼女たちと話してても問題無いよね。相手、妖怪だし」
僕の言葉に、識那さんがキョトンとする。
しかし、次の瞬間にはパッと表情が変わった。
「ちなみになんだけど、三人は人間の男性と恋愛とかしたりする?」
「え? しないわよ」
「人間なんて、脅かしてナンボですもの。それ以外は興味無しね」
「アタシの語尾、取らないでよ⁉」
「は? さっきから全く使ってないでしょうが。それ以前に真似してないわよ、たまたまよ。誰があんたみたいなのの真似するかってぇの」
「なんですって⁉ くうぅ……こうなったら意地でも使ってやるしね! 今後はこのキャラで死ぬまでやってやるしね!」
そうして滝村さんと口咲さんがギャアギャアと騒いでいたのだが、その横で花子さんが何やらモジモジとしていることに気付く。
どうしたのだろうと僕が視線を向けると、何故か彼女は頬を赤らめてあからさまに目を逸らしてしまう。
「……光明君?」
「え? いや、僕に振られても。なにがなにやら……」
「命の、恩人。ヒーロ……」
「おーっと識那さん⁉ そういえば新学期になってからデートしてないよね⁉ 僕、もっと識那さんとイチャイチャしたいなァ⁉ 今度デートしようよ、デート! ねえ、いいでしょう⁉」
「ふぇっ⁉ 急にそんな大声で、どうしたの? は、恥ずかしい……」
僕の黒歴史を識那さんに知られるわけにはいかない。
その一心で、僕は全力で川谷さんの声を遮ろうと躍起になるのであった。
あんなの識那さんに知られたら、もう生きていけないよ、トホホ……。