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q132「ペット自慢とは」



 天野先輩の家へ訪問するイベントが終わり、日常が戻って来た。


 先輩の意図は未だによく分からないが、どうやら満足してもらえたようで。暫くは大人しいだろうから、ひと安心である。

 たまに識那さんと一緒に遊びに行ってお喋りすれば、ガス抜きになるかな?



「お疲れ様。そろそろ落ち着いてくる頃だな」



 部活動の仮入部期間が終わりに近付くと、生徒会への要請も減少した。

 ここから先は本入部。それぞれの部活動が本格始動し、新入生たちもその一員として励んでいくのである。


 そうなれば僕ら生徒会の手助けは最小限になるだろう。

 まあ、僕らと言っても、僕は生徒会役員じゃないけどさ。


「よかったですね、参田会長」

「これで平常運転に戻れますね」

「あー、疲れた。一生分働いた気がするわ」

「でもさ、特に大きなトラブル無く終わってよかったよね」

「ははは、ありがとう。皆が頑張ってくれたおかげだよ」


 生徒会メンバーにも安堵感が広がり、一件落着ムードだ。

 これから先は運動部の総体や中間テスト、体育祭などイベントが待っている。


 僕は帰宅部だから部活は関係無いけれど、イベントの準備で生徒会に協力する機会はまだまだありそうだな。

 そんなことを考えつつ、僕も一件落着ムードに混じって皆と笑い合う。




 ――――それから数日後。生徒会の手伝いがすっかり落ち着いたタイミングで、灰谷君から妙なお誘いがかかった。


「来たよ、灰谷君」


「おう、いらっしゃい。コーメイ」


 休日に彼から遊びの誘いが来るのは日常茶飯事だが、今回は何が妙かというと、そこに僕たち以外の人間がいたからだ。

 しかもクラスメイトや同学年ですらない。そこにいたのは、先日生物部で会ったばかりの二人だった。


「こ、こんにちは、先輩」

「先日ぶりね……いえ、先日ぶりですね」


「やあ、こんにちは。川谷さんと滝村さんだっけ」


「はい」

「そうよ」


 何の因果か、僕は今、件の黒歴史の二人と一緒に灰谷君の家にいる。

 生物部の部室でこのメンバーなら分かるけど、この場所では違和感しかない。灰谷君ってば、本格的にハーレムルート入ったのかな?


「で、どういう集まりなの? これ」


「うん? 説明しただろ。俺の家で動物たちを愛でる会だよ」


「だから、どうしてこのメンバー? 君と彼女たちだけならまだしも、何で僕?」


「なんとなくだ。あまり気にするなよ」


「気にするよ。謎過ぎるでしょ」


 灰谷君の意図が分からないが、たぶん下級生の女子だけだと間が持たないとでも思ったのか。あるいは倫理的に問題ありと考えたのかもな。

 いくら可愛い後輩とはいえ、彼は人間嫌いだからね。会って間もない子たち相手では緊張するのかもしれない。


「まあ、別にいいけどさ」


「サンキューだぜ、親友。それじゃあ早速、見に行こうか」


「うん。そういえば僕もマジマジと見るのは初めてかも」


 そう言って灰谷君が案内してくれたのは、彼の動物(ペット)部屋。

 今日の目的は主にこれ、後輩たちにペット自慢をするためらしい。


「わあ! すごいです!」

「本当に凄いわね。小さなペットショップみたい」


 部屋の中には、様々な動物たちが所狭しと並んでいた。

 メジャーなところだとハムスターやウサギ、インコやリクガメがいる。奥の水槽には金魚や熱帯魚、トカゲやカエル、あと虫の姿まで見える。


「そういえばコーメイは苦手な生き物いるか? 二人は何でも大丈夫らしいが」


「ううん、僕も大丈夫だと思う」


「そうか、よかった。なら全部見せていいな」


「……見てみないと分からないけどね。とりあえず鼠とかある程度の虫までは受け入れられると思う。たぶんだけど」


 普段から妖怪なんて見ているわけだから、大抵の虫なら全く問題無いだろう。

 けれど、僕にとって未知の生物(ペット)だってたくさんいるわけで。出された瞬間に思わず「ヒェッ」と悲鳴をあげない自信は無い。


「まあ、とりあえず自由に見てくれ。揺らしたり叩いたりしなければ問題無い」


「うん、分かった。それにしても凄い数だね」


「学校に預けてるのもいるから、これで全部じゃないけどな」


「末恐ろしいね。世話しきれるの? 苦痛じゃない?」


「動物好きにとって、世話するのは喜びでしかないぞ。お世話させてもらってるのに、幸福以外の感情なんてあるわけないだろ?」


 隣で後輩二人もウンウンと頷いているけれど、そんなことはないと思う。

 ペットの飼育だって大変な時や辛いことだってあると思うし、全てが幸福だと言い切るこの三人は特殊な部類の変態……ではなく愛好家ではなかろうか。


「そ、そっか。それにしても色々いるなァ。これは何?」


「チャイニーズハムスターだ。尻尾が長い、珍しいハムスターだな」


「へえ、ハムスターって尻尾が無いと思ってた。こっちの水槽は?」


「アベニーパファーというフグの仲間だ。可愛いだろ」


 僕が次々と質問すると、灰谷君は嬉々として答えてくれる。

 面倒臭いどころか、もっと質問しろと言わんばかりの圧が感じられる。


「あ、レオパですね。芸能人でも飼っている人がいますよね」

「こっちはイエアメガエルね。前にペットショップで並んでいたわ」


「そう、レオパことレオパードゲッコーは和名をヒョウモントカゲモドキと言ってね。爬虫類の中では簡単に飼える種類だから有名人でも飼育者は多いみたいだよ。モルフと言って多種多様な色や模様があって、好きな人は自分で掛け合わせて新しいモルフを生み出したり……」


「灰谷君、ストップ。熱量がヘビーすぎるよ」


「おっと、すまん。イエアメの説明が疎かになってたな」


「違う違う。そういうことじゃなくて」


 僕は慣れているからいいけど、後輩たちはドン引きするのでは?

 そう思って彼女たちを見るが、二人ともペットに夢中で特に気にしていないようだ。もしかしたら部活で慣れたのか、そもそも話を聞いていないのか。


「わあ! 蛇もいるわよ、ねえ花子!」

「こ、こっちには(サソリ)とタランチュラもいるね」


「えっ⁉ 灰谷君、それって違法なんじゃ……」


「なんでだよ。蛇も蠍も蜘蛛も、普通に飼って大丈夫な種類だぞ」


「え? そうなの?」


 灰谷君の説明によると、有毒生物でも危険な種類でなければ誰でも飼えるらしい。僕が勝手に抱いていたイメージは誤りで、実際は蠍もタランチュラも人を殺すような毒は持っていなくて、変に刺激しなければ安全に飼えるとのこと。

 蛇も同様で、ペットスネークの一部は噛むことすら稀だとか。


「まあ、種類によってはマジで危険だけど。そういう種類はそもそも一般向けに輸入すらできないから、俺たちが出会えるのは動物園の類いだけだぞ」


「……ここにはいないよね、そういうの」


「いるわけないだろ。俺をなんだと思っているんだ」


 そうは言うけど、灰谷君って動物のためなら何でもしそうなイメージがある。

 流石に高校生が危険生物を入手できないだろうけど、路頭に迷っている危険生物がいたら即決で保護しそうなんだよね、彼の場合。


「ねえ先輩? このタランチュラって触ったらヤバいの?」


「噛んで来ないから、ヤバくはないかな。けどタランチュラって牙の毒は大したことないけど刺激毛って特殊な毛を飛ばして来るから実はそっちが厄介なんだよ。肌に触れると痒みが止まらなくなるし知らない人も多いけどタランチュラの種類によってはすぐ飛ばして来るから触るのは止めておいた方が……」


「は、灰谷君? ここにある砂は何? 生き物はいないの?」


「お? それは砂漠に住んでいるトカゲの一種だな。基本的に砂に潜っているから、姿が見えないだけで生きているぞ」


「そっか、ありがとう」


 灰谷君のスイッチが再び入りそうだったので話を逸らしてみたけど、これは骨が折れるなァ。もしかしたらこれを心配して僕を呼んだのか?

 そう思って後輩たちに視線を向けると、彼女たちは我関せずでそれぞれ好きなペットを見て回っていた。さっき質問したの君たちだよね?



 これなら僕はあんまり必要無かったのかと感じながら、もっと聞けオーラを放つ灰谷君に付き合って僕は暫く飼育部屋で過ごしたのだった。

 どの子も可愛いけどさァ……いったいこれって何の時間なんだろうね。



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