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q136「新たなる都市伝説とは」



「あたし、メリーさん。今、月の裏側にいるの」


「初っ端が遠すぎる⁉」



 川谷さんとの一件が落ち着いた某日。

 僕のスマホに見知らぬ番号から電話がかかって来る。


 それに出てみたところ、内容は意味不明で。

 だがしかし、そのフレーズには聞き覚えがあった。


「えっと……?」


「あたし、メリーさん。今、東京タワーの天辺にいるの」


「月から転移した⁉ というか、危ないから地上に降りてくれる⁉」


 先日、川谷さんがそうだと発覚したばかりだというのに。

 どうやら今回のこれ、類が友を呼んだらしい。


「というか、メリーさんだよね? 都市伝説の」


「……あたし、メリーさん。今、東京タワーの一階にいるの」


「無事に地上に降りられたんだね。どこまで本当のことか分からないけど、とりあえずひと安心だよ。できれば地上限定で移動してほしいかな」


 そう、メリーさんの電話である。

 都市伝説といえばコレというベスト5に入りそうな、超有名どころだ。


 この都市伝説はメリーさんの姿こそ多種多様なパターンが在れど、起きることに関しては大体同じような感じで。メリーさんからかかって来た電話に出ると、彼女から「わたし、メリーさん」と定型文を聞かされた後で「今、〇〇にいるの」と現在地を伝えられるというものだ。

 そして電話は何度もかかって来て、その度に現在地が徐々に自分に近付いて来るのである。最終的には「今、あなたの後ろにいるの」となり、振り返るとメリーさんに殺されたり食べられたりするのがお決まりなのだ。


「あたし、メリーさん。今、柳谷家の玄関前にいるの」


「接近の仕方が雑じゃない⁉ 徐々に来てもらわないと怖さが半減するよ⁉」


 ある意味、急に自宅の前にいると知らされるのも怖いのだが。

 それだと恐怖ではなく驚きが勝るので、もう少し刻んでほしかったなァ。そう思いつつ、僕は部屋を出て玄関へと歩き出す。


「まあ、来てしまったのは仕方がないか。今、玄関を開けるね」


「あたし、メリーさん。玄関開けたら、足の爪剥がしちゃうぞ☆」


「急にどうしたの⁉ 怖さの方向性が急展開したけど⁉」


 僕の知っているメリーさんの電話と違う。

 そこまで来ておいて開けるなとは、何がしたいんだろう。


「あたし、メリーさん。玄関開けたら、脛毛抜いちゃうぞ☆」


「足の爪剥がすよりマシだけど、男性には拷問だね」


「あたし、メリーさん。玄関開けたら、膝カックンしちゃうぞ☆」


「急にショボくなったんだけど⁉ ただの小学生の悪戯じゃない⁉」


「あたし、メリーさん。玄関開けたら、お尻に浣腸しちゃうぞ☆」


「それは小学生の悪戯の方かな⁉ もしも医療行為の方だったとしたら、玄関先では絶対にやっちゃ駄目だと思うよ⁉」


「あたし、メリーさん。玄関開けたら、ヘソのゴマ取っちゃうぞ☆」


「さっきから行動に脈絡が無いんだけど⁉ 凶悪な拷問だったり可愛い悪戯だったり、温度差が酷すぎやしないかな⁉」


 本当に意味が分からない。そして何がしたいかも分からない。

 だが、そこで僕はあることに気付いた。


「……あれ?」


「あたし、メリーさん。玄関開けたら、脇腹(くすぐ)っちゃうぞ☆」


「もしかして、これって……」


「あたし、メリーさん。玄関開けたら、腋毛引き抜いちゃうぞ☆」


「あ、やっぱり」


 メリーさんが言っている意味不明な台詞。

 だがそこには、とある法則性があったのだ。それは、徐々に体の下から上へと上がってきているという点だ。


「あたし、メリーさん。玄関開けたら、首筋に息吹きかけちゃうぞ☆」


「……」


「あたし、メリーさん。玄関開けたら、唇奪っちゃうぞ☆」


 やはり、足下から始まったそれが上半身を経由して頭まで達した。

 即ち彼女の目的は恐らく頭部である。それが分かったところで何かできるわけじゃないけどね。あと急にセクハラになってない?


「あたし、メリーさん。玄関開けたら、耳元で愛を囁いちゃうぞ☆」


「首の辺りから急に方向転換したね? 主にセクシャルな方向に」


 ちょっとドキドキしつつ、僕は玄関へ辿り着いてドアノブへと手を伸ばした。べ、別に期待なんてしてないんだからねっ?


「あたし、メリーさん。玄関開けたら、両目をくり貫いちゃうぞ☆」


「セクシャル違った⁉ 猟奇的になっちゃった⁉」


 両目をくり貫かれても僕なら大丈夫だが、やはり怖いものは怖い。僕は伸ばした手を引っ込めて、玄関のドアから一歩後退った。


「あたし、メリーさん。玄関開けたら、眉毛剃り落としちゃうぞ☆」


「ある意味で一番厄介⁉ 外歩けなくなるから止めてくれるかな⁉」


「あたし、メリーさん。玄関開けたら、髪の毛(むし)っちゃうぞ☆」


「せめて切るか剃るかでお願いします! 痛いし両親が泣くから!」


「あたし、メリーさん。玄関開けたら……」


 と、そこまで来て、それ以上が無いことに気付いた。

 髪の毛まで来たのだから、あとは上に行くことはできない。さてどうするのかと、僕は興味津々で耳を澄ませる。


「玄関開けたら……あなたの全てを奪っちゃうぞ☆」


「えっ?」


「あなたのハート、あたしにくれますか?」


 その台詞と同時に、玄関のドアがキィと音を響かせて開く。

 するとそこには、見知らぬ少女が立っていた。


「……えっと」


「……あたし、メリーさん。今、あなたの目の前にいるの」


 耳に当てた電話と目の前の少女から、同時に声が聞こえた。

 その可愛らしい少女から出そうにない、野太い声が。


「お兄ちゃんの全部、あたしにちょうだい?」


 そう言って、少女は真っ赤な目で僕を見つめた。

 その口は見る見るうちに裂け、僕を丸飲みにできるほどの大きさに広がる。そして少女の両手両足は蜘蛛の脚のように変化し、僕の方へと伸びた。



「いただき、まぁす☆」



 悍ましい口腔が僕の視界を覆った。

 その情景に、僕は――――





「とりあえず玄関先だと何だし、僕の部屋でいいかな?」


「色々台無しなんですけどぉ⁉ 少しくらい怖がってよぉぉぉ‼」





 ――――実にマイペースに、メリーさんを招き入れたのであった。



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